投資ファンドに買収された外食企業の転売が相次いでいる。

 今月7日、居酒屋「甘太郎」などを運営するコロワイドが、焼き肉店「牛角」を展開するレックス・ホールディングスの株式66・6%を取得すると発表した。レックスの経営権は投資ファンドのアドバンテッジパートナーズからコロワイドに移る。

 8月下旬には回転ずしのあきんどスシローがユニゾン・キャピタルからペルミラへ、昨年10月にはファミレスのすかいらーくが野村プリンシパル・ファイナンスからベインキャピタルへ、それぞれ売却されている。アドバンテッジが出資するカフェチェーンのコメダも売却のうわさが飛び交っている。

 世界的なカネ余りを背景に、2005~08年に日本でも投資ファンドによるM&Aが活発化。外食業界でもいくつかのディールが行われた。ここに来てファンド傘下の外食企業の転売が相次いでいるのは、「出資から5年以上が経ちイグジット(出口戦略)の時期を迎えているから」とファンド関係者は説明する。

ファンド間で明暗クッキリ

 ただ、同じ時期の転売でも案件ごとに明暗が分かれている。

 スシローの場合、ユニゾンによる最初の出資は07年8月。08年のTOBを通じて09年に完全子会社化、株式取得に総額221億円を投じている。その後、スシローはメディアへの露出増加などで店舗当たりの売上高を拡大、積極出店も相まって、「かっぱ寿司」を展開するカッパ・クリエイトホールディングスを抜き、回転ずし業界で首位に立つ。

 今回、売却に当たってユニゾンは750億円を提示したといわれる。話を持ちかけられた回転ずし大手は、「業界トップとはいえ高すぎる」(同社幹部)と見送った。が、複数のファンドが競り合った末、総額10億ドル(約800億円)でペルミラが買収した。

 「スキームの詳細が不明なので確定的なことはいえないが、ユニゾンにとっては成功ディールといえるだろう」(M&A実務に詳しい早稲田大学大学院の服部暢達客員教授)

 ペルミラは欧州系の投資ファンドで、日本では08年の農薬大手アリスタライフサイエンス社の買収に続く2件目となる。日本法人となるペルミラ・アドバイザーズの加藤有治代表取締役は、「成長する回転ずし業界の中で、業界首位というスシローのポジションは魅力的だった」と高値応札の理由を語る。

 国内の外食市場は1997年の29兆円をピークに、現在は23兆円と縮小が止まらない。その中で、100円回転ずし市場は数少ない成長市場で、中でもスシローは近年2ケタ増収を続けているからだ。

 「国内事業の強化と海外展開の加速を支援することで一段の成長を図りたい」(加藤氏)。とはいえ、高値で競り落とした以上、イグジットまでのハードルは高い。

 一方のレックス。06年にアドバンテッジがレックスの西山知義社長(当時・現会長)とMBO(マネジメント・バイアウト)を実施。アドバンテッジは株式取得に約460億円投じた。

 しかし、BSE(牛海綿状脳症)による焼き肉離れなど本業の不振が長引いているうえ、MBO時の有利子負債の金利負担が加わり、業績は低迷。09年度には「am/pm」の売却損などで187億円の最終赤字。10年度も最終赤字で債務超過は251億円まで膨らんだ。

 11年度は食品スーパー「成城石井」の売却で108億円の最終利益を計上したものの、依然として141億円の債務超過だ。06年度に1618億円あった売上高も現在は半分以下の746億円まで縮小している。

 今回のディールでは、アドバンテッジは株式を売却せず、通常の貸付金より返済順位が劣るメザニンローンをコロワイドに売却することで一部資金を回収した。トータルの収支はまだ出ていないが、成功案件でないことだけは確かだ。

 レックスを傘下に収めたコロワイドは居酒屋「甘太郎」「北海道」、ファミレス「ステーキ宮」などを展開する大手の外食チェーン。11年11月に新たなセントラルキッチン(食材仕込み工場)を建設している。コロワイドの野尻公平社長は「食材の調達や仕込みの共通化で20億~30億円のコスト削減が図れる」と相乗効果を期待する。

 「コメダ珈琲店」をFCで展開するコメダも、アドバンテッジの出資から5年以上が経過。その間、店舗は3割増の430店に達した。提示金額は200億円以上とも伝えられており、「外食企業が出せる金額ではない」(大手カフェチェーン関係者)と語る。手を挙げる事業会社は出てくるのか。現れなければ、ファンドへの転売となるだろう。

 昨年、ファンドからファンドへ転売されたすかいらーくは、当初こそベイン傘下でキッズプレート39円など思い切った価格攻勢を仕掛けたが、最近は沈黙している。

 外食市場に拡大が望めない以上、事業会社であろうとファンドであろうと、高値で買えば茨の道が待っている。一連の買収の正否は数年後に明らかになる。


ビッグパンダの日記