昆虫の思い出

<写真出典=「学研の観察図鑑2 昆虫2・クモ」発行人:鈴木泰二/編集人:本間三郎/発行所:株式会社学習研究社/1984年発行>
キリギリスのこと
父のバイクに乗せてもらったことがあった。
メグロの250CCバイクだったと思う。
どこかへ製品を配達に行くときだった。
山間を走っているとき父は急にバイクを止めた。
そして草むらに何かを探しているようだった。
「なに?」
「ちょっと待っていろ」
しばらくして、父は鳥打ち帽子でバッタを捕まえてきた。
足の所に赤い線の入ったキリギリスである。
大きいりっぱなキリギリスだった。
図鑑でしか見たことがない。
私は生まれて初めて実物に触れた。
父はそのキリギリスをどう持ち帰ったのか知らないが
数日後、家の中でキリギリスが鳴いているのを聞いた。
縁側でキュウリの入った竹ひごの虫かごの中で、
気持ちよく鳴いていた。
やっぱり、バッタの王様はキリギリスだ。
父がキリギリスを捕まえるなど、私は初めて見た。
おそらく父もキリギリスの鳴き声に誘われて童心に返り、バッタ取りをしたのだろう。
父が他界してからもう何年もたつが、毎年キリギリスの鳴く頃には、あの日のことを思い出す。

