第一話【偶然の産物】

第二話【再会がもたらすもの】  作者リンク→作/諒  Produced by 江彰 透

第三話【約束】

第四話【意固地】   作者リンク→作/諒   Produced by 江彰 透

第五話 【心の扉】

第六話 【本当の心】  作者リンク→作/諒  

第七話 【タンパク】

第八話 【想い】  作者リンク→作/諒   Produced by 江彰 透










毎年大晦日は年の瀬もあるけど、自身の人生においても年の瀬。

今年も公私にわたり飽きもせず波乱万丈。

家庭生活を挫折して以降、かれこれ十年がまたたくまに過ぎ去った。

シングルもいつしか板につき、恋愛も不精になり「生きがい」って聞かれれば返答に窮してしまう。



後輩に「先輩 寂しいの?」って、女将さんのところで、何度となく聞かれていた。

「寂しい」から女(ひと)恋しいかと言うと、それもまた違うようなきがする。

でも、春先の入院のときに感じたのは、孤独は耐えることができても、

自分っていう証で、誰かに癒せない寂しさや未練はあるかも知れないと…

だから直接癒やせなくても、せめて幸を願い、信じ、祈ることは精一杯、ついやせたらって思う。


そんな想いにかられながらNHKの行く年来る年をぼっと視ていた。


疲れがたまってるのか、新年を迎えてすぐさま睡魔が押し寄せ寝床に向かった。

寝床の机に置いていた携帯を見ると、受信メールを知らせる赤いランプが点滅していた。

新年早々、「誰やねん」とメールメニューを開くと。



差出人、美恵子。件名、Wでおめでとうございます。

あいつも社交は律儀やなと思いながら内容を開いてみた。


「お好み焼き行きますよ! 只ね元旦は夕方五時からですって」

「だから直接お店で!……のところで五時集合です」


数日前のメール以降、返信がなかったから、てっきり行けへんと思っていたけど、

約束は有効やったのかと。



今まで元旦の誕生日に待ち合わせすることって一度もなく、

どことなくピカピカな小学一年生の気分になっていた。



そして元旦は昼ごろから母と過ごし、夕方まで応接間でうとうとしながらテレビを視ていた。


「あんた 夕飯どうすんの?」

「夕方、地元の後輩と会うから いらんで」

「そう 出かける前 氏神さんにお参りいっときや」

「うーん」



実家から神社は15分、そこから待ち合わせまでは40分ほど。

お参り入れても一時間ちょいほど前に、出かけたらえぇかって…


そしてそろそろ時間になり母親に。


「ほな 行ってくんで」

「はぁ~い」


思春期の記憶を頼りに出かけた。

昔はこの辺一帯は田畑でその中に宅地造成で住宅が立ち始めた地域。

あれから40年ほど、今や田畑を見つけるのが難しいぐらいですっかり様変わり。

昔の面影を呼び起こしながら初詣そして、途中美恵子と一緒の小学校を経由して現地に。



店の入口に美恵子が。


「新年おめでとうございます」


お互い顔をみるなり新年の挨拶。

彼女の先導で、店の座席へと。


「場所わかった?」

「うん」

「この辺も変わったやろ?」

「ほんまやな! ここ来る前に荒田神社初詣して、それから陶器小学校の道からこっち来たで」

「そうなんや じゃ結構歩いたね」



「店さぁ昼からの営業やったら ママも来ててんけど ごめんね」

「ううん」

「先輩 この前しっかりホテルに帰ったんやなぁ」

「そうや 俺どんなに飲んでも 寝床につくまでは しっかり記憶あるんやで」

「そうなんや」

「そやそや 美恵ちゃん あんたなぁ なんで今日の返事、去年してけへんかったん?」

「えぇ 断るんやったら とっくにしてんで わたし」


思わず すねた後輩をみて吹いていた。



ただ切り替えの早い彼女は機嫌取りで。


「アァ- ところで お誕生日おめでとう お祝いないけど…」

「そんなもんいらんわ そやけどこうやって付き合ってくれただけで うれしいで」


程なく注文を聞きに来て、仕切りは彼女におまかせにして。



「美恵ちゃん 正月忙しいのにごめんね」


改まってピカピカの小学一年生のお礼をしていた。そして開放時間を確認していた。


