愛読書とは、どんどん増えるものであり、決して減ることはない。増えれば増えるほど、ベスト・テンを選ぶのがしんどくなってくる。まして、ベスト・ワンなど気軽に選べるはずがない。はずがないが、あえて選ぶとするならば、俺は平井和正の『死霊狩り―ゾンビー・ハンター』を選ぶかも知れない。

国産SFの傑作であり、平井バイオレンスの到達点と言って良いだろう。物語も人物も設定も、なにもかもが俺の持つ嗜好の歯車に合致しているのだ。どんなに好きな小説でも「100%好き」とは、なかなか言えないものだが、この作品に関しては別である。巡り会えた幸運を喜びたい。

平井和正の『死霊狩り』と豊田有恒の『退魔戦記』の二篇が、俺に60年代70年代SFの面白さを教えてくれたのだった。それは俺の知らない〔黄金の扉〕であった。扉を開いてみると、そこには驚くべき宇宙が広がっており、まるで〔財宝の山〕に踏み込んだような感覚を感じたものである。以降、芳醇な収穫群を片っ端から読みふけり、現在に至っている。

俺の読書範囲はSFと時代劇にほぼ二分される。前者は空想と幻想が渦巻く法螺話の極致であり、後者は課せられた制約と制約の間にどれだけ独創性を盛り込めるかが鍵となる。分野的には好対照をなしているが、内容的にかけ離れている方が俺には都合が良いのだ。極端から極端への交互移動(運動)を繰り返す振り子のように、ふたつの世界を行ったり来たりしている。


『死霊狩り』は息の長い人気を誇っている作品である。色んな形で出版されているが、その中でも最上位に位置するのが―生頼(範義)画伯が表紙と口絵と挿画を担当している―ハヤカワSF文庫版であり〔死霊好き〕を名乗るならば、自宅の本棚に収めておきたい品である。ハヤカワ版は古書店などでも比較的発見(発掘)率が高いように思われる。俺もこれまでに4冊ほど買っている。どうして同じ本を何冊も買うのだと言われて(笑われて)しまいそうだが、折々にちょっとしたプレゼントとして、知人や友人にあげてしまうからである。価格も数百円程度だから、懐もそんなには傷まない。因みに、現在俺の手元にある文庫は105円で買ったものである。

神保町や大型の古本屋をまめに探せば、さほど苦労せずに見つけられる気がする。そして、もし見つけたら、迷わずレジに運んで欲しい。ハヤカワ版の他にも、角川文庫版やハルキ文庫版が売られている場合もあるので、諦めない事が肝心だ。


最初の接触―ハヤカワ版を本棚から抜き出した時、俺の魂を鷲掴みにしたのは、生頼先生の筆が描出した迫力満点の口絵であった。地下室めいた場所に粉砕された人間の肉体が横たわっており、その中から、緑色をした不定形の化物がムクムクと湧き上がっている。その傍らでは、眼前で展開する悪夢的現象を二人の男が愕然たる表情で見詰めている。一方は―グリーン・モンスターにもぎ取られてしまったのだろうか?―左腕を付け根部分から失っている。壮絶な光景であり、その裏側にどのような経緯と運命が働いているのか、猛烈な興味を覚えた。

この恐るべき絵(怪)画が、俺を〔ゾンビー・ハンターの世界〕に引き込む強力な勧誘剤となったのである。何度見ても凄い絵だ。小説も名作だが、口絵も独自の作品として成立している。デビューから10年、鬼才生頼の鋭気ほとばしる逸品である。