山頂近くまで登ってきて、山頂の遥か彼方から懐かしい声が聞こえる。

「マー坊!! どうしたの?」


今回の登山、僕の分相応から考えれば、ラストエントリー。

今までの多くのフォロー、

そして

良子

真由美

由美

美佐子



君たちの支えに

せめてもの懺悔と感謝を背にして登ることにした。



幾度となく登ってきたいろんな山々。

ひとつずつ分相応不相応を確かめながらレベルを上げてきた。

最初は若気の至りで勝気な気持ちが勝って、エゴイズムの感動を味わうために登った。

ただその勝気はすぐさま、大自然の前ではけんもほろろに打ち砕かれ、ハードルも高くなった。

安全に下山して、幾度となく鍛錬して、大器晩成することこそ最良。

更なるチャレンジも、自身の分相応不相応のチェックリストが分時計。

途中挫折して登頂をあきらめたことも必要と理解した。


山々の登山を通して、我を振り返る。

人生の醍醐味は、与えられた命をどう全うするかが最大なるテーマ。

そのためには、自身が努めて自我の克服、また良きパートナーや支えを得ることができるか。

その表裏一体、それぞれの心の葛藤をリスクヘッジできるかが鍵を握っているように思う。



「マー坊! 頂上はもうすぐ あんたなら大丈夫でしょ?」

「はやく登りきって 次の山登り 辛いことも多いけど頑張んなさい!」



聞こえてきたのは大好きな婆ちゃんが彼岸からだった。

「なんや 婆ちゃんかぁ!」

「元気?」

「あぁ 元気だよ!」

「婆ちゃん 今回は最後にして 山頂でたこ焼き屋でもして 登頂の人たちに…」

「マー坊 あんたがそれでいいんだったら いいけど」

「あのこたちどうするの?」

「あのこ?」

今は彼女は?

っていうか親愛なフレンドリーはあれど、僕が欠けると生きていけない彼女は思いつかない。

「マー坊 子供たちだよ」

「子供たち?」

不甲斐ない父親といいながらも、必要最低限度はこなしたつもり。



「子供たちは あんたが婆ちゃんのところに来るときは」

「マー坊の愛しのひとに見送ってほしいって願ってるよ」

「子供たちのお母さんは愛したって過去だけど」

「子供たちは 愛してるって進行形だよ」

「だからこそ あんたが愛しの人から進行形で見送ってもらえればって…」



「婆ちゃん 頂上登らずに 降りるね」



「あぁ!」



「婆ちゃん お袋に内緒にしてね」

「僕を産んでくれた母 子供たち そしてなにより 彼女たちの支えに報いるためにも 頑張ってみるよ」



「マー坊 あんたは人一倍 ワインレッドのように傷つきやすいから 愛しいよ…」

「でも 負けるな 男の子だろ!」







END