飛鳥教授は〔恐怖の遺産〕というとんでもないものを息子に託したが、屋敷や土地、財産なども潤沢に遺している…ように俺には思われる。了の活動費や生活費はこれでまかなわれているのだろう。
教授は資産家でもあったらしい。もしかすると、飛鳥家は由緒正しい名門の家柄だったのかも知れない。名字もカッコいいしね。
経済的基盤が確立しているからこそ、教授も自分の研究に没頭できたのだ。専門は考古学。転じて、悪魔対策の先駆者となった。予測の域を超えた劇的過ぎる人生である。飛鳥夫人は異国の女性であり、了の体内には、二人種の血が流れている。貴族的な顔立ちと神秘的な眼差し。飛鳥君は異性にも同性にも好かれる混血の美少年というわけ。裕福な家庭に育った息子らしく、気品のようなものを漂わせている。
不動明の成長過程に関しては全くわからないが、愛情に満ちた家庭環境だったのではあるまいか。どんな家庭だったのか、想像をめぐらせてみるのも面白い。デーモン族の復活という恐るべき奇禍が起きなければ、了も明も青春を謳歌堪能し、順風満帆な人生を歩んでいたに違いない。明は美樹ちゃんとめでたく結婚。牧村家の養子となり、鉄火肌の奥さんに振り回されながらも、幸福な毎日を送ることになる。
舅や姑との関係も極めて良好である。男前と美女の夫婦だから、生まれてくる息子(娘)も当然天使みたいな赤ちゃんに決まっている。両家のおじいちゃんもおばあちゃんも大喜びだ。時には、独立したタレちゃんと会社の帰りに合流し、馴染みのバーで再会の酒杯を傾ける機会もあるだろう。非の打ちどころがない素敵な人生である。
しかし、デビルマンにはそのようなものは幻想でしかない。デビルマンに〔まともな人生〕などは許されないのだ。なぜなら〔人間であることのしあわせ〕を捨てる覚悟を固めることが、デビルマン誕生の第一歩だからである。成功してもしなくても、凄惨無比な末路が待っている。
烏賊悪魔ゲソーの追撃は執拗である。ゲソーの魔手から逃れ得る唯一の場所は〔飛鳥邸の地下〕であった。バベルの塔や光子力研究所ほどではないにしろ、飛鳥邸も様々な仕掛けが施されている。行き止まりに見える廊下の壁が自動的に開いたかと思うと、その奥には退避スペースが確保されているのだ。床の一部に埋め込まれたハンドル(?)を回すと、地下へと通じる空間が即座に現れる。
屋敷の地下は鋼鉄の防壁で守られているらしく、さしもの追跡魔ゲソーも浸入は困難である。彼女のような〔下級デーモン〕は壁抜けや瞬間移動能力を備えていないからだ。でも、職務熱心なゲソさんのこと、獲物が出てくるまで、屋敷の外でジッと待機している気もする。
飛鳥邸の地下シェルターがいつの間に作られたのかはわからない。建築の際に〔ついでに作った〕のだろうか?どう考えても〔悪魔除け〕に用意された設備に見えるのだが…。教授も建築当時は悪魔の存在に気づいていなかった筈である。仮に了の指示だとすると、相当な突貫工事である。一ヶ月やそこらの短期間でこれだけの仕掛けが作れるものなのかどうか。まあ、この地下室も〔サタンの意思〕に従って、専属部隊がこしらえた〔舞台装置〕のひとつだと考えられなくもない。仕事はキチッとやるのが悪魔流。デーモン族は大工さんとしても優秀なのである。