大怪球の脅威が、世界を震撼させる。アンチ・シズマ兵器の出現は、あらゆる動力源をシズマ・ドライブに頼り切っている人類を、滅亡の恐怖に追い込んだのである。向かうところ敵なし―自信満々の表情で「地球静止作戦」を推進する幻夜(声:小川真司)。だが、最高幹部連【十傑集】は作戦そのものに疑問を抱いていた。シズマの根絶は、組織の崩壊に繋がりかねない危険性を孕んでいるからである。
BF団の目的は―Dr.ヘルと同じ―世界征服だが、対象が滅んでしまっては、侵略する意味がなくなってしまう。この問題を巡って、十傑集と策士孔明(声:中村正)は激しく対立するのだった。恐るべき内部抗争の勃発である。マフィア中のマフィア、ダークサイドの巨魁大物が繰り広げる舌戦論戦は、抜群の見せ場として機能している。少なくとも、俺には面白くて面白くて仕方がない。
地球規模の破壊活動を展開する幻夜だが、彼を駆り立てているのは「お父さんの無念を晴らす」という極めて真面目な理由である。BF団も目標到達の手段に過ぎない。あしゅら男爵も凄い役者だが、幻夜もアカデミー賞クラスの名優である。
大怪球などという化物は、個人の力では作れない。組織が有する経済力と科学力があって、初めて具体化するものなのだ。
幻夜をスカウトしたのは、どうやら孔明らしいが、彼は「最初から裏切るつもり」で入団したと思われる。大胆不敵の人物と言わなくてはならない。もし企みが露見したら、どんな目に遭わされるかわからない。十傑集の中には、孔明の迂闊を指摘する者もいたが、実際は「承知の上で」入団させたらしい。そんな事をして、いったい何になるのか、さっぱりわからないが、幻夜の暴走も想定の内であったようだ。
心中や思惑を容易には悟らせない不気味さが、このキャラクターの魅力になっている。表現の難しい大変な難役だが、天才軍師の知名度とベテラン中村の達人芸が融合して、強固な存在感を形成している。
孔明ならば、あしゅらの狙いを見抜いたかも知れない。無意識的に「孔明の知恵」を総大将ヘルに求めていたような気もする。記憶世界の冒険中、あしゅらは「真実」を捉えた。同時に主君に捧げた忠誠心も粉々に砕け散った。
ヘルは嘘つきの代表みたいな男である。酷いと言えば、こんなに酷い奴も珍しい。あしゅらの前では、恩人面をしていたが、全ては偽りであり、出鱈目であった。
あしゅらから見れば、ヘルは最大の仇敵なのである。冬眠中の同胞を皆殺しにしたのもヘルだし、トリスタンとイゾルデの肉体を腐敗させたのも彼なのだから。報復の大義名分は得ている。以後、あしゅらは忠誠を怨念に変えて鋭意策動する。
幻夜に匹敵する復讐鬼の誕生である。だが、あしゅらは勝ち、幻夜は敗れた。その違いは何処にあるのか?狡猾夫婦とお坊ちゃんの違いであろうか、それとも、異星人と地球人の違いであろうか。色々考えられるが、最後の最後まで本音を明かさなかったところが、あしゅらのしたたかさであり、勝利の要因と言えそうだ。作戦を練り上げ、数々の難関を克服して、成功の鍵を見事鍵穴にさし込んだのである。
兜甲児も錦織つばさも迫真の演技にすっかり騙された。ヘルもブロッケンも騙されたし、視聴者(俺)も騙された。多分、原作の豪ちゃんも驚いたんじゃないか。
物語は人類にとって最悪の結末を迎えるわけだが、第1話『大団円』の時点で、ミケーネ勢力の首魁(暗黒大将軍)が登場しているから、この幕切れは、企画段階で既に決まっていたのだろう。よくぞ、ここまで役を膨らませたものだ。敬服する。
再び『真マジンガー』に見(まみ)える機会に恵まれたら、あしゅら男爵が【ナイト】から【キング】に進化する過程をじっくり楽しみたいと考えている。