「それと 今日の門限は?」

「娘おるから、あんまり遅くはあかんけど 八時ぐらいまでええよ」

「ほんま そんなに一緒にいてくれんの?」


僕にとっては正月の最中、ランチタイムほどの時間って思っていたから、思わず歓喜の返事をしていた。



その後はお互いの身上の過去話に始まり僕の別れた妻との子供のことや。


「先輩 子供らと会ってへんの?」

「東京にでてから会ってないな!」

「会いたないの?」

「会いたないわけないやろ 特に娘はなぁ…」

「そうやんな!」

「先輩 寂しん?」

「うーん どうやろな?」



話は変わってふたたび。


「あんたさ ほんまに男いらんのか?」

「いらんわ! お客さんと飲み交わしたり 女子会とかで十分やし」

「そやけど 女子会メンバーも彼できたら 減っていくやろ」

「そやけど…」


思わず俯いた彼女を見て、それ以上は突っ込まなかった。



話は再びかわり。


「なぁ 美恵ちゃんの亡くなった親は大阪出身やったんか?」

「ううん 私は大阪やけど お父さんは沖縄でおかあさんは長崎」

「ええ お母さん長崎 ほなうちとこのおかんと一緒かぁ!」


それを知って、両親の年代も近く、またお互い母親の故郷は長崎。

どこか遠い昔からの縁、【赤い糸】とでも言うのか、感じずにはいられなかった。



積もる話があるわけではなかったけど、時を忘れて、攻守交替しながら話していた。

そして…


「先輩 そろそろ 時間」

「ほんまかぁ」


時計をみると確かに

「じゃ 帰ろうか」

「美恵ちゃん がんばってね」


声をかけながら握手を求めた。


「うん」



店のとなりのスーパーで娘の買い物をするからと、スーパーの入口まで一緒に歩き。


「美恵ちゃん ハグしよか?」

「ええ 近所やもん…」

「そっか じゃ もう一度握手」

「はい」


後輩の幸がありますようにと握手を交わして。


「じゃ 気をつけてね」


少しふらつき加減だったけど、気をひきしめて足取りを確かめながら、30分ほどかかる家路に向った。



途中美恵子との出会いからこの日を振り返り。

彼女の人生これからも長続きするだろう。

このままでも十分幸せかもしれない。

大きなお世話といえばそれまでだけど、人の支えの元は男女で成り立ってるように思う。



バランスが崩れた男女関係もあるかもしれない。

小学生のとき運動場にあった楽しかったシーソー。

一人で人生の苦楽を楽しめるのだろうか?

独りでシーソーできるのかな?



生まれるときと死ぬときはひとり。

できるかぎり生きているうちは、楽しいことばかりじゃないけど、

美恵ちゃんがもう一度信じることのできるパートナーと、あの陶器小学校でシーソーをしてほしい。



「もし」はないけど学年はひとつ上の先輩。

ただ生まれ年は同じ、もし同級生なら彼女を強引でも手を引っ張ることができたかもしれない。



「美恵ちゃん 君ならできるはず これからの人生がんばってチャレンジしてね!」



さぁ もう一息俺も頑張って歩こう。



この近くは昔の街道筋で道幅もせまいので、車道はあぶないと思い、

途中から私道にして近道をしていた。あともう少しのところで、

腰からメールの着信音が、立ち止まりめがねをポケットから取り出して確認してみると。



送信者【美恵子】 件名【ご馳走様でした】

「いまどのあたりですか?…」

「気をつけて帰ってくださいね!」



暗い私道だから「うん」と返信してそのあとは家からゆっくりお礼メールしようと…


家路について、応接間で横になると、瞼がいつしか重たくなっていった…





。。。。。。





(陶器小学校一年一組の教室)

「こらぁ! そこの二人なにけんかしてんの?」

「美恵ちゃん どうしたの?」

「先生! 田村君が私の消しゴム半分にちぎって とるんだもん」

「田村君 そんなことしたら あかんでしょう!」

「だって 美恵ちゃんのノート 汚れてるところ 一緒に消してあげようと思って…」

「……」



 

END【第九話】



もうひとつのEND【第十話】

諒さんでつづきます