『きまぐれ博物誌』(角川文庫)に収録されている「カー・スリープ」という随筆の中に星新一と小松左京が山陰地方を旅行した話が出てくる。

大阪から鳥取まで。所要10時間のタクシーの旅である。車は勿論貸し切り。流石はSF界を代表する巨匠二人、豪勢なものだ。

移動中、星先生は親友との会話と、心地好い睡眠を存分に満喫されたようである。普段は寝つきの悪い先生も、乗り物に乗ると、不思議に良く眠れるらしい。

『きまぐれ博物誌』には「不眠症」という随筆も収録されているが、眠りたいのに眠れない辛さ苦しさというものは本人にしかわからない。


俺も星先生ほどにはないにしろ、ある時期まで不眠に悩まされていた。日曜の晩などは大変であった。職場に行きたくないという恐怖にも似た拒絶が、俺の安眠を妨げたのだ。これに同居者の陰湿な嫌がらせが加わる。とても眠れたものではない。

神経が摩滅し、髪の毛の半分が真っ白になった。このままだと狂死する。俺が移住を決意した理由のひとつでもある。まともな睡眠を取り戻したかったのだ。

試みは成功した。現在は健康的な眠りを維持している。環境が変わり、ストレスが大幅に軽減されたからだろう。注射や服薬では駄目なのだ。病気も不眠も「原因」を除去しない限り、完治は有り得ない。長い人生、時には、荒療治も必要である。