アベノミクスの成果が振るわないため、安倍晋三首相が最も自信を見せていた成果(円安の促進、消費者物価の引き上げなど)の一部にも徐々に反発が生まれつつある。この反発の動きは、中小企業の企業団体や自民党内の有力リーダーたちにまで広がっている。

問題はアベノミクスが国民の生活を改善できていないだけではなく、一部の人々にはマイナスの影響を与え始めていることだ。為替による物価の上昇が隠れみのとなり、アベノミクスが原因で所得が日本から海外の石油王や電子機器メーカー、農家へと移転している。日本の家庭や中小企業から国内の大企業や株主へも、同様の現象が起きている。

安倍首相はアドバイザーたちから円安を推進することで日本の輸出が促されるとの進言を受けていた。インフレに戻すことで企業が投資や雇用のほか、賃金も増やすともアドバイスされていた。

約束はどれも実現されていない

彼は2014年1月に書いた記事の中で次のことまで約束している。「『賃金サプライズ』……は、図柄を変える。5兆5000億円に上る大規模刺激策と相まって、消費増税による反動減の埋め合わせに貢献するだろう。より重要なことに、日本経済を持続力ある成長軌道へ乗せ続けていくのに資するだろう。これらの点に関し、私には強い確信がある」。だが、約束はどれも実現されていない。

実質的な輸出量(自動車の台数、電子部品の点数など)は、安倍氏が再度首相の座に就いた時点から増えていない。むしろ自動車メーカーやエレクトロニクス企業の海外移転は続いている。ホンダの全世界での自動車生産のうち、国内比率は22%にすぎない。

一方で円安により、消費者や中小企業による支出が増加した。実際、消費増税を除けば、消費者物価上昇の最も重要な要因は円安にほかならない。しかし、賃金やその他の収入は物価上昇や増税に追いついていない。その結果、平均的な労働者家庭の実質所得は01年から10%減少している。減少のおよそ半分は安倍政権下で起こっている。

その政治的な結果が、上述したようなアベノミクスの主要部分に対する反発なのだ。日本商工会議所の調査では、会員企業の38.8%が1ドル=100~105円のレートが望ましいと回答し、30.5%がさらに円高の95~100円の水準を選択している。円安による悪影響が大きすぎるとして、自民党の二階俊博総務会長は日本銀行に金融緩和策の変更を求めている。

安倍首相は10月3日の国会で、大企業や輸出業者は円安で得た利益を中小企業に還元すべきであると発言しているが、実質賃金の引き上げ勧告と同様、事はそんなに簡単な話ではない。

消費増税の悪影響は2カ月で収まらなかった

財務省および日銀は安倍首相に対して、消費税の引き上げが経済に悪影響を及ぼす期間は1~2カ月を超えないと約束していた。だが、その約束もまた結局はウソに終わった。安倍首相自身のアドバイザーのキーマンの1人である本田悦朗内閣官房参与(静岡県立大学教授)は、日本は「不況の一歩手前」であると懸念しており、2度目の消費増税を延期するよう首相に進言している。

アベノミクスの仕掛け人の1人であり、首相を09年から指南している山本幸三衆議院議員も同じ主張だ。先日、ほかの国会議員に対して「今の経済指標から見れば、予定どおりやるのは無理だ。1年半くらい延ばしたほうがいい」と発言している。本田教授の見解と自身の主張のすり合わせについても言及している。

予定どおり10%への消費増税を進めさせるために、財務省および日銀が安倍首相に主張している主な内容の1つは、増税を行わなければアベノミクスが失敗に終わったと認めることになってしまう、というものだ。

過去の過ちを認めたくないがために間違いを継続するというのは、かつて福島第一原子力発電所の護岸をより高くするべきとの声を無視した際の東京電力の思考と同じものだ。