最後に訪れたのが何年前だったのか、記憶が曖昧である。その喫茶店は琵琶湖を一望出来る好位置に建っていた。店の名前はシャーレ水ヶ浜。丸太小屋風の外観が印象的であった。店内を抜けたところに、展望席が用意されており、大湖の風景が楽しめるようになっている。空中庭園とでも呼びたくなる素敵な趣向である。

四季の変化を堪能しながら飲む珈琲の味は格別。日本最大の湖を商売の味方に組み込んだ発想が素晴らしい。それは自然が描き出す壮大な絵画である。

絵画と言えば、冬の湖も一幅の絵に成り得る。いつだったか、突然の雪に襲撃されて、シャーレ水ヶ浜に逃げ込んだ事がある。降雪中の移動は危ないと判断したのだ。店に入ると、薪ストーブが焚かれており、安堵を覚えるのと同時に窓越しに見える琵琶湖の景色に心を奪われた。無数の雪片が湖面に吸い込まれてゆく光景は芸術水準に達していた。俺は珈琲を注文するのも忘れて、視野に広がる天然美術に魅入られていた。それは鮮明な映像として、俺の脳髄に保存されている。


シャーレ水ヶ浜の近くにある観光ホテルに泊り込み、モノポリー大会を開こうと模索した事もあったが、その後の奇怪運命が計画を阻んだ。バカな連中との不毛な争いに時間を削り取られ、好機を逸した。家畜同然の生活に心底ウンザリした俺は、かの地を離れる決意を固めたのだった。構想は構想の段階で消滅してしまった。後悔しても遅いのだ。やるべき事はやれる時にやらねばならない。それが鉄則。


☆シャーレ水ヶ浜…滋賀県近江八幡市長命寺水ヶ浜184