『遥かなる天国へ』
主人公;「高嶺淳:浅井美子」
アシスト役;「高校時代の男子バレーの先輩(キャプテン)井川晋介:美子の親友広瀬知美:淳の親友広田進」
etc;
第一話 「運命のスタート」
高1から高2の進級する春休み、淳と広田は、野球部の部活を三日間さぼってしまった。
進級してから、始めての部活に向かうが。
キャプテンは、三日間、無断で休んだ二人に、厳しく規則により、退部を言い渡した。
「淳」:なぁ、広田。野球部も退部になったし、部活はどうする?
「広田」:う~ん。そやけど、三日連続で練習さぼって、ほんまに退部になるとは、びっくりしたなぁ?
淳と広田は、進級してから、部活をすることもできずに、途方にくれていた。
そんなときに、ばったり、男子バレー部のキャプテンと鉢合わせする。
「淳」:あぁ。どうも。先輩。
「井川」:お~い。 なにしてんねん。こんなところで?練習はどうしたんや?
「井川」:レギュラー候補のバッテリーが、さぼってたらあかんやろ。
「淳」:それが、春休みのとき、最後の練習に出なくて、キャプテンから退部言い渡されて。
「井川」:そうかぁ。それはあかんなぁ。
「井川」:キャプテンに、もう一度、俺から掛け合ってやろかぁ?
「淳」:いえ。春の大会も近いってゆうのに、さぼった僕らが悪いですし。
「広田」:キャプテンが怒るのも、無理ないなぁって反省してます。
「淳」;あぁ。ところで、先輩こそどうしたんですが?
「井川」:いやなぁ。今日部員やめて、とうとう六人になってなぁ。
「井川」:部員集めに校門立とうかなって思って。
「淳・広田」:えぇ.。そうなんですか?
「淳・広田」:先輩。僕たちをバレー部に入部させてもらいませんかぁ?
「井川」:う~ん。
「井川」:よぉ~し。じゃぁ、野球部のキャプテンに代わってしごいてやるかぁ?
「井川」:そやけどなぁ。おもえとこのキャプテンと、よう話してたけど、おまえら、しごきがいがあるって、ようゆうとったでぇ。
「淳・広田」: ・・・
「淳・広田」:先輩。今度こそ、最後までがんばるんで、よろしくお願いします。
淳と広田はこうして、新たの部活に励むことになった。
ただ、バレー部は、部ってゆうより、同好会みたいなもんで、前途多難な部で。
淳たちが通う高校は、女子バレーは強豪だが、男子は強豪と呼ぶには程遠かった。
ただ、この淳の入部が、後の出会いへと。
そして運命のいたずらへと続くとは。
このとき、淳が知る由もなかった。
第二話 「まだこの時には・・・」
淳が入部してからの、始めての練習。
体育館に入ってみると。
女子が体育館いっぱいを使って練習していた。
館内を目を凝らしてみると、端のほうの男子をみつけることができた。
「淳」:おはようございます。キャプテン。
「井川」: おぉ、きたか。
井川が、淳の集合と同時に振り返って声を張り上げる。
「井川」:おーい、みんな集合。
「井川」:二年生だけど、今日から入部することになった、高嶺と広田。
「井川」:みんな、よろしくたのむなぁ。
「井川」:高嶺、広田。今いる数少ないメンバーだけど、全員三年で秋までしかいないけど。
「井川」:しっかり指導仰いで、がんばってくれよ。
「淳・広田」:はい。
「淳・広田」:先輩方。どうぞよろしくお願いしまーす。
「井川」:あぁ。それと、体育館と道具は女子と共有やからなぁ。
「井川」:まぁ、共有ってゆうか。女子中心やけどなぁ。
遠くのほうから女子がかけよって来る。
「美子」:ねぇ。井川君。今日の練習ネット使うの?
「井川」:うーん、できたら使いたいんけど。
「井川」:今日から新入部員入って・・・
「美子」:そう。新入部員入ったんだぁ。よかったねぇ。
「美子」:じゃぁ。ネット思う存分使っていいよ。
「井川」:浅井、紹介しておくよ。
美子と井川は同級で、共にバレー部のキャプテン。
また、美子の親友、広瀬知美とともに、幼なじみで。
幼稚園、小学校、そして中学校と一緒に歩んでいた。
「井川」:おーい。高嶺、広田。
「淳・広田」:はーい。
「井川」:こちらは、女子の浅井キャプテン、紹介しておくよ。
「淳・広田」:浅井先輩。よろしくお願いしまーす。
「美子」:こちらこそ。男子も大会近いから、お互いがんばりましょうね。
「美子」:じゃぁ井川君。今日はネット練習空けとくね。
「井川」:うん。ありがとう。
井川が淳と広田につぶやく。
「井川」:浅井は上背はないけど、エースアタッカーで。
「井川」:この前の秋も、全国大会まで後一歩やったんやで。
「井川」:女子も勉強なるから、たまには見とけよ。
「淳・広田」:はーい。
こうして、淳は、広田とともにバレーの練習に励む毎日だった。
そして数ヶ月が経ち、大会目前の練習が終わって校門で。
「淳」:広田。今日は練習疲れたなぁ。
「広田」:ほんまに
「広田」:ところで、高嶺。俺、今日はこっちの駅から帰るわ。
「淳」:そやけど、通学駅と違うから、見つかんなよぉ、じゃなぁ。
そして、淳が広田と別れ、駅に向かう途中、先のほうに、同じ学校の女子が道端でしゃがんでいる姿が。
近づいていきながら、声をかける。
「淳」:おーい。どうしたのぉ?
「淳」:あぁ。浅井先輩。
「美子」:あぁ。高嶺君。
「美子」:ちょっと横っ腹が痛くて・・・
「美子」:でも。大丈夫。すぐに収まるから先に行って・・・
「淳」:でも、顔から汗いっぱいだし。
「淳」:とりあえず、この先のベンチあるところまで行ったほうがいいよ。
「美子」: ・・・
「淳」:どぉう、立てる?
「美子」:うん。あっ、痛い。
「淳」:浅井先輩。僕の肩につかまっていいから。
「美子」:うん。ごめんね。
「美子」:じゃぁ、駅まで・・・
「美子」:駅からは親に迎えに来てもらうから。
「淳」:はい。
「淳」:だいじょうぶ?浅井先輩。
「美子」:うん。ありがと。
「美子」:でも、高嶺君、このことみんなには内緒ねぇ。
「美子」:大会前で、心配かけたくないから。
「淳」:う~ん、はい、わかりました。
こうして淳は、美子をかばいながら、駅まで送りとどけた。
でも、まだこの時には、先輩と後輩の間柄しかなく。
お互いの愛の産声もあげていなかった。
もちろん、二人の壮絶な運命に気づくことも・・・
第三話 井川の想い・・・
男子、女子の三年生組の最後の大会、夏の大会も終わった。
振り返れば、今年の夏の大会は、以外にも男子は、万年一回戦敗退が、淳らの活躍もあり、二回戦を突破し、三回戦まで駒を進めた。
一方、女子は、まさかの一回戦敗退。
エース美子の不調。
井川、広瀬、淳たちの応援もむなしく敗れ去っていった。
そんな美子の不調を、三人はそれぞれの思いで見守っていた。
そんな中、秋が深まるなかの、井川たちの高校生活最後の文化祭。
広瀬が、盛り上がってる文化祭から、ほど遠い廊下で立ち止まっている、井川をみつける。
「広瀬」: あれぇ。井川君、こんなところで何してるの?
「井川」: あぁ、広瀬。いやー、別になんにも。
「広瀬」: 別にじゃなくて。
「広瀬」: あらぁ。あそこにいてるの、美子じゃない?
「広瀬」: 文化祭だとゆうのに、こんなところで、二人とも。
「井川」: なぁ、広瀬。ちょっとあっちの方で、いいかな?
「広瀬」: うーん。いいけど?
きつねに抓まれたような広瀬と、井川はその場をはなれていく。
「井川」: 実わな、浅井のことなんだけど。
「井川」: 夏の大会はさぁ、あんな結果になって、でもその後は、いつものように練習に、励んでるように見えるけど。
「井川」: でも、どっか違うんだよな、いつもの強気な浅井とは?
「広瀬」: 美子は強気ってゆうより、我慢するほうだからね。
「広瀬」: でも、確かに最近の美子って、ちょっと気弱になってるところあるわね、それに、ボッーとしてるときもあるし。
「井川」: 最初はさぁ、大会の結果に責任感じてからかなぁって、見てたんだけど、どうもなぁ?
「広瀬」: うーん。どうかなぁ?
「広瀬」: でもさぁ、井川君見つけたとき、そんな心配だけの感じじゃなかったよ。
「広瀬」: もしかして。美子にラブしてるんじゃないの?
