池波正太郎の随筆集『食卓の情景』(新潮文庫)は何度でも読み返したくなる名品である。題名を見ればわかるように主要な題材は「食」である。だが、それだけではない。小説家の生活風景や交流関係等が、簡明適切な文章で綴られている。
本筋以外の枝葉部分にも「栄養」が潤沢に蓄えられているのだ。
最近の俺は「ブログを閲覧するような感覚」で池波随筆を読んでいるところがある。池波先生が健在ならば「最強水準のブロガー」に成られたのではないかと、俺は夢想する。池波先生は文章も書けるし、絵も描けるし、写真も撮れる。パソコンやキーボードの操作も案外器用にこなされてしまうのではないかと思う。
池波先生が管理運営される映画ブログなら、俺は毎日でも読みたい。
『食卓の情景』に収録されている『京都から伊勢へ』という随筆が大好きである。
正月明けから働きに働いて、時間を作った池波先生が、一日だけ京都を訪問する話である。先生はこの日に『ダーティーハリー』と『関東緋桜一家』という2本の映画を捉まえている。前者はクリント・イーストウッドの代表作。後者は藤純子の引退記念(!)映画である。鑑賞後、先生は新国劇の辰巳柳太郎と偶然合流する。
辰巳氏の人柄が―印象的なエピソードを紹介しつつ―丹念に書き込まれており、誠に興味深い。辰巳氏は昨日感想文を書いた『赤城おろし』で国定忠治を演じた俳優さんである。豪放磊落な性格。辰巳氏自身が「忠治みたいな人」だったのではないかと、勝手に想像している。加えて「酒類は一滴も呑めない」というのも面白い。舞台に立つ前から、キャラクターが完成してしまっているのである。
池波&辰巳の両雄が向かった先は、木屋町にある【逆鉾】という店であった。
逆鉾はちゃんこ鍋が売り物の店らしい。先生の描写によれば「ぐらぐらと煮えたつ鍋へ、野菜と鶏を叩きこむようにして入れては食べる」そうである。
この一文だけでも、食欲が湧いてくるじゃないですか。二人の会話は男っぽいし、ユーモラスでもある。同時に浮沈激しい芸能界を生き抜いてきた凄味や強かさも感じさせる。盟友と言うより「戦友」と表現すべき関係なのではないかと思う。