宮崎駿監督の新作『パン種とタマゴ姫』を観た。

この映画を観ようと思うと、ジブリ美術館まで行かなくてはならない。

館内、映像展示室『土星座』のみで上映されている特別作品だからである。

新作がかけられる度にこの美術館に訪れている人も多いと思う。

地方から海外から、彼らは『それ』を求めて、ここにやってくるのだ。

宮崎駿という才能は大変な数の人間を動かす力を有している事になる。

人が動けば、カネも動く。経済貢献度も極めて高い。彼は稼ぐ男なのだ。


『パン種とタマゴ姫』は上映時間約12分の短篇映画である。

『パン種とタマゴ姫』はサイレント映画的な趣向で作られている。

故にこの映画のキャラクターは一言も台詞(言葉)を発しない。

映画の原点―動画(アニメーション)の原点に回帰してみようというのが、この作品の狙いのひとつであるらしい。

同時に当世流行の「饒舌アニメ」に対する皮肉も含まれているような気もする。

物語の舞台は例の如く『何処だかよくわかならない世界』である。

宮崎映画の素晴らしさは、異界魔界―デタラメな世界を描いていても、観る者に確固たる生命感(実在感)を感じさせる点である。

卓越した技術力と、綿密な調査研究が、その構築を可能にしているのである。

凡才鈍才の類がこれを真似したがるのだが、大半が失敗しているようである。

中には「自分が失敗している事」にすら気づいていない者がいるが、これは論外という他はないだろう。最早救いようがない。

主人公のタマゴ姫は文句なしの可愛さだ。

極限の領域まで単純化されたデザインであり、タマゴ姫がちょこちょこと動き回っている姿を眺めているだけで楽しくなってくる。

前半の日常描写から後半の脱出活劇へ。静から動への転換が相変わらず見事である。皆さんお待ちかねの飛翔場面もちゃんと用意されている。

土壇場に登場するパン男は『ナウシカ』の巨神兵、或いは『ラピュタ』のロボット兵の親戚であろうか。それとも、宮崎版ゴーレムか。

ビームを発射しないのが個人的には不満であった。

そういう種類の作品ではないという事は、頭では理解しているものの、野蛮人はついビームを期待してしまうのである。

途中「意味不明の場面」が幾つか出てくるが、いちいち気にしている暇はない。

謎や疑問については鑑賞後に考えれば良い。資料も豊富に販売されている。

それよりも、ゴールに滑り込む事を優先すべきである。

大宣伝の長篇よりも、焦点を絞り込んだ短篇の方にこそ、映像作家の本領が発揮されるのかも知れない。悪役バーバヤーガの健啖家振りも強烈であった。