「井川」: えぇー! そんなことないよ。
「井川」: 確かに、浅井は文化祭でのマドンナコンテストで二連覇してるだけあって、男子からは憧れの的だけど。
「井川」: そやけど、浅井って、いろんな男子からアタックされても、ほんと、つきあへんなぁ?
「広瀬」: またまた、そんなこと言って。ほんとうは、うれしいくせに。
「井川」: ・・・
「広瀬」: でも、美子は、小さなときからの、夢の看護婦になることだけ考えてるからね。
「井川」: そうだな、あれは小学四年生のときに、おなかの病気で長いこと入院してからの、大っきな夢だもんなぁ。
「井川」: ところでさぁ、広瀬。
「広瀬」: うん。なーに?
「井川」: 正直にゆうけど。
「広瀬」: うん。
「井川」: 実はさぁ、俺も高校生活終わるやろ。
「広瀬」: うん!
「井川」: 最近の浅井を見てて、なおさら自分の長年の気持ちに、けりをつけなきゃって思ってるんだ。
「広瀬」: うん。 井川君の気持ち、前からってゆうか、幼なじみで三人は親友だから、わかっていたよ。
「広瀬」: 井川君。ここはエースアタッカーでしょう、思い切ってアタックしておいで。
「井川」: 広瀬。ありがとう。
こうして井川は、意を決して、浅井のもとへと・・・
ただ、その井川の後姿を、もの悲しげに見送る、広瀬の瞳から、涙がこぼれおちていた・・・
井川は美子を探しに、文化祭のメイン会場にいくと、今年のマドンナコンテストの発表があり、美子が今年も選ばれていた。
ただ、会場には美子がいない。
井川は、さっき見かけた廊下にふたたび向かうと、美子が佇んでいた。
井川が駆け寄っていく。
「井川」: おーい、浅井。 こんなところでなにしるんやぁ。もう文化祭終わるぞ。
「美子」: あっ。井川君こそ・・・
「井川」: ところで、浅井。今年もマドンナやったぞ!
「美子」: えぇ。そうなの・・・
「井川」: 浅井。早めに追っかけから退散するか?
「美子」: うん。
「井川」: OK。 マドンナ護衛するとするかぁ。
こうして二人は、学校から帰ることに。
そして帰り道の公園で、井川は告白をしはじめた。
「井川」: 浅井。最近あんまり元気ないけど、この前の大会気にしてんのかぁ?
「美子」: ううん。
「井川」: がんばっての結果やからしょうがないって。
「美子」: 正直、しばらくは、ちょっと落ち込んだけど、最近は気にしてないよ、ほんと、元気だよ。
「井川」: うーん。それならいいんだけど。
「井川」: 浅井!
「美子」: うん。なーに?
「井川」: 浅井と広瀬とは、幼なじみで、ずっと仲良しなんだけど。
「井川」; 浅井への気持ちは、いつからか、幼なじみの気持ちじゃなくて、彼女として好きなんだ。
「美子」: ・・・
「井川」: 浅井って、いつもガンバルって気持で一杯になってるやろ。
「井川」: でも、気弱になるときもあるやろ。
「井川」: そんなときに、ちょっとでも、浅井の気持ちを、俺の力で楽にしてあげれたらって思うんだ。
決して重苦しい雰囲気ではないけど、お互い夕暮れの空を見上げながら、沈黙がつづく。
美子が、口を開く。
「美子」: 井川君!
「井川」: うん。
「美子」: 井川君とは、昔から、いろんなこと相談もしてきたし。
「美子」: 落ち込んでるときに、いつもガンバリもらって、本当に助けてもらってるって思ってる。
「井川」: うん。
「美子」: 私ね、小さいときに病気した時から、看護婦になって、私が苦しんだような気持ちを少しでも、やわらげることができたら、どんなにいいだろうなぁって思ってる。
「美子」: 井川君の気持ちは、すごーくうれしいよ。
「美子」: 井川君のこと、知美とともに親友ってよべるんだけど、今は彼って気持ちになれないの、それに、看護婦になる気持ちでいっぱいで・・・
「井川」: 浅井。うん、わかった。
「井川」: ただねぇ、俺もこの気持ちを、正直に、浅井に伝えたかったから。
「井川」: これからもなんかあったら、我慢せずに言えよ。
「美子」: うん。ありがとう、井川君。でも、ごめんね。
「井川」: 浅井。こっちこそ、ありがとう。
井川の思いは美子に通じなかった。
でも、晴れ晴れとした表情で井川は美子と別れて帰っていった。
一方、美子のほうは、今までの夢に向かう、一途なガンバリの気持ちの中に変化が。
以前送ってもらったとき、淳に対して、いつもの強気な気持ちが陰を潜め
自然に素直な気持ちになれたこと。
最近は、そのことが脳裏から離れずに浮かんでいた・・・
片や、淳の気持ちの中には、まだあこがれの先輩としか映っていなかった。
あこがれから、何かが変化していることにも、まだ気づいてはいなかった。
そして、美子の気持ちの変化より遅れていることにも・・・
第四話 「卒業」
淳は、先輩たちが引退した後、キャプテンになった。
夏の大会の活躍も手伝って、部員も増え、新生男子バレー部を率いて、毎日部活に励んでいた。
片や、美子たち三年生は、それぞれの卒業後の進路へ、そして高校生活の最後に励んでいた。
そんな日々のなか、二月に入ってバレンタインデーを控え、女子たちの思いが、学園を彩っていた。
そして、美子や広瀬も彩っていた。
「広瀬」: ねぇー、美子。チョコ買いにいくのつきあってよ?
「美子」: うん、いいよ。
「広瀬」: 今年はさぁ、私、義理はやめようかなぁって思ってるの!
「美子」: ええー、ほんと? じゃ、本命?
「広瀬」: うん、そうよ。
「広瀬」: ところで、美子はどうなの? 今年もお父さん?
「広瀬」: 本命ないんだったら、たまには義理でも買ったら?
「美子」: 私は、お父さんだけだよ。
こうして、ショップで二人はそれぞれ選び、そしてレジの前で。
そのとき、何を思い直したのか、美子が広瀬に。
「美子」: ごめん、知美。ちょっと待ってて。
「広瀬」: うーん?
慌てて美子が、もうひとつ大っきなチョコをもって。
「広瀬」: 美子。 それどうしたの? 買うの?
「美子」: うん。 後で話すね。
「広瀬」: うんうん。
ショップからの帰り道、公園のブランコで二人腰掛けて、待ちわびたかのように広瀬が話し出す。
「広瀬」: ねえねえ、美子。さっきのチョコのこと。
「美子」: うん。
口ごもってる美子に。
「広瀬」: 美子、今まで男の子に一度もあげたことないのに。それに義理でも恥ずかしいからって?
「美子」: うん。でもね、まだあげるかどうかわからないんだけど。
「美子」: ちょっと買ってみようかなぁって。
「広瀬」: ふーん。
「広瀬」: でも、そのあげるかもって誰なの? 井川君?
「美子」: ううん、井川君じゃないよ。
「美子」: うーん、あのねぇ。
「広瀬」: うん。
「美子」: じつはねぇ。高嶺君なの。
「広瀬」: えぇー、男子バレーの?
「美子」: うん。
「広瀬」: でも、どうして高嶺君にあげようと?
「美子」: うん、あのね。一度下校途中にお腹が痛くなったときに、助けてもらったことがあったの。
「美子」: それから、部活のときによく話すようになって。
「広瀬」: うん。それで?
「美子」: うん、それでね。だんだん高嶺君のことが、後輩って感じじゃなくて。
「美子」: 自然に話せる男の子って、意識するようになったの。
「広瀬」: そっか。でも高嶺君は、そんな美子の気持ちわかってるの?
「美子」: ううん。話っていってもバレーの話中心で、それに先輩風吹かしてるから、たぶんわかってないと思う。
「広瀬」: ふーん。
「広瀬」: 今まで、美子って、男の子からアタックされても、なびかなかったのにねぇ?
「広瀬」: 美子の初恋だね。
「美子」: うん。でも、渡すかどうか?
「広瀬」: わかった、わかった。
「広瀬」: 美子。もしさぁ。渡しにくかったら、私が渡してあげるよ。
「美子」: うん。ありがとう。でもがんばってみる。
「広瀬」: 美子。いつものファイトでガンバレ!
「美子」: はーい!
「美子」: そうそう。ところで、知美は誰にあげるの?
「広瀬」: わたし! 井川君にきまってるじゃん。
「美子」: うんうん。 知美もファイト!
「広瀬」: はーい!
こうして、バレンタインデーを迎えた。
しかし、美子はとうとう渡すことができなかった。
広瀬のほうは、井川に渡すことができて、井川もこころよく受け取った。
そして、美子の卒業前のある日、体育館で二人は鉢合わせする。
「淳」: さぁって、今日は道具でも磨くか?
