『男たちのかいた絵』(新潮文庫)は【夜も昼も】【恋とは何でしょう】【星屑】【嘘は罪】【アイス・クリーム】【あなたと夜と音楽と】【二人でお茶を】【素敵なあなた】の、計八篇を収録した異形の短篇集である。この本を読むのは高校生以来だが―俺としては珍しく―内容の記憶は鮮明であった。筒井ワールドに魅了され、片っ端から読んでいた時期である。分野としては「ヤクザ小説」に属する筈だが、筒井康隆独自の趣向や工夫が盛り込まれており、油断をしていると、行間からあふれ出す毒気に飲み込まれそうになる。若造時代は、一度入り込んだら、二度とは戻って来れないような恐怖さえ感じたものだ。そんなに怖いのなら、読むのを中止すれば良いのだが、魔性の領域に捉われたら最後、そう簡単には脱け出せないのである。


恐れ多い話だが、今回改めて、筒井先生の文体や文章に強烈な印象を受けている事を再認識した。知らず知らずの内に真似しているのがわかり、内心苦笑した。初めて読んだ時と、面白さが全然変わらないのが凄い。むしろ「面白さが増した」気さえする。当時は不明だった部分が―年齢や経験を重ねる事によって―理解できるようになったからだろう。熟成したワインを楽しむように、一篇一篇を味読した。但し、このワイン、呑み過ぎると確実に悪酔いするから、注意が必要である。


巻末の解説を中島梓―栗本薫が担当しているのも豪勢である。優れた小説論であるのと同時に、秀逸な映画論になっているのが面白い。今更だが、評論家としても第一級の腕前である。巨篇『グイン・サーガ』の作者と深夜放送のヤクザ映画―とは、奇妙な組み合わせのような印象を受けるが、先生の守備(嗜好)範囲は球場全体に及ぶぐらい広いのだ。強靭な胃袋の持ち主であり、大抵の料理は消化吸収が可能であった。ヤクザ映画も大好物のひとつだったのだろう。そして、夜毎の鑑賞体験は、何らかの形で自作に反映されているに違いない。それらを見つけ出し、掘り起こしてみるのも、栗本大陸の歩き方として、充分有り得るのではないかと思う。