防人の旅たち
(1)
空は晴れ渡り 風そよぎ
花咲き乱れ 鳥は鳴く
輝きあふれ 旅立ちを
祝っているような朝
けれど誰にも 笑顔なく
交わす言葉も途絶えがち
頭なでつつ 語る父
ただ一言「幸くあれ」と
野の花摘んで 襟元に
飾るその手も 震えつつ
「お前はこれから 西のはて
遠い国へと 長い旅
達者で暮らせ」と言いし母
ああ忘れられない ふるさと
(2)
筑紫(つくし)の野に満つ 若者(ますらを)ら
大和の各地を 出で立ちて
軍務(いくさつとめ)に 励めとは
醜(しこ)の御楯(みたて)となれよとは
都にまします 王(おおきみ)の
御楯になろう 言い交わす
友の眼差し 良き友よ
励ましあえる 嬉しさよ
夜のしじまに ひそやかに
友は語りし ふるさとの
想う娘の 機織りの
歌声聞こえる 心地する
兵営を出でて 空見上げ
ああ満天の星 降るよう
(2-5)
幾歳月を 重ねきて
心によぎる故郷の
畑耕す父の背と
衣(きぬ)縫う母の指先を
想いつつ祈る 東雲(しののめ)に
ああいかにいますか 父母
(原歌)
父母が頭かき撫で幸(さ)くあれと言ひし言葉(けとば)ぜ忘れかねつる (丈部稲麻呂 はせつかべのいなまろ 20-4346)
今日よりは返りみなくて大君のしこの御盾と出で立つ我は
(今奉部与曾布 いままつりべのよそふ 20-4373)
(防人の歌のひとつ。防人は関東から九州・筑紫防衛のため送られた。万葉集には防人の歌が沢山収録されている。万葉集の編者と言われている大伴家持は一時防人の編隊などを司る任務に当たっていた時期がある。その時に収録したのではないかと言われている。)