多くの方が、自分のマンションを買うときに「10年後(あるいは20年後)はいくらで売れるだろう?」と考える。

 これまでの時代、マンションは非常に換金性が高い金融資産のようなものだった。いざとなれば売って現金にすることができたのである。大都市の都心においては、今でもそうである。

 来年から、相続税の課税基準が変わる。場合によっては、これまでの2倍程度の相続税を納めなければいけないケースもある。5000万円程度の資産を相続する場合でも、相続税を納めなければならない事例も出てくるだろう。「ウチは大した資産がないから安心」の時代は終わったともいえる。

 巷でささやかれる有効な対策としては、評価額の圧縮。都心のタワーマンションを購入するのがいい方法だとされている。例えば、2億円の現金があるとする。キャッシュで持っているより、1億円のタワーマンションを買い、仮にその物件の相続に関する評価額が3000万円にでもなれば、相続税はかなり圧縮される。タワーが人気なのは、高層の大規模物件であればあるほど、土地の持ち分が低くなるので、評価額も低く抑えられるためだ。

 日本における個人の金融資産は1500兆円とも言われている。GDPの3年分以上。目もくらむような金額だ。首都圏で1年間のうちに供給される新築マンションを700年分買い続けることができる。

 その一部が都心のタワーマンションを買いにきている。それは売れるはずだ。

 しかし、冷静に考えてほしい。1億円の金融資産の評価額を3000万円に圧縮して、相続税も数百万円軽減できたとしても、そのマンション自体の資産価値が1000万円も下がってしまえば、結局のところ損をしたことになる。いつ発生するか分からない相続のために、都心のタワーマンションを購入するのには、それなりのリスクが伴うのだ。

 タワーマンションといえども、住む人がいて機能する。それに対価を払う人があるから価値がある。当然のごとく、その価値は需要と供給の関係で決まる。決して元本保証の金融資産ではない。

 今、不動産市場は活発である。東京でも大阪でも、都心ではオフィスビルから区分所有のマンションまで、多くの物件の取引が成立している。価格も目に見えて上昇。はっきり言うと、「ミニミニバブル」の状態だ。

 しかし、バブルはいつかは終わる。そうなれば、価格は今よりも下がるはずだ。1億円で買ったタワーマンションをうまく相続できたとして、売る時はいくらになっているのか。

 人口が減り、住宅は余っている。マンションを売りに出せば、短期間で売れる時代は過ぎつつある。現に郊外の駅から遠いマンションは、買い手を見つけることさえ困難だ。

 これからの時代、都心のタワーマンションといえども、盤石の金融資産ではない。常に減価の可能性を秘めたリスク資産であることを認識すべきだろう。中長期で見れば、決して効果的な相続税対策とは思えない。