体育館の道具部屋に踏み入れると、そこには。
「淳」: あれ! 浅井先輩。
「美子」: あっ! 高嶺君。
「淳」: 今日は男女とも練習休みですよ。
「美子」: うんうん。
「美子」: もうすぐ卒業だから、三年間お世話になった道具を磨こうかなって思って。
「美子」: 高嶺君こそどうしたの?
「淳」: ええ! 僕ですか?
「淳」: 僕も今日なんとなく足が体育館に向いて。
「美子」: そうなんだ。 じゃ一緒に磨こう?
「淳」: はーい。
二人は、黙々とボールを磨く。
沈黙がつづいているのに、薫風のような、なめらかな空気が漂っていた。
道具磨きも終わりをつげようとしたときに、淳が話しかける。
「淳」: 先輩。もうすぐ卒業ですね。
「美子」: うん。
「淳」: 先輩には、ほんとにお世話になりました。
「美子」: ううん。私のほうこそ。
「淳」: とんでもない。
「淳」: 先輩が、きつい練習のときなんか、笑顔で、ファイトって、よく声かけてくれたり。
「淳」: 先輩の笑顔でどれだけ励みになったことか。
「淳」: ほんと、先輩が卒業したら、さびしくなりますよ。
しみじみと美子に語りかける。
「美子」: 私のほうこそ、駅まで快方してくれたり。
「美子」: つらかった大会の後、よく冗談で笑わせてくれたり。
想いで話に花が咲いていた。
そろそろ咲いた想いで話もおわりをつげようとする。
「美子」: ねぇ、高嶺君?
「淳」: はい。
思いを告げようとする美子だが。
「美子」: ううん。なんでもない。
「淳」: ・・・
「淳」: 先輩。これからも、その笑顔でがんばってくださいね。
「美子」: ありがと。高嶺君もがんばってね。
こうして、体育館を後にした。
そして、美子たち三年は卒業していった。
ただ、美子のカバンに、毎日入っていたチョだけは、とうとう卒業できずに・・・
同じく、淳の美子へのホワイトデーも卒業できずに・・・
第五話 「走り出す運命」
美子たちも卒業し、淳も三年に進級し、部活に進路にときを過ごしていた。
しかし、淳の心にすっかり穴が開いたように、なにをするにしても、うわの空で。
広田もそんな淳を心なしか心配していた。
三年組みの引退間近の練習で。
「広田」: 淳! 次の練習なにやらすんや?
「淳」: あっ! ごめん、ごめん。 次はトスの練習して終わろうか?
「広田」: 淳! おまえ、最近気合はいってないな?
「淳」: ごめん。
淳は、美子に対しての気持ちが、先輩としての慕っていた気持ちではなくて。
一人の女性としての気持ちだったことに、つくづく痛感していた。
そんな想いを心に秘めながら、高校生活も終え、大学へと進学していった。
大学に入学してからは、高校時代の活躍が知れ渡り、バレー部からの勧誘がしきりにあった。
ただ、淳は、バレーは美子との想いがよみがえるため、部活をする気持ちになれなくて。
せっかくの勧誘も、断っていた。
大学生活も慣れた頃、淳の学校と他校との対抗戦があると聞き。
気晴らしに、観戦のため体育館へと向かっていった。
「淳」: うちの学校のバレー! 強いのかな?
ひとりつぶやきながら、体育館へと足を運ぶ。
淳の学校側の、観覧席の入り口で、思わぬ人が?
「淳」: あっ、井川先輩!
「井川」: おぉー! 高嶺!
「淳」: おひさしぶりです。
「井川」: ひさしぶりやな。
「井川」: ところで、観戦かぁ?
「淳」: えぇー。うちの学校なんで
「井川」: そっか。
「淳」: 先輩こそ。
「井川」: いや、広瀬もここの学校やから、一緒に応援しに来て。
「淳」: えぇー! 広瀬先輩もここやったんですか?
「井川」: うん。
「井川」: ところで、高嶺。浅井も一緒にくるで!
「淳」: えぇー。 浅井先輩も?
「井川」: 噂をすれば、あっちのほうから。
そして、広瀬が二人のもとに向かってくる。
「広瀬」: おまたせー。あっ! 高嶺君?
「井川」: 知美。高嶺も知美と一緒の大学やで。
「広瀬」: そうやったんや。
「井川」: 知美、浅井は?
「広瀬」: もうすぐ来るよ、ほらほら!
「美子」: ごめーん。おまたせー! あっ・・・
「井川」: 偶然に高嶺と逢ってさ。
「井川」: 高嶺も知美と一緒の大学やで。
「美子」: そう・・・
「広瀬」: どうしたの?高嶺君! 美子とひさしぶりでしょ?
「広瀬」: なんか、狐に抓まれたような顔しちゃって!
「淳」: えっ、は、はい。おひさしぶりです、浅井先輩。
「美子」: 卒業以来だから、すごーくひさしぶりだね。
「広瀬」: じゃーさぁ、高嶺君。せっかくだから美子に、大学案内してあげてよ?
「広瀬」; 私たち二人で観戦するから。ねぇ、井川君!
「井川」: そうだな、浅井もキャンパス見たことないしな?
「美子」: もーう! 知美も井川君も!
「美子」: 高嶺君も観戦に来たんだから?
「淳」: いえいえ、浅井先輩をご案内させていただきます。
こうして、二組のカップルはそれぞれの方向へ。
バレーの観戦に訪れた四人は、淳と美子の運命のスタートラインを観戦することに。
観覧席で、広瀬が応援をさておいて口火を切る。
「広瀬」: 晋介。美子、すごーくうれしそうだったね?
「井川」: うん、でもほんま、赤い糸ってかんじだな。
「広瀬」: うん。美子の想いが女神に届いたのかな?
「井川」: 季節はずれのバレンタインやな。
「広瀬」: そうだね。
一方、キャンパスのベンチでは。
「美子」: 高嶺君、知美と一緒の大学だったんだね?
「淳」: えー。でもまさか一緒だったとは。ぜんぜん知りませんでしたよ!
日ごろ口数が少ない淳が、勇みこんで美子に話しかける。
「淳」; ところで、先輩。今はどうしてるんですか?
「美子」: 私はね、看護学校に入って、看護婦目指してるよ。
「美子」: 高嶺君こそ、大学ではバレー部に入ってないの?
「美子」: 井川君から、去年も高校で活躍したって聞いたよ?
「淳」: バレーはどうもその気になれなくて・・・
「美子」: えー、なんで?
淳の、美子への想いを解き放つように、美子の瞳を見つめながら話し出す。
「淳」: 先輩!
「美子」: うーん?
「淳」: 先輩が卒業してから、先輩とのいろんなことが脳裏から離れなくて・・・
「淳」: ずっと、先輩に、逢いたくて、逢いたくて・・・
「美子」: ・・・
美子も淳への想いを告げる。
「美子」: 高嶺君、私ね、去年のバレンタインデーに初めてチョコ買ったの。
「美子」: でも、結局渡せなくて、後悔してる。だけど、今ならその人に渡せるんだけど。
「淳」: 誰ですかその人?
「美子」: うん。目の前にいてるよ。
淳が美子の手を握りしめながら語りかける。
「淳」: 先輩。 いや、美子さん。 僕と付き合ってもらえませんか?
「美子」: ・・・うん。
こうして、二人の愛のうさぎとかめ競争は、やっと並び、これから運命が走っていくことになった。
第六話 「すれちがい」
やっとの想いで二人は付き合うようなり。
お互い、毎日を、いままでの想いを埋めるかのように。
来る日も来る日も、二人の時間を積み重ねていった。
五月晴れの再会から、夏、秋と季節を超えて、冬も本格的に到来した数日ぶりのデートで。
「淳」: よっこ。
「美子」: うん。なーに?
「淳」: 今度の週末、バイト連休だし、どっか旅行しようか?
「美子」: ええ、ほんと?
「淳」: うん、それとね、僕の愛車がその前に、来るんだ。
「淳」: 助手席はやっぱり、よっこの特等席だし!
「美子」: うん、わたし。山間の静かな温泉に、いってみたいな!
「淳」: OK。じゃ、調べてみるよ。
「淳」: それとさ、井川先輩らも誘って、一緒にどう?
「美子」: ほんと!
「淳」: うん。
「美子」: 知美らも、すごく喜ぶよ。
「美子」: 淳、ほんとにいいの?
「淳」: もちろん。 先輩らは、よっこにとって大切な親友だし。
「淳」: それに、僕にとっても、大切な先輩だよ。
「美子」: うん、ありがと、淳!
こうして、四人は、一泊の温泉旅行に出かけることになった。
待ち合わせの場所に、井川と広瀬が、仲良く手をつなぎながらやってくる。
「井川」: おまたせー。
「淳」: おひさしぶりです、先輩。
「淳」: 先輩、今日は予定変更して、来てくれたんですって?
「井川」: そうやねん、知美がうるさくってさ!
「広瀬」: 晋介! なにいってんの?
