中国の慈善団体に、いま厳しい非難の目がむけられている。きっかけは、超セレブな生活をひけらかしていた郭美美(かく びび)のウェイボー(中国版ミニブログ)だった。

大豪邸に住み、愛車はイタリア製高級スポーツカーのマセラティ。飛行機の座席はファーストクラスで、エルメスのバッグを持ち歩く。こんな生活を、弱冠20歳の郭美美はネット上で自慢していた。今回、批判対象となったのは書き込みの中で「中国赤十字商業経理」という肩書を名乗っていたためだ。あるネットユーザーがこの肩書に注目し「中国赤十字会への義援金が不正に使われているのでは」という疑惑が瞬く間に広まった。

 「郭美美事件」と呼ばれるまでになったこの騒ぎで、ネットユーザーや中国各メディアの独自調査が始まった。その結果「中国赤十字会には、中国赤十字商業系統赤十字会という下部組織があり、義援金を山分けしている」という憶測が広まる。さらに、この下部組織は数社の企業が経営にかかわっていて、公式な組織として役所に届け出ていない任意団体であることも明らかになった。

 郭美美は「中国赤十字会商業経理という肩書はでっち上げで、この愚かな行動で中国赤十字の名誉を傷つけてしまった」と謝罪し、赤十字会も彼女の存在を“否定”したが、時すでに遅しだった。義援金の流用など真相は解明されていないものの、中国では献血をする人が昨年に比べて10%以上減少し、義援金もほとんど集まらなくなっているという。

 そんな中、ネットユーザーは「郭美美」に続いて、新しい疑惑のセレブを見つけ出してしまった。

彼女の名は蘆星宇(ろ しんう)さん(24歳)。中央アフリカ希望プロジェクト執行主席・事務局所の肩書を持ち「蘆星宇=吸血美人マーメイド」のアカウント名でミニブログを立ち上げていた。ネットユーザーたちは、「こんなに若い女性が高い地位についているのはなぜだ?」「なにか特権があるのでは?」「腐敗があるのではないか?」とまたもや疑惑を抱き始めた。

 同じ慈善団体系のセレブとうことで、彼女は「蘆美美」というあだなまでつけられてしまった。

 蘆星宇がトップを務める中央アフリカ希望プロジェクトとは、今後10年以内でアフリカに1000校の学校を建設するというもので、そのために15億元(約180億円)をつぎ込むという壮大な計画だ。プロジェクトは中国青少年発展基金会と世界傑出華商協会が共同で行っていて、蘆星宇の父親である蘆俊卿(ろ しゅんきょう)が世界傑出華商協会のトップを務める。父は資産総額、1億元(約12億円)を越える大富豪だ。

 超セレブ家庭に生まれ、米カリフォルニア州立大でメディア学を学んだ彼女は父親の富と権力を後ろ盾に一大プロジェクトのトップの座についたというわけだ。

 ネットユーザーによる批判が始まると、蘆星宇は「蘆星宇=吸血美人マーメイド」というアカウント名を「蘆星宇・頑張れ」というアカウント名に変え、一部の内容を削除してしまった。さらに「良いことをしているのにどうして批判されなければならないの!」と書き込み、ますますユーザーから反感を買ってしまった。

 寄ってたかって調査をはじめたネット民は、世界傑出華商協会は、表面上では非営利団体を装っているが、実は香港で登記している法的な営利企業であることを突き止めた。また、「寄付金の10%は管理費として中央アフリカ希望プロジェクトが使用する」ことになっていることが発見され、1億5000万元(約18億円)もの大金がどうして必要かとさらに批判が強まった。

これに対し蘆星宇は「私たちは国の規定に従って10%を管理費に使うと定めた」と反論。また、ネットユーザーの「どうして中国国内で学校に通えないような貧しい子供たちがいるのに、アフリカの子供を助けるのか」という質問には「私たちは真心をもって支援をしている。もしあなたが中国の貧しい子供を救いたければ、行動すればいい」とはねつけた。

 一方、父親の蘆俊卿は中国メディアの取材に「娘は慈善事業家になりたいといい、私も賛同したので、援助をしただけだ。それに、彼女は小さい頃から数100人の人にもらったお年玉100万元(約1200万円)を、一番に寄付したんだ」と語っている。

 「郭美美」と「蘆美美」。二人とも20代前半の女性で慈善事業セレブだという共通点はあるものの、いくらかタイプは違うようだ。

 「郭美美」はブログで様々なセレブ生活を紹介しているが、「蘆美美」は海外を飛び回っている書き込みはあるが自慢話はしていない。また、見た目もアイドル系の「郭美美」に対し「蘆美美」は受け答えもはっきりしていて、地方政府の書記官のようだ。ちなみに、「郭美美」はこのたび急激に上昇した知名度にあやかろうとしたのか、ミニブログ上で新曲≪ディンディンガール≫を発表。だが、ネットユーザーからは「信じられない」とまたまた批判を浴びる結果となった。

 こうした全くタイプの違う2人のセレブをきっかけに、中国慈善事業団体には今も疑念の目が向けられている。中国メディアは対照的な性格に移る2人を並べ、「郭美美は直接“慈善事業の売買”に手を染めていないかもしれないが、その恩恵を受けている。蘆美美は、まさにその中に身を投じて、重要な責任を負っている。我々が寄付した金銭は、最終的に郭美美の愛車・マセラティに変わり、その“変わっていく”過程を蘆美美は操っているのだ。端的にいえば、郭美美は蘆美美の手の平で転がされている玩具にすぎないーこれが2人の大きな違いだ」と手厳しく報じている。

 この事件をきっかけに、管理がずさんで不透明だとされる中国慈善団体のあり方はかわっていくのだろうか?



ビッグパンダの日記