使うとかっこいい言葉 ブログネタ:使うとかっこいい言葉 参加中

「すき焼きは男(オレ)にまかせろ!」とは、鍋奉行のおっさんが頻繁に口にする言葉である。かっこいいとは思わないが、俺も一度でいいから吐いてみたい台詞ではある。普段は調理や料理(特に前者)にまったく関心がないようなおっさんが、夕餉や酒宴の主役がすき焼きになると、ああでもないこうでもないと、采配を振るい始めるのは何故なのか?不思議な現象である。すき焼きには、おっさんの内面に眠っている〔何か〕を刺激する機能があるらしい。まあ、最近は鍋奉行も減ってきましたけどね。いると鬱陶しいけど、いなくなったらいなくなったで、ちょっと寂しい。


池田満寿夫の随筆集『男の手料理』の中にも〔すき焼きの話〕が出てくる。夕食の献立がすき焼きに決まると、満寿夫さんと陽子さんは、調理(調味)を巡って、激しく対立するのであった。対立と言っても〔平和な喧嘩〕の類いであり、微笑ましい光景である。砂糖をどっさり入れたがる満寿夫さんに対して、陽子さんは「一粒も入れたくない」と、断固拒否するのであった。両者の間に折衷案は有り得ない。入れるか、入れないかのどちらかである。俺としては陽子案を支持したい。田舎時代、どっさり系のすき焼きを食べさせられて、ウンザリした記憶があるからだ。

とは言え、食通面をして、どっさり系を全面否定するつもりは毛頭ない。味覚は各人様々である。俺は苦手だが、甘いすき焼きが好きな人も大勢いるだろう。嗜好に忠実に食べれば良いのである。


すき焼きにも、関東流と関西流があるらしい。関東風は〔割り下〕と呼ばれるタレを使用するわけだが、この割り下がいい加減だと、すき焼きそのものが崩壊するので、入念に作る必要がある。

割り下は、砂糖と醤油と酒を混ぜたもの。何度か作っている内に〔最良の配合〕が見つかるだろう。グツグツ煮るのではなくて、焼いては食べ、焼いては食べるというやり方もある。その際は品数を絞った方がいい。極端に言えば、お肉とネギがあれば充分である。品数を絞った分、なるべく良質のものを揃えたい。この食べ方は、池波正太郎の『男の作法』の中で紹介されているので、興味のある方は読んでみてください。


満寿夫さんが好むどっさり系のすき焼きは、関西風すき焼きに分類されるのだろう。椎名誠が、旅先(滋賀県八日市)の某有名店で食べたというすき焼き(当然、近江牛)も、はたして、関西風であった。

このすき焼き、文中の表現を借りると「おかみさんがチャッチャと手際よく作ってくれることになった」そうだが、調理の際、大量に投入される砂糖を見て、流石の椎名先生も仰天。だんだん心配になってきて「少なめにしてくれませんか」と、頼んだものの、おかみさんは先生の意見を全く受け入れず「砂糖がないとおいしくならないんですよ」と、こたえたという。