「広瀬」: バイト続きで、ちょうど良かったって、言ってたじゃん?
「井川」: そうやったかな?
「美子」: はい、はい。 そろそろ行くよ。
思わず顔を見合わせて大笑いする四人。
とどめに、淳が一言。
「淳」: じゃ、僕のお化け屋敷顔負けの運転で、出発しますよ。
「広瀬」: ええー、そんなに運転怖いの?
「井川」: 知美! やっぱりやめよう?
「美子」: 私もやめる!
「淳」: よっこ。それはないよー
冗談はさておいて。
山間の温泉に一路、四人の乗った車は向かっていった。
到着した後、それぞれに、汗を流しに露天風呂に向かう四人。
露天の湯船に浸かりながら、井川が語りかける。
「井川」: 高嶺。
「淳」: はい。
「井川」: 浅井と仲良くしてるか?
「淳」: ええ!
「井川」: 浅井は知美と共に、幼なじみでよく知ってるけど。
「井川」: 今日のように、うれしそうな、浅井は初めてみたよ。
「井川」: 高嶺! これからも、浅井とは、仲良くたのむな。
「井川」: それと、なんかあったら、先輩じゃなく、友人として、相談のるからな。
「淳」: はい。ありがとうございます。
「淳」: 先輩! 僕のとって、よっこは、かけがいのない女性です。
「淳」: これからも、お互い助け合って、一生一緒にいたいなって思ってます。
「井川」: あはは、そっか、こっちの心配より上手な間柄みたいやな!
「淳」: 先輩! よっこを大事にしていきます。
淳の一途をみて井川は、まいったって感じで。こいつなら安心だなって確信した。
一方、婦人方の露天風呂では。
「美子」: 知美、どう井川君とは?
「広瀬」: それが、けんかばっかり。
「広瀬」: うそうそ、ラブラブだよ!
「広瀬」: 美子こそ、どうなの?
「美子」: うん、気持ちを長いこと暖めてきたから。
「美子」: もう、熱くって、熱くって!
「広瀬」: あはは。
「広瀬」: 美子の、そんな幸せそうな顔みたの、初めてだよ!
「美子」: 知美もね。
「美子」: お互い暖めすぎたもんね。
「広瀬」: うん。
こうして四人のつかの間の、楽しい旅行は、あっという間に過ぎ去っていった。
ただ、旅館で広瀬は、夜中に何度か、寝床から離れていた美子を垣間みて、なにか不安を感じずにはいられなかった。
旅行から帰ってきた美子に、母が部屋に覗きに来る。
「美子の母」: よしこ! おかえり、どう楽しかった?
「美子」: あっ、ただいま!
「美子の母」: よしこ! お腹おさえてどうしたの?
「美子」: ううん、ちょっと横っ腹が・・・
「美子の母」: 前も高校帰りに痛いって・・・
「美子の母」: いつからなの?
「美子」: 最近、ときどき痛くなるんだけど、すぐに治まっちゃうから。
「美子の母」: 学校の病院で明日でも診てもらいなさい。
「美子」: 大丈夫だって!
「美子の母」: もうー。 今日はゆっくり寝なさいよ!
「美子」: はーい!
旅行の後。
淳の方は、バイト先の欠員が多くて、店長からハードにシフトを入れられ、慌しく過ごしていた。
美子の方は、旅行の気分転換が功をそうしたのか、痛むことが遠のき。
看護学校の実習に、こちらも慌しく過ごしていた。
そんななか、淳から美子に電話を・・・
「淳」: もしもし、よっこ?
「美子」: はーい、淳!
「淳」: バイトのシフト楽になったし、休みとれるようになったよ。
「美子」: そう、よかったね。 あんまり無理しちゃだめだよ。
「淳」: よっこの方はどう?
「美子」: こっちは、卒業まえの実習だから、たいへん!
「淳」: 時間取れるときでいいけど、会いたいよ。
「美子」: うん。
「美子」: また、時間取れるときに連絡するね・・・
「淳」: うん・・・
「美子」: じゃ、またね。
「淳」: じゃ、気をつけてね。
プープープーと淳の電話は切れていた。
「美子」: ごめんね・・・
切れた電話口に、美子はつぶやいていた。
美子の実習は昼勤、夜勤と不規則だったが、淳との時間を裂けないわけではなかった。
美子は、淳を思い過ごし、思いあぐねて、自ら、わざとすれ違うかのように、時を重ねていた・・・
第七話 「小休止?」
淳は、バイトに明け暮れて、一年から、単位不足がちで、これではと思い直し、学校に通う。
後ろのほうから、聞きなれた声が聞こえる。
振り返ってみると。
「広瀬」: 高嶺くーん!
「淳」: あっ、どうも。
「広瀬」: ひさしぶり!
「淳」: どうも。
「広瀬」: 元気ないじゃん?
「広瀬」: 元エースアッタカーが、どうしたん?
「広瀬」: ところで、美子と仲良くやってる?
「淳」: えー、まぁー。
「広瀬」: なにその返事!
「淳」: それが・・・
「淳」: よっこ、実習でいそがしくて、ほとんど会ってないんです。
「淳」: 電話はよく掛かってくるんだけど・・・
「広瀬」: そうなの?
「広瀬」: 美子って、自分より相手に合わせるほうなんだけどね?
「広瀬」: 卒業前だから、結構きついのかもね?
「広瀬」: わたしから、寂しがってたよって言っといてあげるね!
「淳」: は、はい・・・
「広瀬」: 高嶺君! ちょっと会えないだけで、落ちこんでてどうするの?
「広瀬」: ここで再会するまでのこと想いだしてごらん?
「広瀬」: どってことないでしょ! さあさあ、元気出して!
「淳」: はい。 そうですよね!
「淳」: 広瀬先輩! ありがとうございます。
「淳」: がんばりまーす!
思わず広瀬の手を握り締めて、誓っていた。
「広瀬」: 高嶺君! そんな強く握ったら痛いって。
「淳」: あっ、ごめんなさい。
「広瀬」: あはは!
「広瀬」: 高嶺君、美子のことわかってあげてね。
「広瀬」: 美子は、あなたに一途だからね。
「淳」: 先輩、 弱音吐いてすいません。
「広瀬」: ううん。
「広瀬」: あー! 遅れるから先にいくね、じゃあね。
「淳」: 先輩もがんばってね。
淳を励ました広瀬であったが。
広瀬は美子とは、たまに会っていて。
美子から、淳と会っていないことなど、これぽっちも、聞いていなかった。
淳への思いに何があったのか?
気になりながら、教室へと向かっていった。
そして、美子から連絡で、一ヶ月ぶりに会うことに。
「美子」: おまたせ、淳!
「淳」: ううん、元気?
「美子」: うん。
「美子」: この前のバレンタインデートからだから、ひさしぶりだね。
「美子」: あっ、そうそう、ホワイトデー郵便にさしちゃって、ごめんね。
「美子」: びっくりしたけど、うれしかったよ。
「淳」: 会えなかったから、せめてと思って・・・
「淳」: ところで、どう実習のほう? 大詰めやろ?
「美子」: うん。やっぱり想像してたより、むずかしいね。
「淳」: そうやろな! いろんな患者いてるもんな?
「美子」: 淳のほうは、どう?
「淳」: 最近はまじめに単位とってるよ!
「美子」: うん。それならよかった!
「淳」: でもさー、しばらく電話だけだったから、ちょっと寂しかったかな?
「美子」: ごめんね。
「美子」: わたしも、淳のこと思うと・・・
「美子」: 看護婦の夢も、なんとなく、しぼんできちゃって・・・
「淳」: 小さいときからの夢なんだろう?
「美子」: うん、そうなんだけど・・・
「淳」: よっこの小さなときの体験からだし。
「淳」: 病気で苦しんでる孤独な気持ちを、少しでも和らげたいって思う、立派な職業だよ。
「淳」: よっこ、がんばらないと!
「美子」: うん・・・
「美子」: 淳!
「淳」: なーに?
「美子」: 看護婦もそうなんだけど、淳との人生もすごく大切だと思ってるの。
「美子」: でも・・・
「美子」: 両方を器用にできるかなって・・・
「淳」: よっこ!
「美子」: はい。
「淳」: 今はさ、卒業前できっと、いろんな不安や、気持ちに余裕がないんだと思う。
「淳」: しばらく、看護婦に専念して、がんばれよ、陰ながら応援するから。
「淳」: 俺との時間は、小休止しよう?
