正義の体現者―藤岡弘(現・弘、)が、ロサンゼルスを舞台にサムライ・アクションを繰り広げる異色作。それが『SFソードキル』(1984年公開)である。湖中に転落した戦国武将が―400年の時を経て―現代アメリカに蘇るという荒唐無稽の塊りのような映画である。DVDに収録されていたオーディオ・コメンタリーによると、当時のアメリカは、サムライ・ブームが沸騰―恐らく局地的な現象だと思うが―していたらしい。流行と企画を、抜け目なく結びつけるのがプロデューサーの仕事である。貪欲なまでの商売根性が、米産サムライ映画の誕生に繋がったというわけ。
最大の課題は、主役を誰に任せるかである。アメリカ人俳優が演じたら、本当の冗談になってしまう。もしかすると、三船敏郎や仲代達矢や千葉ちゃんの名が候補に挙がったかも知れない。が、最終的には、我らが藤岡弘に落ち着いたのである。
時間や予算など、諸々の事情が絡んでいるとも考えられるが、結果的には、最善の配役だったのではないかと思う。藤岡さんなら、刀剣類の扱いに長けているし、突飛な設定にも驚かない。なにしろ、秘密結社ショッカーと戦った男なのだから。加えて、風貌的にも肉体的にも、日本人離れした迫力と重量感を備えている。
藤岡さんは意気軒昂、自慢の愛刀(本物!)を携えて、単身渡米したのだった。
エンパイア・ピクチャーズは「一流」とは呼び難い制作会社だが、あちらの映画界は「主演俳優を大切にする」伝統があるらしく、藤岡さんも、ほとんど賓客としてもてなされた。宿舎も待遇も豪勢なものだったそうである。
だが、撮影が始まると、苦労と困惑の連続だったようだ。脚本上の疑問点や、スタッフの勘違いを、藤岡さんは可能な限り修正したという。まあ、この映画自体が勘違いみたいなものだが、熱血俳優としては、看過できなかったのだろう。これは俺の想像だが、殺陣の指導や段取り辺りも自分で行っていたのではないか。
『ソードキル』では、随所で真剣が使用されている。言うまでもないが、藤岡さんの希望である。確かに画面に緊張感を与える効果はあるが、一歩間違えれば大惨事である。そのような危険な提案をする方も凄いが、承諾する方も凄い。アメリカ的度量なのか、あるいは、剣豪藤岡が恐ろしかっただけなのか…。
異国の撮影現場で孤軍奮闘を展開する藤岡弘と、数奇な運命に翻弄されるタガ・ヨシミツの姿が、部分的に重なり合うのが面白い。映画単品だと、少々退屈だが、強力な援護射撃(音声解説)が、興趣を増加してくれる筈である。あなたにも、DVD時代の恩恵を享受してもらいたい。因みに解説役は藤岡さん本人が務めている。