小松左京の『毒蛇』は悪夢的未来を題材にしたバイオレンスSFである。

物語の舞台は有毒生物が跳梁跋扈する灼熱砂漠である。

主人公の「おれ」は栄光の証明板を獲得する為に魔境を彷徨する。

略奪と破壊と暴力。殺人ゲームが日常化した狂気の世界である。

「おれ」の標的は「おやじ」である。

いつの時代も父親を超えなくては、息子は一人前(大人)になれない。

どのような形で「父親を超える」のかは各人次第である。

『毒蛇』の中では「殺す」という極端な方法が採用されている。

おやじ側も猛烈な抵抗を展開する。追跡者を幾人も返り討ちにしている。

おやじとの死闘を制したおれは「世界の成り立ち」へと導かれる。

おれの知らない「もうひとつの世界」が存在したのだ。そして…

抜群の面白さ。長篇級の衝撃と充足感を与えてくれる名短篇である。


小松左京の『牙の時代』は遺伝子情報を題材にした破滅系SFである。

生物の凶暴性と攻撃性の象徴として『牙』という言葉が使われている。

…この所、私は体の調子は悪くないのに、変にいらいらしていた。

物語の核心に繋がる伏線(布石)が、作品冒頭に仕掛けられている。

この時点で、既に「異変の歯車」は動き出していたのである。

だが、主人公はその事に気づいていない。最初は狼狽役に徹している。

渓流魚の逆襲や共食い、殺人蜂の出現など、肝を飛ばす場面の連続。

右往左往する姿は喜劇的でさえあるが、だんだん笑っていられなくなる。

生物進化が歓迎すべきものとは限らない。滅亡の発端に成りかねない。

遺伝子内に封印されていた「殺しの才能」が目覚めた時、世界は変わる。

人類が「共食い」を始めたらどうなるか、戦慄の予測が脳内を駆け巡る。

不気味な形で物語は幕を閉じ、その後の展開は読者の想像に委ねられる。