「強姦された」。こんな告訴状の写しをインターネットの掲示板「2ちゃんねる」に掲載したとして今年1月、名誉毀損容疑で自称パート従業員の女が大阪府警に逮捕される事件があった。“犯人”として名指しされたのは、お笑いコンビ「アンガールズ」の山根良顕(よしあき)さん(36)。今月4日、大阪地裁で開かれた公判に証人出廷し、「合意の上での性行為だった」と強姦の事実を全面否定した。もともと派遣型風俗店の従業員と客として出会った2人の間に何があったのか。

「了解取って性行為」

 「相手に了解を取った上の性行為だった。無理矢理になんてしたことがない」
 4日午後、大阪地裁の法廷。ついたてで囲まれ、傍聴席からは遮蔽された証言台に立った山根さんは、緊張した声色ながら丁寧な口調で強姦の事実をきっぱりと否定した。

 弁護人横の被告席には、黒いパンツスーツに身を包んだ自称パート従業員の河本順子被告(33)が座り、自らの主張と真っ向から対立する山根さんの証言を落ち着いた様子で聞き入った。

 名誉毀損事件の流れはこうだ。

 河本被告は昨年8月、大阪府警淀川署に山根さんに強姦されたとする内容の告訴状を提出。さらに同年9月、神戸市内の自宅から、告訴状をインターネットの掲示板「2ちゃんねる」に掲載し、今年1月に名誉毀損容疑で逮捕された。

 5月、大阪地裁で開かれた初公判では、告訴状をネットに掲載した事実は認めながらも、「強姦されたという事実を広く知ってもらおうと思った」として名誉毀損には当たらないと主張していた。

デリへルで出会い…

 2人はいつ、どうして出会い、どのような関係だったのか。法廷で山根さんの証言は続いた。
 2人が初めて出会ったのは平成21年11月26日、大阪市内のホテルだった。「ストレス解消のため」と派遣型風俗のデリバリーヘルスを利用した山根さんの部屋をデリヘル嬢だった河本被告が訪れた。

 「アンガールズの山根さんですね。こんなところにも来るんですね」

 河本被告は気さくに話しかけてきた。音楽や写真などの話をした後、オイルマッサージをされている途中で、山根さんは「したくなっちゃった」と性交渉を求め、河本被告も「じゃあしようか」と応じたという。

 「音楽などの話をいろいろ知っていておもしろい人だと思った。仲良くなりたい」。山根さんは河本被告に好印象を抱き、メールアドレスを交換した。

 翌日、再び大阪を訪れ、「話をしたい」と河本被告を呼び出す。河本被告は山根さんがちょうど食べたいと思っていたたこ焼きと心理学の本を持って、宿泊先のホテルまでやって来た。

 「自分は恋愛が苦手という話をメールでしていた。心理学の本は、それを解決するための手助けとして持ってきてくれた」(山根さん)

 この日は2人で互いに恋愛相談をした。「優しい男性が周りにいない。お姫様だっこやおんぶがしてほしい」と甘える河本被告に、山根さんが「おんぶくらいならしてあげられる」と、ホテルの一室でおんぶをしてあげることもあったという。

芽生えた違和感

 自分が大阪に来たときには食事ができたりすればいい。交際や結婚は考えていない-。そう漠然と考えていた山根さんだが、河本被告の行動は徐々にエスカレートしていく。

 同じ年のクリスマスイブ。広島市内で行われた山根さんの握手会に河本被告は姿をみせた。事前にメールで連絡はあったが、仕事をしているところを知り合いに見られるのは恥ずかしく、「交通費もかかるし、わざわざ来なくてもいいんじゃないか…」。言いしれぬ違和感が芽生えた瞬間だった。

 そんな微妙な思いが伝わったのだろうか。

 翌22年1月、河本被告から「ヤリ捨てしようとは思ってないよね」とのメールが届いた。そのときは「そんなことは思っていない」と返信したが、同月、大阪市内で会ったときに寝顔の写真を撮られたことで“亀裂”は決定的になった。

 「タレントとしてイメージが落ちることに写真を使われるのが恐かった。あまり会いたくないなと思うようになった」

 とうとう河本被告との接触を避けるようになる。

芸能界引退も…

 河本被告の行動はさらにエスカレートし、同年6月ごろからは「ヤリ捨てされただけ」「死にたい」などのメールが届くようになった。PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が出たとして治療代も求められた。

 山根さんは「そんなに思い悩ませてしまったのか」と思い、自ら治療代を支払おうとしたこともあった。河本被告のブログにも「殺してやりたい」と書かれるに及び、「刺されたりということもあるのか」と恐怖感を覚えた。ついに所属事務所が前面に立って示談交渉を行うことになった。

 そして23年8月の強姦での刑事告訴、翌月には告訴状がネット上に掲載されるという異常な事態に。マネジャーからそれを知らされたときの心境について、山根さんは公判で「ショックだった。刑事告訴がネットに公開されることで、大勢の人が知るようになった。追いつめられた気持ちになった」と振り返った。

 すでに決まっていた仕事が減るなど影響も大きく、一時は芸能界からの引退も考えた。だが、家族やこれまで支えてくれた人に迷惑がかかると思い、「ここで終わらせると強姦についても本当かどうか推測されてしまう」と危機感を抱き、名誉毀損罪での刑事告訴に踏み切ったという。

 山根さんの尋問は、検察側と弁護側合わせて1時間半で終了。その間、河本被告は終始落ち着いた様子で弁護人の横でメモを取り続け、時折、うつろな目で山根さんの方を眺めていた。山根さんの仕事先にも押しかけ、拒絶されると「死にたい」とほのめかすほど執着をみせた頃からはほど遠い姿だった。

 被告人質問は8月1日。心の内を垣間見せてくれるのだろうか。



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