映画「ターミネーター2」に登場した「T-1000」という敵役のターミネーターを覚えているだろうか。

液体に固体にと自由自在に姿を変え、シュワルツェネッガー扮するターミネーターにどれだけ破壊されても瞬く間に自己修復。淡々と主人公たちを追跡する様は、今でも映画のハイライトの一つとして語られている。

さて、敵役にもかかわらずその特異な能力で大きなインパクトを残したT-1000だが、最近になってマサチューセッツ工科大学のエンジニアによって開発された新素材が、T-1000の能力を再現するものだとしてにわかに話題になっている。

コストパフォーマンスに優れた新素材
この素材を開発したのは、MITのAnette Hosoi教授と、彼女の元教え子であるNadia Cheng氏だ。彼女らは蝋とポリウレタンゴムというホームセンターでも簡単に手に入る素材を使い、Tー1000のように軟体状態と固形状態を自由自在に行き来できる素材を開発した。

MITが開発した新素材ということで、やはり最先端の技術を駆使しているのかと考えがちだが、作成方法は至ってシンプルかつコストパフォーマンスに優れたものとなっている。

というのも、今までに類を見なかった素材なのにもかかわらず、ウレタンゴムで作った枠組みに電極を組み込み、そこへ溶かした蝋をしみ込ませるだけ。家庭でも簡単にできてしまいそうな作成方法なのだ。

さらに、軟体と固体の切り替えを行う仕組みも単純なものだ。電極を通して蝋を加熱すれば蝋が溶けて軟体化し、加熱を止めて時間を置けば冷えて固形化。ごくシンプルな仕組みになっている。

驚くほど簡単に制作できる今回の新素材だが、Hosoi教授によると、生産コストをできるだけ抑えるというのがプロジェクトの目的の一つだったそうだ。

同教授は、「新素材を開発するとどうしても値段が高くなりがちなのが難点。でも、今回の素材はホームセンターで安いポリウレタンゴムと蝋を買うだけでできるんですよ」とMITのWebサイト上で語っている。

T-1000を彷彿とさせる自己修復能力
コスト削減を目標の一つとして開発されたこの素材だが、軟体と固体を行き来できるだけでなく、T-1000の代名詞とも言える自己修復能力も備えている。

Hosoi教授によると、不測の事態によって蝋のコーティングがはがれても、加熱して軟体状態にしさえすれば溶けた蝋が問題の個所を修復するそうだ。

医療用や救助用ロボット開発への期待
同教授によると、今回制作された素材は形状変化と自己修復能力を備えているものの、あくまでも試作段階だという。

そのため、MITの開発チームは他の材料を使った改良型新素材の開発にも力を入れているそうだ。

だが、目標はあくまでも軟体と固体を自由に行き来できる素材を低コストで実現すること。Hosoi教授らは内臓や血管を傷つけることなく体内を動き回れる医療用ロボットや、崩れたガレキなどの隙間をぬって事故や震災の被害者を助けられるレスキューロボットの開発に活用できる素材の開発を目標にしているという。