「あなた! 大丈夫? 起き上がる?」
家内が、調子を崩している僕の枕元に笑顔をとどけてくれる。
「うん 大丈夫だよ!」
「でも、もう少し、横になってるよ」
いつの間にか夢物語の世界へ…
「どう? ちゃんと見えてる?」
僕の網膜の細胞である、また主役、美子がいつものように問いかけてくれる。
「ありがと! 今日も素敵なことが、いっぱい見えてるよ」
彼女のおかげで、老体になるまで、感動を目の当たりにできている。
ただ、今から何年前だろう?
彼女にも危機的な状態があった。
僕の身体のエラー、網膜に危険信号が灯った。
美子を中心とした、網膜細胞の数多くの仲間たち。
僕のエラーが原因、いや僕のわがままのせいで、
新陳代謝できない仲間細胞がいた。
「先生! どうでしたか?」
「このままでは、問題ですね」
「治療しましょう」
「よくなるんですか?」
「いえいえ 良くはなりません」
「ただ、彼女に支障をきたして失明しますよ」
わがままな僕を支えてくれた美子や仲間たち。
その仲間の中心の進君に事情を話した。
「もちろん、平気です」
「遠慮なく殺傷してください」
「だって、彼女を救い、また、あなたに希望が繋がるんでしょう」
こうして、人工的に仲間たちの細胞を見殺しにした。
思春期のころ、生半可なころ振り返って、いかに独りよがりかを身にしみた。
何一つ自身では成り立たない。
それに、いろんな命と引き換えて礎にして、この時を息づいている。
君たちを見殺しにした懺悔、いやそんな反省に留まらず、
命のバトンをしっかり握り締めてこの先を走っていくよ。
そして、ご褒美を必ず持ち帰って供えにくるからね。
「ねぇ! 今日はどんな感動を拾って見てるの?」
「うーん! 進君のおちゃらけを拾ったよ」
「え~ 進君!」
「美子! そっちはもういいから、こっちに来て」
「一緒に、彼たちにご褒美を持って、愛に行こう…」