【 妄想 】あるテニス部員の話 終章 | ∞ Virgo × Virgo ∞

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ふまえて渋谷 (・_・|

 

 

 

…Epilogue
 

雲一つない良いお天気だった。

 

この制服を着て、この校門を通る最後の日。

桜のつぼみはまだ固い。

 

 

「卒 業 証 書 授 与 式」

 

 

 

 

 

…八幡高校という学び舎で知り合い、共に同じ時間を過ごした友人たち、常に私たちを一番に考えてくださり何時も心配しながら支えてくれている家族、未熟だった私たちをここまで指導してくださった先生方、

 

…喜多川校長先生はじめ、諸先生方のご健勝と、八幡高校のさらなる発展を祈念し、卒業生の答辞といたします。

平成12年3月1日
第38回卒業生代表 櫻井翔

 

 

 

生徒会副会長の責を担いながらも、見事K応大学への合格を射止めた桜井くん。超できるオトコの答辞はさすがなものである。

 

 

 

 

 

二つ前のパイプ椅子が、不自然に一つ空いている。

 

 

 

 

 

(教室内)

 

「ねぇねぇ、なんで渋谷くんいないの?またサボり?」

 

 

入学式の事を思い出した。

そういえば、そうだったよね、あの人…。

 

屋上で、ハーモニカ吹いてたんだっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんやかや、卒業式が終わって。

最後のホームルームは、まとまりがなく。

 

ただただ、国分先生と生徒たちで、思い出を語らっている。

 

別れの挨拶を、遠ざけるように。

 

 

 

 

 

喉の奥に、何かが詰まっているようで。

何度も何度も、つばを飲み込む。

 

時計ばかりを見ていた。

 

 

 

 

 

 

チラッと国分先生が腕時計をのぞき込む。

 

「…そろそろだな」

 

 

 

「みんな、屋上に行くぞ」

 

 

 

 

クラスの大多数は、なぜ屋上?という不思議顔。

 

 

 

初めてクラス全員、、、一人いない3年8組で屋上に立った。

 

 

 

 

 

快晴の空に。

 

飛行機が見えた。

 

 

「みんな、、、卒業おめでとう。

本当はクラス全員、34名、全員を見送ろうと思ったんだけど。

一人せっかちな奴がいてな、もう就職先に行ってしまいました」

 

 

ザワザワザワ…

 

確かめる間もなく、その一人とは、渋谷くんの事。

 

 

「遠いところでさ、飛行機じゃないとムリで。

フライトの都合で、卒業式を待たずに出発しやがった。

 

 

多分、あれだ。

機体の上半分が、水色の。」

 

 

 

国分先生が、空を差した。

 

礼服のポケットから、くしゃくしゃのメモを取り出し、読み上げる。

 

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

KLM オランダ航空 862 11:40発

アムステルダム経由ハンブルグ行き

 

^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^

 

みんな驚いて声も出せない。

 

 

横山くん、村上くんは、じっと空を仰いでいた。

 

 

 

 

 

理美、じん子「ウタ、知ってたの…?」

 

 

 

***

 

 

 

 

あのリストバンドの日。

初めてこんなに長く話したって日。

 

てっきり音楽大学に進学するだろうと思っていたから、どこを受けるのって聞いたら

 

「大学は受けへん。

国分先生のツテで、ドイツに行こおもてる」

 

 

 

 

目の前で岩盤崩落でも起きたのかと思った。

 

本当に目の前が真っ暗になるって、、、あるんだね。

 

 

 

* * *

 

 

 

昨日の三送会。

 

はちこーで見た渋谷くんの最後の姿だった。

しっかりと目に焼き付けた。

 

 

 

 

一言だけ。

「頑張ってね、、、」と挨拶した。

 

 

「バウムクーヘン買うてくるわ」

 

そう言って、いつものように村上くんと2ケツで帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卒業式のあと、

クラス33名と、国分先生でカラオケボックスに行った。

大部屋貸し切りで、卒業祝い。

 

常にだれかがマイクを取り合い。

ワーワーギャーギャー言ってる。

 

じん子が、寄ってきた。

 

「あのさ、みんなにずっと内緒にしてたけど、

やりたいこと、出来たって言ったじゃん、アタシ」

 

カバンの中から、スケッチブックを取り出した。

「横山くんに振られてから、なんか神が降りてきてさ、アタシに。

美しい人を、書きたいって、むっしょーーーに思って。

ずっとずっと、美しいもの綺麗なものを、書きたいって欲求が高まっちゃって」

 

「美大目指して、予備校行ってたんだ」

 

理美、私、またまた口ぽかーん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

出されたスケッチブックの中は、オール横山くん!のデッサン画。

 

「いや~、ひたすら描いたね、描いて描いて描きまくったね。お陰で合格したよ!M美大!!」

あまりの仰天報告に、10秒はフリーズしてたと思う笑。

 

それから、また、私たちは、ムツゴロウのように、じん子をワーッシャワーッシャワーーーーッシャともみくちゃにした。

 

アホもボーダー超えると才能だね!!

おめでと、じん子!!

 

理美は4年生大学に進学。

私も専門学校へ行くことが決まっていた。

 

6年間、本当に楽しかった。

この二人と出会えたから、今の自分がいるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日談、語っちゃいますね~。

私たちに興味ないと思いますけど(笑)。

、、、いちおう。

 

 

理美はバリバリのキャリアウーマンになりそう!って思ったけど、あっさり大学卒業とともに結婚。

すぐに子宝に恵まれ、専業主婦やってる。

出産後、お祝いで駆け付けた時。

あの鬼のサンチェが、愛娘のおむつ替えをしていて、しかも赤ちゃん言葉で「キレイになりまちたね~♡」って言ってて。

 

いやー、人って変わるんですね(笑)。

 

 

じん子は、美大在学中にアイドル誌に投稿したイラストコラムが、編集者の目に留まり。

すぐに売れっ子イラストレーターとなった。

そのイラストコラムがまた傑作で…タイトルが「イケイケイケメン」ていうの。

あれ~~~、この三人誰かに似てないって?(笑)

 

 

あ、私も今は専業主婦です。

他に特筆する事項はありません!!

 

 

 

今日も今日とて。

子供を園バスに乗せて、ママ友とおしゃべり、、、

 

っと!こうしちゃいられない。

今日は、所用があるので、マターと言って、切り上げてきた。

 

ママチャリにまたがり、目指すは駅前のモール。

 

開店10時、ジャストに入店。

CDショップに直行。

 

 

お財布から出した小さな紙を店員さんに渡す。

 

「少々お待ちください」

 

バイト君は、うしろのラックからごそごそとCDを取り出してきた。

 

「ご予約のお品物は、こちらで宜しいでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

END