大滝秀治は『必殺仕置人』(本放送は1973年)の第一話にも出演している。我らが両面ヒーロー中村主水(藤田まこと)の伝説はここから始まったのである。エンド・クレジットのトップは、山崎努演じる念仏の鉄だが、劇中では主役級の扱いである。仕置人チームの軍師兼最強戦力として、既に独自の存在感を発揮していた。
最初の頃は「キャラが完全に固まっていない」からだろうか。撮る側も撮られる側も試行錯誤を繰り返しているが面白い。藤田さん自身、主水と生涯つき合う事になるとは想像もしていなかったに違いない。彼の前に何人か候補者がいたそうだが、皆さん「こんな変な役は嫌だ」と、お逃げになったらしい。それを拾い上げたのが藤田さんだったのである。全く運というものは何処に転がっているかわからない。
イメージの固定化という弊害はあるものの「当り役の獲得」は俳優にとって、貴重な財産である。浮沈激しい芸能界で生き残るには「定番商品」は多い方が良い。
大滝さんは【闇の御前】と呼ばれる盗賊出身の大商人を演じている。蛇類のような「ヌルッとした感じ」が役に適合していた。自分の罪を全部他者にかぶせ、素知らぬ面で人生を謳歌しているというとんでもないおっさんである。主水の「初殺し」に相応しい悪党であり「表の顔」から「裏の顔」へと滑らかにギア・チェンジする大滝さんの演技が見事であった。敵役の造形は活劇の完成度に大きく影響してくる。視聴者に「こんな奴、殺してもしょうがねえ」なんて思われたら、作り手の負けである。
ダークサイドを表現する為には、相当な技量を要する。その点、大滝さんなら安心して任せられる。最近の時代劇が退屈なのは、こういう俳優さんが少なくなってしまったからだろう(※他にも要因があるが、その話はまた今度)。そして、悪を演じるのに長けた人は、逆属性を演じさせても巧いものである。大滝さんはその典型者と言える。追悼特集を組むのなら「悪玉篇」と「善玉篇」の二段構えでお願いします。