「さあーて」

「明日の仕事の仕込みも片付いたし」

「一杯ひっかけるか!」

独りつぶやきながら冷蔵庫から

氷とロックグラスをもってきて

寝る前の寝酒の用意を

「今日は 何にしようか?」

一瞬考えた。

「うーん いつもの バーボンだなって」

合いも変わらず

棚からボトルを取り出してくる。

つぎに

部屋の照明も蛍光灯に切り替えて

お気に入りのBGMを

ヘッドホンをして

スイッチON。

用意万端

「さぁ 頂こう」

っと

ロックを味わっていた。


何気に脇の小物置に目をやると

チカチカと光っている。

携帯の着信のしらせ。

置時計に目をやると

夜中の二時を指していた。


僕の時計は

自分のクセで

支度の時間の幅を

十分取ってるから

「夜中の二時前だよな」

っと

正確に把握して

携帯を開いてみた。


「メールの着信かぁ」

以前と違って

異性同姓問わず知人と

めっきり交友していない。

仕事関係は

この時間はないから

DMメールかなぁって思いながら

受信ボックスを確認してみると。

「莉緒からだ!」

彼女とは

仕事で出張したときに

取引先の縁故で

会食を一緒にしてから

付き合い始めて

もうかれこれ四年になるかなぁ。


関係は

友達以上恋人未満って感じかなぁ。

なぜっていえば

お互いキャリアに追われて

プライベートは極々僅かなことから

もっぱら 年に数回のメールや電話。

スケジュールを合わせて

会う約束をしても

どちらからともなく

ドタキャンの連続。


四年の間に会った回数といえば 

数えた訳じゃないけど

たぶん

指折り数えても足りるかなぁ!

ただ

お互いのバイオリズムってゆうか

空気のように

素になれるのは

確か。


何度も恋人に

お互い沸騰しかけるんだけど

キャリアに後ろ髪を引かれて

それぞれの

日常に逆戻りになっている。


そんなことを振り返りながら

メールを読んでみる

「メリークリスマス! 元気? 」

アハハ 相変わらず 短い

返信はせず 日中電話でもしようと思い

残りのロックを飲み干して 寝床についた。


その日は いつものように日常を過ごしてる間に

すっかり返信を忘れていた。


数日後 東京駅のホームで

「どんな時でも ひとは・・・」

角松の着メロがなる

ん~ 誰かな?

「あぁ~ 莉緒だぁ!」

「もしもーし」

「ゴメン 今大丈夫?」

「うん 大丈夫だよ」

知り合ったときは二十代で

今は三十路に入ったけど

声はういういしいなぁって感じながら

それと

こんなこと言ったらお冠だろなぁって思いながら

返事をしていた。

「バタバタしてるんでしょ 年末だし!」

「まぁ 相変わらずだよ」

「それより メール見た?」

「ゴメン!返信するの忘れてた!」

「も~う!」

「それより どうした?」

っと聞きなおすと しばらくの間があって

「ねぇ 新年どうしてるの?」

「うーん 今のところは未定だよ」

「よかったら 会わない?」

「エエッ! 莉緒 仕事だろ!」

莉緒は アパレルの販売代行会社を経営してて

大阪で3店舗あって 百貨店にも入ってるから 

年末年始は忙しいはずなのにって思いながら

問い返した。

「うん でも新年は 時間作ったの!」

「それと ケーキでも 持って上京しようかなぁって!」

僕の誕生日1月3日を覚えてるんだぁって思いながら

受話器を耳にしていた。

「宏 予定とか合ったら 無理しないでいいよ!」

「ううん 別に今のところないよ!」

「じゃ 直前になったら また電話するね!」

「OK」

「じゃ」

「はーい またね」

携帯をポケットに閉まって

数本遅らした東京駅のホームから

次の挨拶回りに山の手線に飛び乗り

込み合う電車の中で

つり革を握りながら思っていた。 


莉緒の踏み込んだ音信。


今まで踏み込んでいたのは 

僕のほうで

莉緒の慌しい日常を思いやれば 

深入りはしないほうが

彼女にとってはいいのではって思い

こうして

友達以上恋人未満を徹していた。

でも 

「もし 会えたら」

「今度は 告白しよう」

満員電車に似つかない車内で呟いていた

そして

心に言い聞かせていた

「たとえ」

「恋人以上になれなくても」

「友達未満になっても」

「告白しよう」

と・・・