衰えを感じた出来事 ブログネタ:衰えを感じた出来事 参加中

藤野駅でもらってきた『陣馬山ハイキングマップ』によれば、俺が選んだ〔一ノ尾尾根コース〕は登山口から山頂までの所要時間は1時間40分になっている。俺が出発したのは午前10時ごろ。到着予定は11時40分になる。えーっ、そんなにかかるのか?と、刹那疑惑を覚えたが、地図に記されている所要時間には、おそらく休憩も含まれているのだろう。途中で休まなければ、1時間ぐらいで着けると思われた。登山に無理は禁物ではあるが、俺の場合、一旦腰をおろすと、せっかく切り替わった〔山ギア〕が、またぞろ〔平地ギア〕に戻ってしまう危惧があるのだった。


登り始めると、たちまち全身の毛穴から汗が噴き出した。骨がきしむような感覚に襲われ、心臓が悲鳴を上げている。足も体も重い。体内ギアがなかなか〔平地〕から〔山〕に変わってくれない。景観や空気を楽しんでいる余裕がない。事前の準備運動が不足していたこともあるが、エンジン(体力)そのものが衰えているのだろう。以前はこんなことはなかった。

風貌は多少若く見られても、俺の肉体は確実に〔おっさん化〕が進んでいるのだった。それでも俺は休憩をとらずに登り続けた。ほとんど意地の世界である。こんなところで意地を張ってもどうしようもないと言うのに、まったくおっさんとは不可解な生き物である。

山頂を目指す道中、何組かのグループを追い越したり、何組かのグループとすれ違ったりした。疲労困憊の有様ではあったが、彼らと挨拶を交わす余裕だけは辛うじて残されていた。それすらもできなくなったら、俺は山登りを趣味のリストから削るつもりである。

最後の難所。山頂に繋がる階段状の道を、俺は喘ぎ喘ぎ登った。我ながら嫌になるぐらい歩みが鈍い。体力の衰弱に再び愕然となりながら、俺は白馬像を視野に捉えた。腕時計は午前11時10分を示していた。


陣馬山の頂上は結構賑わっていた。山脈を背景にして、鯉幟が虚空を泳いでいた。登山客の割合は、家族連れやグループ客が大半を占めているようであった。俺みたいに単独でウロウロしている者はきわめて少数派…と言うか、下界と同じくマイノリティの部類に属するのだった。

さて、腹ごしらえである。心臓が落ち着いたかと思ったら、今度は胃袋が悲鳴を上げ始めていた。まことにせわしない体である。今日は休日、天気は快晴。ルール通り、三大茶屋の全店舗が営業していた。

水も飲みたいし、柚子シャーベットも試してみたいが、財布の方が薄いときている。価格設定は、まあ、納得可能な範囲の数字である。観光地には観光地の相場というものがある。不服なら食わなければいいのだが―持参食料の温存も兼ねて―ここで済ませておくのが得策であった。


俺は三茶屋のひとつ【信玄茶屋】に行き、名物〔信玄うどん=山菜うどん〕を注文した。なんでここに〔信玄〕が出てくるのかと言うと、山名が〔武田軍が布陣したこと〕に由来するからである。武田とくれば、屋号が【信玄】になるのは自然な成り行きである。仮に上杉勢が軍陣を構えていたら、屋号は【謙信茶屋】になっていただろう。歴史が変われば、屋号も変わるのだ。名物うどんをすすりながら、俺はそのようなことを考えていた。