『昭和枯れすすき』の一場面。高橋英樹が自宅でインスタントラーメン(銘柄不明)を作るところが好きである。ちょっと不器用な感じの手つきが良いのである。無骨な役柄としての雰囲気が適度に醸し出されている。恐らく、食事の支度に関しては、愛妹(秋吉久美子)に任せっ放しなのだろう。刑事は激務である。修羅場の連続であり、さしもの頑強な肉体を誇るデカ兄貴も、帰ってから、家事を手伝う余裕や気力はないと思われる。そんな「刑事の生活風景」が、透けて見える瞬間である。

麺といっしょになにやら野菜のようなものも煮込んでいる。多少健康に気を使っているらしい。鍋から直接食べそうな勢いだったが―感心な事に―中身を丼に移し変えている。その際、冷蔵庫から取り出した生卵を丼中に落とし込むのを忘れない。


ラーメンと生卵!素敵な組み合わせではある。映像としては、とても魅力的なのだが、実際に自分が食べるとなると、少し困ってしまう。どのタイミングで食べれば良いのか、わからないからである。月見そばなどもそうである。見た目は好きなんだけど、食べ方に躊躇してしまうのである。グチャグチャかき混ぜるのは、いかにも泥臭い。極力原形を保ったまま丸ごと啜り込んでしまうのが、俺の方法である。口ではなく「喉で食べる」ような感覚である。このような変わった食い方をするのは俺ぐらいだと思うが、各人の自由であろうし、俺も他人の食い方をとやかく言うつもりはない。自分が正しいと思うルールを守れば良いのだ。余り下品にならぬ範囲で。


この映画、手元の資料には「低予算の小品」と、紹介されている。不思議だ。ミステリー映画の大家―野村芳太郎がどうして小品を?という疑問が湧いたのだが、発表年表を確認して納得した。当時の野村監督は「巨匠の座」を完全には得ていなかったのである。俺などは「大作量産」のイメージが強いのだが、他にも、色んな分野の映画を手掛けているのだ。野村でも黒澤でも、作品群の一部に接触しただけで、その監督の世界を理解したような顔をするのは危険であり、愚かでもある。