御徒町に十年以上通っている店がある。

屋号は『味舟―みふね』と言う。

営業の真似事をしていた時代に偶然見つけた店である。

何故入ろうと思ったのか、今となっては記憶が曖昧である。

黒澤映画の主演俳優と同じ名前(発音)だったからかも知れない。

他愛もない理由だが、その縁が未だに続いているから驚きだ。

昭和通り沿いの建物に入り、階段を下ると、暖簾が見えてくる。

味舟は和食中心の献立である。

昼間は日替わりランチも出している。マスターは大忙しである。

味舟の店内は機能的に作られている。

L字形のカウンター席とグループ用の座敷席が設けられている。

カウンターの内側が厨房兼食材貯蔵庫である。

料理が美味しいのは無論だが、店の雰囲気自体が好きである。

お客をホッとさせる和やかな空気に満たされている。

マスターも女将さんも全然威張らない性格である。

俺などは「儲からねえ客」の代表だが、いつも笑顔で迎えてくれる。

訪店を重ねる内に注文の必要が全くない事がわかってきた。

俺は食い意地は人一倍張っているが、特に舌が肥えている訳ではない。

マスターが勧めてくれるものをそのまま食べる事にしている。

その方が自分の知らない料理が出てきたりして面白いのである。

ここのマスターが凄いのは俺の懐具合も考慮しているところだ。

何も言わないのに、こちらの予算内にピタリとおさめてくれる。

お陰で、安心して呑んだり、食べたり出来るのである。

昨夜は若い友人と、味舟で合流した。再会の場所としても最適の店である。


寒くなると鍋料理が恋しくなる。味舟の鮟鱇鍋を囲みたくなる。

鮟鱇の魅力が丸ごと味わえる逸品である。鍋後の雑炊がまた旨い。

確実に食べたい人は事前にマスターに相談してみてください。

味舟の冷蔵庫に鮟鱇が常在しているとは限らないからである。

当然の話だが、漁の成り行きが仕入れにも絡んでくるのだ。

大手居酒屋も結構だが、こういう店で宴を催すのが、名幹事というものである。


☆味舟…東京都台東区上野5-23-14 DSM御徒町ビル地下1階