『フェイズⅣ』は1974年9月に封切られた作品である。但し、日本では未公開。4年後の1978年に『戦慄!昆虫パニック―砂漠の殺人生物襲来』という何やら化物屋敷めいたおどろおどろしい邦題をつけられて、テレビ放映された。この映画の存在を教えてくれたのは、町山智浩の『トラウマ映画館』(集英社)であった。町山先生の威光なのか、紹介作品が何本かDVD化されている。誉めた以上は、読者にも観てもらいたいという先生の熱意が伝わってくる。隠れた名作の掘り起こしも、評論家のお仕事のひとつだが、先生の場合はその先へ進んでいる感じがする。なかなかできることではない。これからも精力的な活動をお願いしたい。


『フェイズⅣ』はソール・バスが演出を手がけた唯一の長篇映画だと聞いている。タイトル・デザイナーとしての腕前はきわめて優秀。多くの実績を残しているバスさんではあるけれど、監督としての技量はどうだろうか?本業で頂点に達したからと言って、別分野でも同じようにゆくとは限らない。いつの時代も、異業種監督への風当たりは強いものだが、バスさんが放った初長篇の評判も芳しくなかった。酷評に次ぐ酷評。集中砲火を浴びた形であり、ここまでけなされるとは、さしもの名デザイナーも参ったに違いない。監督とは〔鉄の心臓〕が求められる職業なのである。


『フェイズⅣ』はアリゾナ砂漠を舞台に、人類VS進化蟻の死闘が題材になっており、面白く作ろうと思えば、いくらでも面白くなる筈なのに、全体的に緩慢な印象を受けるのが不思議である。単調な演出が原因だろうか。この単調さは、監督の狙いとも考えられなくもないが、途中から、殺人蟻ならぬ退屈の化物に襲われ、眠気を堪えるのに必死であった。

とは言え、映像的な魅力は相当なものである。小道具も大道具も凝っていたし、特撮場面も重厚な仕上がり。とりわけ、進化蟻が構築した〔反射兵器群〕が、人類基地に攻撃を加える場面は秀逸だった。死闘の果てにつきつけられるのは〔滅びの始まり〕であり、我らが『ゴケミドロ』のような毒々しい迫力には及ばぬものの、絶望感と終末感はたっぷり味わうことができる。


〔地球の覇者〕としての威信もだいぶぐらついてきたことだし、そろそろ、賢明なる蟻たちに王座を譲った方が良いような気もする。過度な描写は避けられているが、どうやら、進化蟻は人間を食べるようだ。人類は昆虫の食糧として、その余生を送ることになるらしい。怖いねえ。知力に長けた侍蟻の大軍団が、各国の主要都市に押し寄せる日も、そう遠くはなさそうだ。ある意味、デーモン族より恐ろしい敵である。

『フェイズⅣ』で展開された戦いは局地戦に過ぎない。本当の戦いはこれから始まるのだ。描写の範囲を限定し、登場人物も必要最低限に定めた監督の判断は正しかった。バスさんは観る者に想像を膨らませる余地を与えてくれたのだ。畳み切れない風呂敷を、無造作(無神経?)に広げる破綻映画よりも、個人的にはバス式に好感が持てる。懲りずに映画制作を続けていたら、突然変異的な逸品を撮っていたかも知れない。