第三話 「伝書鳩」


昨日、おばさんと電話を切ってからは、一睡もできなかった。

一般のお見舞いは午後からだけど、身内は午前中からでも、

大丈夫って聞いていたから、おばさんの携帯に電話してみた。

「もしもし、おばさん!」

「うん 知美ちゃん!」

「今から行っていい?」

「はい」

しばらく待ち合わせとか話した。

おばさんは、昔から、大阪のおばさんそのもので、丁寧な言葉遣いが苦手なのに、

このときは以外に丁寧な言葉遣いだった。

容態はわからなかったけど、ヨシコの好きな果物を買って、病院に向かった。

ヨシコが小さいころ入院した病院だったから、勝手しったるロビーに着いて、

おばさんを探したけど・・・

「あれ、電話したときは、ロビーにいるって言ってたのに?」

もう一度、くまなく探したけど、見当たらない。

そのとき、ふと公衆電話の前の小さな椅子に、

目を凝らしてみると、おばさんが座っていた。

「もう!」

呟きながら、近づいていった。

「おばさん!」

「おばさんてばぁ!」

「あぁ! 知美ちゃん」

やっと気がついた。

ツッコミたいところを堪えて、人気の少ないソファーへとおばさんの手を握って向かった。

「おばさん! ヨシコどうしたの?」

「・・・」

「ねぇー ちゃんと教えてくれなきゃ」

「知美ちゃん、ヨシコね、小さいころは腸だったんだけど」

「今度は、胃にね、悪性の腫瘍が見つかって・・・」

「えー、悪性!」

「でも、手術して治るんでしょ!」

「担当医は、頑張りましょうって・・・」

あまりのヨシコの出来事に、日ごろタンパクな私も絶句した。

しばらく、呆然としたけど、気をとりなおして話しかけた。

「おばさん! ヨシコは知ってるの?」

「お父さんは、言うなって・・・」

「そっか」

「おばさん、とにかくヨシコの病室にいっていい?」

「はい」

「あぁ! それとね」

「うん!」

なんだろうと思いながら、耳を凝らした。

「ヨシコに、淳君に入院のこと、言わないでいいの?」

「聞くとね、絶対ダメって言うのよ」

「痛みがありそうなときに、寝言で淳君のこと言ってるのに?」

「知美ちゃん、なんか知ってる?」

「うーん! どうしてなんだろうね!」

ヨシコの真意がわからないから、ここは惚けた。

「じゃ ちょっと行ってくるね!」

「おばさん! しっかりしなきゃ!」

「ありがと、知美ちゃん!」


気持ちの整理がつかないけど、

ヨシコには、素で会わないとって思いながら、病室に向かった。

「よしこぉ! 元気?」

「って、入院してて元気なワケナイかぁ!」

気をしっかりもって、入室した。

「と・知美!」

「ゴメン」

「んもぉー!」

この間の、お泊り以来の再会で、

以外に明るかったから、しばらく和み話をした。

そして、そろそろお暇しようと、最後に話しかけた。

「ヨシコ!」

「・・・ん?」

「白状と伝書鳩することあるでしょ?」

あれこれ聞くこともなく、バレボール部ののりで、トスをして問いただした。

「・・・」

「さぁ ヨシコのスーパーアタックが炸裂するか!」

「ヨシコぉ?」

「はい! オネガイ!」

「淳君に、アタックしたボール届けていんだね?」

「うん!」

やっぱりなぁって思いながら、

淳君に心配かけまいとする想いと、

お互い初恋同士の相思相愛で

愛する葛藤に独りよがりなっていた、

ヨシコの真意がわかった。


おばさんに挨拶をして、病院を出たあと、すぐさま淳君に電話した。

「もしもし!」

「はい 高嶺です!」

「淳君!」

「知美先輩!」

今年、専門学校を卒業して、春から社会にでていった淳君は、

未だに「さん」づけじゃなく敬意を表してくれる。

「いま、大丈夫?」

「うん! 大丈夫ですよ!」

「あのね、近いうちに会いたいだけど?」

「わかりました、じゃ、今日は6時ぐらいには終わるから」

感の鋭い、淳君は間髪をいれず即答してきた。

ヨシコからは、毎日毎日残業続きで、休日出勤もあって

息つく間もなく、日夜鍛えてもらってるって言ってたけど。

「うん! じゃぁ、7時に難波のcrossでどう?」

こうして、CAFEで待ち合わせすることになった・・・