「美子」: 淳・・・
こうして、しばらく二人は離れることになった。
やはり、淳は美子の夢のために、自ら我慢して、犠牲になるだろうと想像していた。
ただ、愛しい淳に、美子は看護学校に入って、最初に勉強した大きな事実を・・・
美子の抑えきれない心に、無理やり閉じ込めて、「これが、一番いいのよ」っと・・・
言い聞かせて、小休止ではなく、離れていった。
主人公;「高嶺淳:浅井美子」
アシスト役;「高校時代の男子バレーの先輩(キャプテン)井川晋介:美子の親友広瀬知美:淳の親友広田進」
etc;
第一話 「運命のスタート」
高1から高2の進級する春休み、淳と広田は、野球部の部活を三日間さぼってしまった。
進級してから、始めての部活に向かうが。
キャプテンは、三日間、無断で休んだ二人に、厳しく規則により、退部を言い渡した。
「淳」:なぁ、広田。野球部も退部になったし、部活はどうする?
「広田」:う~ん。そやけど、三日連続で練習さぼって、ほんまに退部になるとは、びっくりしたなぁ?
淳と広田は、進級してから、部活をすることもできずに、途方にくれていた。
そんなときに、ばったり、男子バレー部のキャプテンと鉢合わせする。
「淳」:あぁ。どうも。先輩。
「井川」:お~い。 なにしてんねん。こんなところで?練習はどうしたんや?
「井川」:レギュラー候補のバッテリーが、さぼってたらあかんやろ。
「淳」:それが、春休みのとき、最後の練習に出なくて、キャプテンから退部言い渡されて。
「井川」:そうかぁ。それはあかんなぁ。
「井川」:キャプテンに、もう一度、俺から掛け合ってやろかぁ?
「淳」:いえ。春の大会も近いってゆうのに、さぼった僕らが悪いですし。
「広田」:キャプテンが怒るのも、無理ないなぁって反省してます。
「淳」;あぁ。ところで、先輩こそどうしたんですが?
「井川」:いやなぁ。今日部員やめて、とうとう六人になってなぁ。
「井川」:部員集めに校門立とうかなって思って。
「淳・広田」:えぇ.。そうなんですか?
「淳・広田」:先輩。僕たちをバレー部に入部させてもらいませんかぁ?
「井川」:う~ん。
「井川」:よぉ~し。じゃぁ、野球部のキャプテンに代わってしごいてやるかぁ?
「井川」:そやけどなぁ。おもえとこのキャプテンと、よう話してたけど、おまえら、しごきがいがあるって、ようゆうとったでぇ。
「淳・広田」: ・・・
「淳・広田」:先輩。今度こそ、最後までがんばるんで、よろしくお願いします。
淳と広田はこうして、新たの部活に励むことになった。
ただ、バレー部は、部ってゆうより、同好会みたいなもんで、前途多難な部で。
淳たちが通う高校は、女子バレーは強豪だが、男子は強豪と呼ぶには程遠かった。
ただ、この淳の入部が、後の出会いへと。
そして運命のいたずらへと続くとは。
このとき、淳が知る由もなかった。
第二話 「まだこの時には・・・」
淳が入部してからの、始めての練習。
体育館に入ってみると。
女子が体育館いっぱいを使って練習していた。
館内を目を凝らしてみると、端のほうの男子をみつけることができた。
「淳」:おはようございます。キャプテン。
「井川」: おぉ、きたか。
井川が、淳の集合と同時に振り返って声を張り上げる。
「井川」:おーい、みんな集合。
「井川」:二年生だけど、今日から入部することになった、高嶺と広田。
「井川」:みんな、よろしくたのむなぁ。
「井川」:高嶺、広田。今いる数少ないメンバーだけど、全員三年で秋までしかいないけど。
「井川」:しっかり指導仰いで、がんばってくれよ。
「淳・広田」:はい。
「淳・広田」:先輩方。どうぞよろしくお願いしまーす。
「井川」:あぁ。それと、体育館と道具は女子と共有やからなぁ。
「井川」:まぁ、共有ってゆうか。女子中心やけどなぁ。
遠くのほうから女子がかけよって来る。
「美子」:ねぇ。井川君。今日の練習ネット使うの?
「井川」:うーん、できたら使いたいんけど。
「井川」:今日から新入部員入って・・・
「美子」:そう。新入部員入ったんだぁ。よかったねぇ。
「美子」:じゃぁ。ネット思う存分使っていいよ。
「井川」:浅井、紹介しておくよ。
美子と井川は同級で、共にバレー部のキャプテン。
また、美子の親友、広瀬知美とともに、幼なじみで。
幼稚園、小学校、そして中学校と一緒に歩んでいた。
「井川」:おーい。高嶺、広田。
「淳・広田」:はーい。
「井川」:こちらは、女子の浅井キャプテン、紹介しておくよ。
「淳・広田」:浅井先輩。よろしくお願いしまーす。
「美子」:こちらこそ。男子も大会近いから、お互いがんばりましょうね。
「美子」:じゃぁ井川君。今日はネット練習空けとくね。
「井川」:うん。ありがとう。
井川が淳と広田につぶやく。
「井川」:浅井は上背はないけど、エースアタッカーで。
「井川」:この前の秋も、全国大会まで後一歩やったんやで。
「井川」:女子も勉強なるから、たまには見とけよ。
「淳・広田」:はーい。
こうして、淳は、広田とともにバレーの練習に励む毎日だった。
そして数ヶ月が経ち、大会目前の練習が終わって校門で。
「淳」:広田。今日は練習疲れたなぁ。
「広田」:ほんまに
「広田」:ところで、高嶺。俺、今日はこっちの駅から帰るわ。
「淳」:そやけど、通学駅と違うから、見つかんなよぉ、じゃなぁ。
そして、淳が広田と別れ、駅に向かう途中、先のほうに、同じ学校の女子が道端でしゃがんでいる姿が。
近づいていきながら、声をかける。
「淳」:おーい。どうしたのぉ?
「淳」:あぁ。浅井先輩。
「美子」:あぁ。高嶺君。
「美子」:ちょっと横っ腹が痛くて・・・
「美子」:でも。大丈夫。すぐに収まるから先に行って・・・
「淳」:でも、顔から汗いっぱいだし。
「淳」:とりあえず、この先のベンチあるところまで行ったほうがいいよ。
「美子」: ・・・
「淳」:どぉう、立てる?
「美子」:うん。あっ、痛い。
「淳」:浅井先輩。僕の肩につかまっていいから。
「美子」:うん。ごめんね。
「美子」:じゃぁ、駅まで・・・
「美子」:駅からは親に迎えに来てもらうから。
「淳」:はい。
「淳」:だいじょうぶ?浅井先輩。
「美子」:うん。ありがと。
「美子」:でも、高嶺君、このことみんなには内緒ねぇ。
「美子」:大会前で、心配かけたくないから。
「淳」:う~ん、はい、わかりました。
こうして淳は、美子をかばいながら、駅まで送りとどけた。
でも、まだこの時には、先輩と後輩の間柄しかなく。
お互いの愛の産声もあげていなかった。
もちろん、二人の壮絶な運命に気づくことも・・・
第三話 井川の想い・・・
男子、女子の三年生組の最後の大会、夏の大会も終わった。
振り返れば、今年の夏の大会は、以外にも男子は、万年一回戦敗退が、淳らの活躍もあり、二回戦を突破し、三回戦まで駒を進めた。
一方、女子は、まさかの一回戦敗退。
エース美子の不調。
井川、広瀬、淳たちの応援もむなしく敗れ去っていった。
そんな美子の不調を、三人はそれぞれの思いで見守っていた。
そんな中、秋が深まるなかの、井川たちの高校生活最後の文化祭。
広瀬が、盛り上がってる文化祭から、ほど遠い廊下で立ち止まっている、井川をみつける。
「広瀬」: あれぇ。井川君、こんなところで何してるの?
「井川」: あぁ、広瀬。いやー、別になんにも。
「広瀬」: 別にじゃなくて。
「広瀬」: あらぁ。あそこにいてるの、美子じゃない?
「広瀬」: 文化祭だとゆうのに、こんなところで、二人とも。
「井川」: なぁ、広瀬。ちょっとあっちの方で、いいかな?
「広瀬」: うーん。いいけど?
きつねに抓まれたような広瀬と、井川はその場をはなれていく。
「井川」: 実わな、浅井のことなんだけど。
「井川」: 夏の大会はさぁ、あんな結果になって、でもその後は、いつものように練習に、励んでるように見えるけど。
「井川」: でも、どっか違うんだよな、いつもの強気な浅井とは?
「広瀬」: 美子は強気ってゆうより、我慢するほうだからね。
「広瀬」: でも、確かに最近の美子って、ちょっと気弱になってるところあるわね、それに、ボッーとしてるときもあるし。
「井川」: 最初はさぁ、大会の結果に責任感じてからかなぁって、見てたんだけど、どうもなぁ?
「広瀬」: うーん。どうかなぁ?
「広瀬」: でもさぁ、井川君見つけたとき、そんな心配だけの感じじゃなかったよ。
「広瀬」: もしかして。美子にラブしてるんじゃないの?
