第二話 「懐かしのSunny・Sideへ」

 いつもは、先輩とのアボイントは、前日に済ませる。
 今回だけは、前日になっても、どちらからともなく音信不通。
 ところが
 目覚まし時計で起きる僕が、聞き覚えのある曲で。
 ってゆうか、携帯の着メロで木曜日の朝を迎えた。
 そう、先輩のモーニングコールで起こされた。

「お~い、起きてるかぁ」
「は、はい起きてますよ」
「先輩、今何時ですかぁ?」
 思わず、寝ぼけて質問。
「はぁー、まだ起きてないんかぁ」
「もう6時半だぞ」
 と呆れたようなトーンで、ただ、続けさまに
「進、今日の時間21時にSunny・Sideの前にしよう」
「じゃあなぁ」
 例のごとく、一方的に切られてしまった。
(やっぱり、先輩は忘れてなかったかぁ)

 先輩とのバターンは、夕方から居酒屋で始まって、その後数軒のはしご酒が多い、もちろん毎度午前様、先輩の奥様にはいつも申し訳ないと思ってる。
 たまに、先輩の自宅に電話することがあって、奥様が電話口にでると
「進ちゃん、いつも主人が引っ張りまわしてごめんねぇ」
 奥様の声から察すると、迷惑がられてない。
 ただ、あのぉ、奥様って先輩より五歳下だから、僕のほうが三つ上なんだけど、先輩との結婚前から、僕のことを「ちゃん」づけだった。

 さて、そんなことより、今日は、いつものバージョンと違うみたいだ。
 先輩の強権だから、とにかく行くことにしよう。
(さぁ、起きて支度しよう)

 日中は関与先の決算でバタバタした。
 けど、木曜日、木曜日って、あんまり残業しないほうだ。今日はめずらしく残ってる。
 怪訝な顔で事務所のスタッフが。
「主任、残業ですか?」
「恵美ちゃんも?」
 誘い水を掛けてみると
「はい。ってそんな訳ないでしょ」
 案の定せわしく、お先にって言いながら帰っていった。
 僕の職場は税理士事務所で、所長と主任の僕と女性スタッフ三人の五名体制でやっている。
(待ち合わせまで、2時間程あるから、書類整理でもしよう)
 書類整理も終わって、時計を見る。
 待ち合わせにはちょうどいい頃合いだ。
(さあ、帰り支度をしてSunny・Sideの最寄駅の心斎橋に向かおう)

 心斎橋は、別段久しぶりじゃないけど、長堀通りの一本南、鰻谷通は、ほんと久しぶり。
 そんなことを想いながら、てくてく歩いて行く。
 もうすぐ、Sunny・Sideに着きそうな時に携帯が鳴る。

「進、今どこ?」
「俺、さっきもう店に入ったから、店で待ってるから、はよぉ、お出でやぁ」
 先輩からの電話だった。
「わかりました、もう着くんで~」
「ブープープー・・・」
 返事もままならず、ガチャ切りされてた。
 そうこうするうちに。
 雑居ビルの地下のSunny・Sideに着いていた。

 入り口で、何となく深呼吸。
(ガチャーン)
 扉を開けて店内へ。
 変わりない店内の雰囲気。
 カウンター奥から先輩が視界に入る。

「おぉー、こっちこっち」
 カウンター手前のバックヤードから低音だけど、透き通る声が。
「いらっしゃい」
 マスターが笑みを浮かべながら迎えてくれる。
「あぁ、ご無沙汰してます」
 照れ顔で挨拶をしていた。
 

 当時はマスターって、バイトスタッフに任せきりで、僕の知ってる限り、営業時間には、ほとんど居なかった。
 (あれぇ、今は、スタッフらしき人は見当たらない)