「おーい もう一軒いくぞぉ」
営業二課の課長がふらつきながら部下に叫ぶ
「課長! 大丈夫ですか? 奥さん」
「課長! そうですよ 今日記念日でしょ! 早く帰らないと」
あっちからこっちから部下の気遣いなのか冷やかしなのか言葉が飛び交う
「ん? 奥さん!」
「どいつもこいつも 奥さん怖くて 道歩けるか!」
「それに 今日はあいつも残業で遅いって言ってたから・・・」
部下同士でささやいている
「ねえねえ 二宮君 課長大丈夫?」
「うーん 酒に飲まれない 課長だけど・・・」
「とにかく もうすこし 付き合おう」
「うーん?」
こうして 営業二課の行きつけのラウンジで三次会の宴たけなわで
二宮が気を使う
「課長! ちょっと ゲンつけに一曲お願いしまーす!」
「あれ! 課長は?」
「ん? ねえ 課長は?」
いつの間にか席を外していた課長に一同気づく
「ママ! 課長は?」
「課長さん お会計先付けして 寄るところあるからって 帰られたわよ!」
「ゆっくりさせてあげてねって言い残して」
「ええー 」
一同がざわめく
一方 課長は先ほどまでとは打って変わって
足取りもしっかりして 一目散に歩いていた。
そして目的のスナックに勢いよく入る
「まいど!」
「おお! いらっしゃい 健介」
健介の同級生のマスターがどこかびっくりして声をかける
「マスター! なんやその応対?」
「なんやって・・・」
「あんたは まいどのことでびっくりせへんけど」
マスターが説明する間もなく
トイレから出てきた女性を見て健介が仰天
「薫!」
「あは! やっぱり」
立ち尽くしている二人を見て
「ようようお二人さん とにかく座りな!」
カウンター席にエスコートする
座って間もなく健介が口火をきる
「いつ来たん?」
「ついさっき!?」
「仕事終わって 帰ろうと思ったんだけど」
「一杯だけって思って マスターところに」
間髪いれずにマスターが
「ええー 健介 寄るかなって 五杯目だよ!」
「もうー マスター」
「あはは」
おどけてマスターが笑う
「そっか」
健介がうなづく
「はいはい お二人さんに 僕からサービス」
とマスターからシャンパンを差し出す
「じゃ! 薫 カンパイ!」
「うん カンパイ!」
こうして
二人の阿吽の記念日が
色鮮やかに深けていった。