「井川」: えぇー! そんなことないよ。
「井川」: 確かに、浅井は文化祭でのマドンナコンテストで二連覇してるだけあって、男子からは憧れの的だけど。
「井川」: そやけど、浅井って、いろんな男子からアタックされても、ほんと、つきあへんなぁ?
「広瀬」: またまた、そんなこと言って。ほんとうは、うれしいくせに。
「井川」: ・・・
「広瀬」: でも、美子は、小さなときからの、夢の看護婦になることだけ考えてるからね。
「井川」: そうだな、あれは小学四年生のときに、おなかの病気で長いこと入院してからの、大っきな夢だもんなぁ。
「井川」: ところでさぁ、広瀬。
「広瀬」: うん。なーに?
「井川」: 正直にゆうけど。
「広瀬」: うん。
「井川」: 実はさぁ、俺も高校生活終わるやろ。
「広瀬」: うん!
「井川」: 最近の浅井を見てて、なおさら自分の長年の気持ちに、けりをつけなきゃって思ってるんだ。
「広瀬」: うん。 井川君の気持ち、前からってゆうか、幼なじみで三人は親友だから、わかっていたよ。
「広瀬」: 井川君。ここはエースアタッカーでしょう、思い切ってアタックしておいで。
「井川」: 広瀬。ありがとう。
こうして井川は、意を決して、浅井のもとへと・・・
ただ、その井川の後姿を、もの悲しげに見送る、広瀬の瞳から、涙がこぼれおちていた・・・
井川は美子を探しに、文化祭のメイン会場にいくと、今年のマドンナコンテストの発表があり、美子が今年も選ばれていた。
ただ、会場には美子がいない。
井川は、さっき見かけた廊下にふたたび向かうと、美子が佇んでいた。
井川が駆け寄っていく。
「井川」: おーい、浅井。 こんなところでなにしるんやぁ。もう文化祭終わるぞ。
「美子」: あっ。井川君こそ・・・
「井川」: ところで、浅井。今年もマドンナやったぞ!
「美子」: えぇ。そうなの・・・
「井川」: 浅井。早めに追っかけから退散するか?
「美子」: うん。
「井川」: OK。 マドンナ護衛するとするかぁ。
こうして二人は、学校から帰ることに。
そして帰り道の公園で、井川は告白をしはじめた。
「井川」: 浅井。最近あんまり元気ないけど、この前の大会気にしてんのかぁ?
「美子」: ううん。
「井川」: がんばっての結果やからしょうがないって。
「美子」: 正直、しばらくは、ちょっと落ち込んだけど、最近は気にしてないよ、ほんと、元気だよ。
「井川」: うーん。それならいいんだけど。
「井川」: 浅井!
「美子」: うん。なーに?
「井川」: 浅井と広瀬とは、幼なじみで、ずっと仲良しなんだけど。
「井川」; 浅井への気持ちは、いつからか、幼なじみの気持ちじゃなくて、彼女として好きなんだ。
「美子」: ・・・
「井川」: 浅井って、いつもガンバルって気持で一杯になってるやろ。
「井川」: でも、気弱になるときもあるやろ。
「井川」: そんなときに、ちょっとでも、浅井の気持ちを、俺の力で楽にしてあげれたらって思うんだ。
決して重苦しい雰囲気ではないけど、お互い夕暮れの空を見上げながら、沈黙がつづく。
美子が、口を開く。
「美子」: 井川君!
「井川」: うん。
「美子」: 井川君とは、昔から、いろんなこと相談もしてきたし。
「美子」: 落ち込んでるときに、いつもガンバリもらって、本当に助けてもらってるって思ってる。
「井川」: うん。
「美子」: 私ね、小さいときに病気した時から、看護婦になって、私が苦しんだような気持ちを少しでも、やわらげることができたら、どんなにいいだろうなぁって思ってる。
「美子」: 井川君の気持ちは、すごーくうれしいよ。
「美子」: 井川君のこと、知美とともに親友ってよべるんだけど、今は彼って気持ちになれないの、それに、看護婦になる気持ちでいっぱいで・・・
「井川」: 浅井。うん、わかった。
「井川」: ただねぇ、俺もこの気持ちを、正直に、浅井に伝えたかったから。
「井川」: これからもなんかあったら、我慢せずに言えよ。
「美子」: うん。ありがとう、井川君。でも、ごめんね。
「井川」: 浅井。こっちこそ、ありがとう。
井川の思いは美子に通じなかった。
でも、晴れ晴れとした表情で井川は美子と別れて帰っていった。
一方、美子のほうは、今までの夢に向かう、一途なガンバリの気持ちの中に変化が。
以前送ってもらったとき、淳に対して、いつもの強気な気持ちが陰を潜め
自然に素直な気持ちになれたこと。
最近は、そのことが脳裏から離れずに浮かんでいた・・・
片や、淳の気持ちの中には、まだあこがれの先輩としか映っていなかった。
あこがれから、何かが変化していることにも、まだ気づいてはいなかった。
そして、美子の気持ちの変化より遅れていることにも・・・
第四話 「卒業」
淳は、先輩たちが引退した後、キャプテンになった。
夏の大会の活躍も手伝って、部員も増え、新生男子バレー部を率いて、毎日部活に励んでいた。
片や、美子たち三年生は、それぞれの卒業後の進路へ、そして高校生活の最後に励んでいた。
そんな日々のなか、二月に入ってバレンタインデーを控え、女子たちの思いが、学園を彩っていた。
そして、美子や広瀬も彩っていた。
「広瀬」: ねぇー、美子。チョコ買いにいくのつきあってよ?
「美子」: うん、いいよ。
「広瀬」: 今年はさぁ、私、義理はやめようかなぁって思ってるの!
「美子」: ええー、ほんと? じゃ、本命?
「広瀬」: うん、そうよ。
「広瀬」: ところで、美子はどうなの? 今年もお父さん?
「広瀬」: 本命ないんだったら、たまには義理でも買ったら?
「美子」: 私は、お父さんだけだよ。
こうして、ショップで二人はそれぞれ選び、そしてレジの前で。
そのとき、何を思い直したのか、美子が広瀬に。
「美子」: ごめん、知美。ちょっと待ってて。
「広瀬」: うーん?
慌てて美子が、もうひとつ大っきなチョコをもって。
「広瀬」: 美子。 それどうしたの? 買うの?
「美子」: うん。 後で話すね。
「広瀬」: うんうん。
ショップからの帰り道、公園のブランコで二人腰掛けて、待ちわびたかのように広瀬が話し出す。
「広瀬」: ねえねえ、美子。さっきのチョコのこと。
「美子」: うん。
口ごもってる美子に。
「広瀬」: 美子、今まで男の子に一度もあげたことないのに。それに義理でも恥ずかしいからって?
「美子」: うん。でもね、まだあげるかどうかわからないんだけど。
「美子」: ちょっと買ってみようかなぁって。
「広瀬」: ふーん。
「広瀬」: でも、そのあげるかもって誰なの? 井川君?
「美子」: ううん、井川君じゃないよ。
「美子」: うーん、あのねぇ。
「広瀬」: うん。
「美子」: じつはねぇ。高嶺君なの。
「広瀬」: えぇー、男子バレーの?
「美子」: うん。
「広瀬」: でも、どうして高嶺君にあげようと?
「美子」: うん、あのね。一度下校途中にお腹が痛くなったときに、助けてもらったことがあったの。
「美子」: それから、部活のときによく話すようになって。
「広瀬」: うん。それで?
「美子」: うん、それでね。だんだん高嶺君のことが、後輩って感じじゃなくて。
「美子」: 自然に話せる男の子って、意識するようになったの。
「広瀬」: そっか。でも高嶺君は、そんな美子の気持ちわかってるの?
「美子」: ううん。話っていってもバレーの話中心で、それに先輩風吹かしてるから、たぶんわかってないと思う。
「広瀬」: ふーん。
「広瀬」: 今まで、美子って、男の子からアタックされても、なびかなかったのにねぇ?
「広瀬」: 美子の初恋だね。
「美子」: うん。でも、渡すかどうか?
「広瀬」: わかった、わかった。
「広瀬」: 美子。もしさぁ。渡しにくかったら、私が渡してあげるよ。
「美子」: うん。ありがとう。でもがんばってみる。
「広瀬」: 美子。いつものファイトでガンバレ!
「美子」: はーい!
「美子」: そうそう。ところで、知美は誰にあげるの?
「広瀬」: わたし! 井川君にきまってるじゃん。
「美子」: うんうん。 知美もファイト!
「広瀬」: はーい!
こうして、バレンタインデーを迎えた。
しかし、美子はとうとう渡すことができなかった。
広瀬のほうは、井川に渡すことができて、井川もこころよく受け取った。
そして、美子の卒業前のある日、体育館で二人は鉢合わせする。
「淳」: さぁって、今日は道具でも磨くか?
