「非浸潤がん」の生存率について考えます。
術後の病理検査結果が
浸潤部分なしの「非浸潤がん」だったという診断が100%正しいのならば
遠隔転移は理論上100%ありません。(ただし温存の場合の局所再発は10%より多くある。)
ですから生存率は100%となります。
診断が正しければ安心です。(※追記 これについて最近の情報がありますので2019・4の記事に書きますので参照)
ただ、非浸潤がんの苦悩はその診断が100%正しいとは言い切れないところにあります。
術後にくまなく癌を探し、浸潤部分がなかったら非浸潤がんとなるわけですので
浸潤部分の見逃しがあった場合はそれはもう非浸潤がんではなく、浸潤がんとなるわけです。
これは病理医の腕にもかかっていることですが、優秀な病理医が診断したとしても
標本のスライスの間(見ていない部分)に微小の浸潤がないとは断言できません。
しかしこのような微小浸潤から遠隔転移はしないだろう。というのが専門家の考えのようです。
とすると、やはり転移した場合は、
非浸潤がんと思っていたのが、非浸潤がんではなかった場合です。
過去の統計を確認しました。
1982年までの外国の報告では、リンパ節転移20% 遠隔転移8% 5年生存率不明 と
別の外国の報告では リンパ節転移4% 遠隔転移11% 5年生存率91% と
また別の外国の報告では リンパ節転移不明 遠隔転移6% 5年生存率98%
この3例が見つかりました。しかしこの情報は今から約30年も前のもので、しかも外国人の場合です。
今から30年も前というと乳がんの知識や手術方法、技術はかなり旧式であり、しかも専門の病理医がどれだけいて、どの程度の知識と技術だったか、現在とは比較にならない水準だと思われます。
ですから、浸潤癌の見落としという誤診のための転移ということでしょう。
では、日本ではどうだったのか調べました。
日本では1964年から1976年の間の愛知がんセンターの統計で10年生存率は95%という報告があります。
死亡者に乳がん以外の人が含まれているかは不明です。
しかしこれもまたさらに古く35年も前のことです。平成7年時点まで確認されているのは
この愛知がんセンターの統計くらいのようです。
平成7年に非浸潤癌と診断されていたが、転移した2例についてある病院の数名による論文もあります。
また、近年では(86年~97年)
乳がん症例の多い19施設を対象に、大規模な統計を取った例があり、
非浸潤がんで温存手術をした人が局所再発から遠隔転移し死亡したケースが初めて確認されているということです。これは局所再発が浸潤がんだったということで、誤診の問題とは別になります。
以上のことを参考に考えると、かなり昔の情報は不安要素ですが、
あまり古い統計なので現代は当てはまらないとしても、ごく稀にそのような症例は
あるにはあると言えるのでしょう。
ごく稀なことなので、非浸潤がんで遠隔転移するというリスクはほぼ考えなくていいかな。という感じはします。
しかし、リスクを全く考えないわけにはいきません。
まず診断の誤診を10%あるとし、センチネルリンパ生検の正確さが90%だとすると誤診は10%
両方の誤診のリスクは
0.1x0.1=0.01で1%の浸潤部分がある可能性のリスクがあると考えます。
診断の誤診は5%、センチネルリンパ生検が10%だとすると
浸潤部分がある可能性のリスクは0.5%となります。
つまり、99%~99.5%は安心。
しかし、1%~0.5%は浸潤部分ありの可能性あり。
微小の浸潤部分があったからといってその100%が
遠隔転移を起こすわけではないので
遠隔転移のリスクは
このパーセンテージからはさらに低くなります。
これにホルモン治療を加えると40%リスクが下がりますから
そうなると99.4%~99.7%安心。
浸潤部分ありのリスクは0.6%~0.3%
蛇足ですが、非浸潤であることが正しければリスクは0なわけです。
自分の診断が正しいと信じる要素には、術後検査結果も大きく関わる気がします。
まず見てくださった病院の病理医の技術、それから
癌の大きさが小さいほど浸潤部分はない確率もあがりますし
(1cm以下では浸潤部分がある確率は低い)、
核異型度も関係します。そのような情報も加味して考えます。
私の場合は、術前に病理のセカンドオピニオンをしていて、
結果が一致しているので手術を行った病院の病理医を信頼できること
病変が大きさがわからないほど小さかったことなどから
非浸潤がんということを信じようと思っています。
でも、心の片隅では上に書いたリスクを背負って生きることになります。