最終話『決着!ロケットパンチ百連発!』の中に冬眠状態のミケーネ人を片っ端から射殺する場面が出てくる。実行者は兜剣造であり、命令者は妖怪化する前のDr.ヘルである。直接的な描写は避けられているが、地獄の風景のなにものでもない。こういう危険な連中は、皆殺しにした方が良い―というのが、ヘルの判断であり、論理であった。外見は人間そっくりだが、ミケーネ人は人類ではない。だから、その掃討は殺人には該当しない。彼ならば、その程度の詭弁は展開しそうである。
ミケーネ文明の遺産である機械獣を利用するのと同時に、ヘルは「復活の日」を酷く恐れていた。彼の視線は「世界征服の先」に注がれていたのだ。ジャパニウム鉱石(光子力)の奪取に執着したのも、再降臨するであろうミケーネ勢力に対抗する軍団を作り上げる為であった。
全キャラクター中、人類の未来にまで思索の幅を広げていたのは、恐らくヘル一人であり、単なる敵役には留まらないスケールの大きさを感じさせてくれる。
ここまでくると、誰が悪で、誰が善なのかわからなくなってくる。ヘルを撃破した甲児こそ、人類滅亡の大花火を打ち上げたA級戦犯と言えなくもないからである。流石は豪腕今川である。これまで築いてきた価値観を見事にひっくり返してくれた。考えてみれば、原作者たる永井豪も「ひっくり返しの名人」であった。
今川監督は、人物や場面など、表層的な引用だけではなく、作風自体も『真マジンガー』の中に取り込んでしまったのである。その才覚はもっと評価されるべきだし、宮崎駿・押井守・庵野秀明だけが、ニッポンの巨匠ではないのだ。強豪は他に何人も存在する。俺自身、視野を拡大しなければならないと考えている。
原作の『マジンガーZ』は、比較的静穏な幕切れを迎えている。嫌いではないが、若干の物足りなさを感じるのも確かである。これをこのまま動画化しても、ツマラナイとは言えば、ツマラナイ。新世紀マジンガーとしては、もう一工夫必要である。その担い手に抜擢されたのが、甲児の宿敵―あしゅら男爵であった。
男の半身と女の半身を併せ持つ奇跡の怪人。その正体は、ミケーネの生き残り―神職夫婦トリスタンとイゾルデであった。ヘルの傀儡という屈辱的立場に追い込まれたものの、土壇場の逆転劇を成功させた最高の演出家(兼役者)であり、その演技能力は、アカデミー賞もカンヌ映画祭も粉々に消し飛ぶ。一世一代の名演技、文字通り、命を懸けた大芝居であった。
ヘルの誤算は、あしゅら…否、トリスタンとイゾルデに「過去を見られた」事だろう。そのキッカケを作ったのも彼だ。第16話の時点で、敗北は決まっていたのである。