体育館の道具部屋に踏み入れると、そこには。
「淳」: あれ! 浅井先輩。
「美子」: あっ! 高嶺君。
「淳」: 今日は男女とも練習休みですよ。
「美子」: うんうん。
「美子」: もうすぐ卒業だから、三年間お世話になった道具を磨こうかなって思って。
「美子」: 高嶺君こそどうしたの?
「淳」: ええ! 僕ですか?
「淳」: 僕も今日なんとなく足が体育館に向いて。
「美子」: そうなんだ。 じゃ一緒に磨こう?
「淳」: はーい。
二人は、黙々とボールを磨く。
沈黙がつづいているのに、薫風のような、なめらかな空気が漂っていた。
道具磨きも終わりをつげようとしたときに、淳が話しかける。
「淳」: 先輩。もうすぐ卒業ですね。
「美子」: うん。
「淳」: 先輩には、ほんとにお世話になりました。
「美子」: ううん。私のほうこそ。
「淳」: とんでもない。
「淳」: 先輩が、きつい練習のときなんか、笑顔で、ファイトって、よく声かけてくれたり。
「淳」: 先輩の笑顔でどれだけ励みになったことか。
「淳」: ほんと、先輩が卒業したら、さびしくなりますよ。
しみじみと美子に語りかける。
「美子」: 私のほうこそ、駅まで快方してくれたり。
「美子」: つらかった大会の後、よく冗談で笑わせてくれたり。
想いで話に花が咲いていた。
そろそろ咲いた想いで話もおわりをつげようとする。
「美子」: ねぇ、高嶺君?
「淳」: はい。
思いを告げようとする美子だが。
「美子」: ううん。なんでもない。
「淳」: ・・・
「淳」: 先輩。これからも、その笑顔でがんばってくださいね。
「美子」: ありがと。高嶺君もがんばってね。
こうして、体育館を後にした。
そして、美子たち三年は卒業していった。
ただ、美子のカバンに、毎日入っていたチョだけは、とうとう卒業できずに・・・
同じく、淳の美子へのホワイトデーも卒業できずに・・・
第五話 「走り出す運命」
美子たちも卒業し、淳も三年に進級し、部活に進路にときを過ごしていた。
しかし、淳の心にすっかり穴が開いたように、なにをするにしても、うわの空で。
広田もそんな淳を心なしか心配していた。
三年組みの引退間近の練習で。
「広田」: 淳! 次の練習なにやらすんや?
「淳」: あっ! ごめん、ごめん。 次はトスの練習して終わろうか?
「広田」: 淳! おまえ、最近気合はいってないな?
「淳」: ごめん。
淳は、美子に対しての気持ちが、先輩としての慕っていた気持ちではなくて。
一人の女性としての気持ちだったことに、つくづく痛感していた。
そんな想いを心に秘めながら、高校生活も終え、大学へと進学していった。
大学に入学してからは、高校時代の活躍が知れ渡り、バレー部からの勧誘がしきりにあった。
ただ、淳は、バレーは美子との想いがよみがえるため、部活をする気持ちになれなくて。
せっかくの勧誘も、断っていた。
大学生活も慣れた頃、淳の学校と他校との対抗戦があると聞き。
気晴らしに、観戦のため体育館へと向かっていった。
「淳」: うちの学校のバレー! 強いのかな?
ひとりつぶやきながら、体育館へと足を運ぶ。
淳の学校側の、観覧席の入り口で、思わぬ人が?
「淳」: あっ、井川先輩!
「井川」: おぉー! 高嶺!
「淳」: おひさしぶりです。
「井川」: ひさしぶりやな。
「井川」: ところで、観戦かぁ?
「淳」: えぇー。うちの学校なんで
「井川」: そっか。
「淳」: 先輩こそ。
「井川」: いや、広瀬もここの学校やから、一緒に応援しに来て。
「淳」: えぇー! 広瀬先輩もここやったんですか?
「井川」: うん。
「井川」: ところで、高嶺。浅井も一緒にくるで!
「淳」: えぇー。 浅井先輩も?
「井川」: 噂をすれば、あっちのほうから。
そして、広瀬が二人のもとに向かってくる。
「広瀬」: おまたせー。あっ! 高嶺君?
「井川」: 知美。高嶺も知美と一緒の大学やで。
「広瀬」: そうやったんや。
「井川」: 知美、浅井は?
「広瀬」: もうすぐ来るよ、ほらほら!
「美子」: ごめーん。おまたせー! あっ・・・
「井川」: 偶然に高嶺と逢ってさ。
「井川」: 高嶺も知美と一緒の大学やで。
「美子」: そう・・・
「広瀬」: どうしたの?高嶺君! 美子とひさしぶりでしょ?
「広瀬」: なんか、狐に抓まれたような顔しちゃって!
「淳」: えっ、は、はい。おひさしぶりです、浅井先輩。
「美子」: 卒業以来だから、すごーくひさしぶりだね。
「広瀬」: じゃーさぁ、高嶺君。せっかくだから美子に、大学案内してあげてよ?
「広瀬」; 私たち二人で観戦するから。ねぇ、井川君!
「井川」: そうだな、浅井もキャンパス見たことないしな?
「美子」: もーう! 知美も井川君も!
「美子」: 高嶺君も観戦に来たんだから?
「淳」: いえいえ、浅井先輩をご案内させていただきます。
こうして、二組のカップルはそれぞれの方向へ。
バレーの観戦に訪れた四人は、淳と美子の運命のスタートラインを観戦することに。
観覧席で、広瀬が応援をさておいて口火を切る。
「広瀬」: 晋介。美子、すごーくうれしそうだったね?
「井川」: うん、でもほんま、赤い糸ってかんじだな。
「広瀬」: うん。美子の想いが女神に届いたのかな?
「井川」: 季節はずれのバレンタインやな。
「広瀬」: そうだね。
一方、キャンパスのベンチでは。
「美子」: 高嶺君、知美と一緒の大学だったんだね?
「淳」: えー。でもまさか一緒だったとは。ぜんぜん知りませんでしたよ!
日ごろ口数が少ない淳が、勇みこんで美子に話しかける。
「淳」; ところで、先輩。今はどうしてるんですか?
「美子」: 私はね、看護学校に入って、看護婦目指してるよ。
「美子」: 高嶺君こそ、大学ではバレー部に入ってないの?
「美子」: 井川君から、去年も高校で活躍したって聞いたよ?
「淳」: バレーはどうもその気になれなくて・・・
「美子」: えー、なんで?
淳の、美子への想いを解き放つように、美子の瞳を見つめながら話し出す。
「淳」: 先輩!
「美子」: うーん?
「淳」: 先輩が卒業してから、先輩とのいろんなことが脳裏から離れなくて・・・
「淳」: ずっと、先輩に、逢いたくて、逢いたくて・・・
「美子」: ・・・
美子も淳への想いを告げる。
「美子」: 高嶺君、私ね、去年のバレンタインデーに初めてチョコ買ったの。
「美子」: でも、結局渡せなくて、後悔してる。だけど、今ならその人に渡せるんだけど。
「淳」: 誰ですかその人?
「美子」: うん。目の前にいてるよ。
淳が美子の手を握りしめながら語りかける。
「淳」: 先輩。 いや、美子さん。 僕と付き合ってもらえませんか?
「美子」: ・・・うん。
こうして、二人の愛のうさぎとかめ競争は、やっと並び、これから運命が走っていくことになった。
第六話 「すれちがい」
やっとの想いで二人は付き合うようなり。
お互い、毎日を、いままでの想いを埋めるかのように。
来る日も来る日も、二人の時間を積み重ねていった。
五月晴れの再会から、夏、秋と季節を超えて、冬も本格的に到来した数日ぶりのデートで。
「淳」: よっこ。
「美子」: うん。なーに?
「淳」: 今度の週末、バイト連休だし、どっか旅行しようか?
「美子」: ええ、ほんと?
「淳」: うん、それとね、僕の愛車がその前に、来るんだ。
「淳」: 助手席はやっぱり、よっこの特等席だし!
「美子」: うん、わたし。山間の静かな温泉に、いってみたいな!
「淳」: OK。じゃ、調べてみるよ。
「淳」: それとさ、井川先輩らも誘って、一緒にどう?
「美子」: ほんと!
「淳」: うん。
「美子」: 知美らも、すごく喜ぶよ。
「美子」: 淳、ほんとにいいの?
「淳」: もちろん。 先輩らは、よっこにとって大切な親友だし。
「淳」: それに、僕にとっても、大切な先輩だよ。
「美子」: うん、ありがと、淳!
こうして、四人は、一泊の温泉旅行に出かけることになった。
待ち合わせの場所に、井川と広瀬が、仲良く手をつなぎながらやってくる。
「井川」: おまたせー。
「淳」: おひさしぶりです、先輩。
「淳」: 先輩、今日は予定変更して、来てくれたんですって?
「井川」: そうやねん、知美がうるさくってさ!
「広瀬」: 晋介! なにいってんの?
「広瀬」: バイト続きで、ちょうど良かったって、言ってたじゃん?
「井川」: そうやったかな?
「美子」: はい、はい。 そろそろ行くよ。
思わず顔を見合わせて大笑いする四人。
とどめに、淳が一言。
「淳」: じゃ、僕のお化け屋敷顔負けの運転で、出発しますよ。
「広瀬」: ええー、そんなに運転怖いの?
「井川」: 知美! やっぱりやめよう?
「美子」: 私もやめる!
「淳」: よっこ。それはないよー
冗談はさておいて。
山間の温泉に一路、四人の乗った車は向かっていった。
到着した後、それぞれに、汗を流しに露天風呂に向かう四人。
露天の湯船に浸かりながら、井川が語りかける。
「井川」: 高嶺。
「淳」: はい。
「井川」: 浅井と仲良くしてるか?
「淳」: ええ!
「井川」: 浅井は知美と共に、幼なじみでよく知ってるけど。
「井川」: 今日のように、うれしそうな、浅井は初めてみたよ。
「井川」: 高嶺! これからも、浅井とは、仲良くたのむな。
「井川」: それと、なんかあったら、先輩じゃなく、友人として、相談のるからな。
「淳」: はい。ありがとうございます。
「淳」: 先輩! 僕のとって、よっこは、かけがいのない女性です。
「淳」: これからも、お互い助け合って、一生一緒にいたいなって思ってます。
「井川」: あはは、そっか、こっちの心配より上手な間柄みたいやな!
「淳」: 先輩! よっこを大事にしていきます。
淳の一途をみて井川は、まいったって感じで。こいつなら安心だなって確信した。
一方、婦人方の露天風呂では。
「美子」: 知美、どう井川君とは?
「広瀬」: それが、けんかばっかり。
「広瀬」: うそうそ、ラブラブだよ!
「広瀬」: 美子こそ、どうなの?
「美子」: うん、気持ちを長いこと暖めてきたから。
「美子」: もう、熱くって、熱くって!
「広瀬」: あはは。
「広瀬」: 美子の、そんな幸せそうな顔みたの、初めてだよ!
「美子」: 知美もね。
「美子」: お互い暖めすぎたもんね。
「広瀬」: うん。
こうして四人のつかの間の、楽しい旅行は、あっという間に過ぎ去っていった。
ただ、旅館で広瀬は、夜中に何度か、寝床から離れていた美子を垣間みて、なにか不安を感じずにはいられなかった。
旅行から帰ってきた美子に、母が部屋に覗きに来る。
「美子の母」: よしこ! おかえり、どう楽しかった?
「美子」: あっ、ただいま!
「美子の母」: よしこ! お腹おさえてどうしたの?
「美子」: ううん、ちょっと横っ腹が・・・
「美子の母」: 前も高校帰りに痛いって・・・
「美子の母」: いつからなの?
「美子」: 最近、ときどき痛くなるんだけど、すぐに治まっちゃうから。
「美子の母」: 学校の病院で明日でも診てもらいなさい。
「美子」: 大丈夫だって!
「美子の母」: もうー。 今日はゆっくり寝なさいよ!
「美子」: はーい!
旅行の後。
淳の方は、バイト先の欠員が多くて、店長からハードにシフトを入れられ、慌しく過ごしていた。
美子の方は、旅行の気分転換が功をそうしたのか、痛むことが遠のき。
看護学校の実習に、こちらも慌しく過ごしていた。
そんななか、淳から美子に電話を・・・
「淳」: もしもし、よっこ?
「美子」: はーい、淳!
「淳」: バイトのシフト楽になったし、休みとれるようになったよ。
「美子」: そう、よかったね。 あんまり無理しちゃだめだよ。
「淳」: よっこの方はどう?
「美子」: こっちは、卒業まえの実習だから、たいへん!
「淳」: 時間取れるときでいいけど、会いたいよ。
「美子」: うん。
「美子」: また、時間取れるときに連絡するね・・・
「淳」: うん・・・
「美子」: じゃ、またね。
「淳」: じゃ、気をつけてね。
プープープーと淳の電話は切れていた。
「美子」: ごめんね・・・
切れた電話口に、美子はつぶやいていた。
美子の実習は昼勤、夜勤と不規則だったが、淳との時間を裂けないわけではなかった。
美子は、淳を思い過ごし、思いあぐねて、自ら、わざとすれ違うかのように、時を重ねていた・・・
第七話 「小休止?」
淳は、バイトに明け暮れて、一年から、単位不足がちで、これではと思い直し、学校に通う。
後ろのほうから、聞きなれた声が聞こえる。
振り返ってみると。
「広瀬」: 高嶺くーん!
「淳」: あっ、どうも。
「広瀬」: ひさしぶり!
「淳」: どうも。
「広瀬」: 元気ないじゃん?
「広瀬」: 元エースアッタカーが、どうしたん?
「広瀬」: ところで、美子と仲良くやってる?
「淳」: えー、まぁー。
「広瀬」: なにその返事!
「淳」: それが・・・
「淳」: よっこ、実習でいそがしくて、ほとんど会ってないんです。
「淳」: 電話はよく掛かってくるんだけど・・・
「広瀬」: そうなの?
「広瀬」: 美子って、自分より相手に合わせるほうなんだけどね?
「広瀬」: 卒業前だから、結構きついのかもね?
「広瀬」: わたしから、寂しがってたよって言っといてあげるね!
「淳」: は、はい・・・
「広瀬」: 高嶺君! ちょっと会えないだけで、落ちこんでてどうするの?
「広瀬」: ここで再会するまでのこと想いだしてごらん?
「広瀬」: どってことないでしょ! さあさあ、元気出して!
「淳」: はい。 そうですよね!
「淳」: 広瀬先輩! ありがとうございます。
「淳」: がんばりまーす!
思わず広瀬の手を握り締めて、誓っていた。
「広瀬」: 高嶺君! そんな強く握ったら痛いって。
「淳」: あっ、ごめんなさい。
「広瀬」: あはは!
「広瀬」: 高嶺君、美子のことわかってあげてね。
「広瀬」: 美子は、あなたに一途だからね。
「淳」: 先輩、 弱音吐いてすいません。
「広瀬」: ううん。
「広瀬」: あー! 遅れるから先にいくね、じゃあね。
「淳」: 先輩もがんばってね。
淳を励ました広瀬であったが。
広瀬は美子とは、たまに会っていて。
美子から、淳と会っていないことなど、これぽっちも、聞いていなかった。
淳への思いに何があったのか?
気になりながら、教室へと向かっていった。
そして、美子から連絡で、一ヶ月ぶりに会うことに。
「美子」: おまたせ、淳!
「淳」: ううん、元気?
「美子」: うん。
「美子」: この前のバレンタインデートからだから、ひさしぶりだね。
「美子」: あっ、そうそう、ホワイトデー郵便にさしちゃって、ごめんね。
「美子」: びっくりしたけど、うれしかったよ。
「淳」: 会えなかったから、せめてと思って・・・
「淳」: ところで、どう実習のほう? 大詰めやろ?
「美子」: うん。やっぱり想像してたより、むずかしいね。
「淳」: そうやろな! いろんな患者いてるもんな?
「美子」: 淳のほうは、どう?
「淳」: 最近はまじめに単位とってるよ!
「美子」: うん。それならよかった!
「淳」: でもさー、しばらく電話だけだったから、ちょっと寂しかったかな?
「美子」: ごめんね。
「美子」: わたしも、淳のこと思うと・・・
「美子」: 看護婦の夢も、なんとなく、しぼんできちゃって・・・
「淳」: 小さいときからの夢なんだろう?
「美子」: うん、そうなんだけど・・・
「淳」: よっこの小さなときの体験からだし。
「淳」: 病気で苦しんでる孤独な気持ちを、少しでも和らげたいって思う、立派な職業だよ。
「淳」: よっこ、がんばらないと!
「美子」: うん・・・
「美子」: 淳!
「淳」: なーに?
「美子」: 看護婦もそうなんだけど、淳との人生もすごく大切だと思ってるの。
「美子」: でも・・・
「美子」: 両方を器用にできるかなって・・・
「淳」: よっこ!
「美子」: はい。
「淳」: 今はさ、卒業前できっと、いろんな不安や、気持ちに余裕がないんだと思う。
「淳」: しばらく、看護婦に専念して、がんばれよ、陰ながら応援するから。
「淳」: 俺との時間は、小休止しよう?
「美子」: 淳・・・
こうして、しばらく二人は離れることになった。
やはり、淳は美子の夢のために、自ら我慢して、犠牲になるだろうと想像していた。
ただ、愛しい淳に、美子は看護学校に入って、最初に勉強した大きな事実を・・・
美子の抑えきれない心に、無理やり閉じ込めて、「これが、一番いいのよ」っと・・・
言い聞かせて、小休止ではなく、離れていった。