高裁判事が一人、弾劾裁判所において罷免の判決を受けた。法曹界にとっては重大事件なので、今日以降、日弁連をはじめ各地の弁護士会から会長声明・談話が出ると思うが、概して裁判官弾劾制度の制度的不備(結論に対して抗する手段がない等)の批判、裁判官の一般的表現行為に対する過度の萎縮効果への批判、法曹資格喪失・退職金不支給などの重大な結果と比較しての当該行為の評価といったところで、大勢は批判的な論調を弁護士会全体としては発するしかないと思われる。

 

 裁判官は最高法規たる憲法に於いてあつい身分保障がされている特別な国家公務員(特別職)であることからして、一般の公務員に比して、高い自己規制・抑制指向と職業上の高い倫理観を持っていることが望ましいのは言うまでもない。それを踏まえると、当該裁判官(行為当時)が職務に絡むことで執拗な攻撃的発信をしていた点は、裁判官として不適当な行為と言わざるを得ないと考える。被害者側に二次的な被害を生じさせた結果は重大である。

 

 ただ、それが裁判官を弾劾し罷免するに値するかどうかというのは、判断が難しい所である。今回のケースは犯罪行為ではなく言論行為を弾劾裁判の訴因とする初のものであり、裁判官ではなく一私人としての表現行為という面もあることから、弾劾裁判所としても慎重な上にも慎重な議論をしたものと思う。当該裁判官側からすれば、退官の意思を表明していることもあり、罷免という重い判断は避けるべきということになるが、一方で発言で傷つけられた被害者側には強い「処罰」感情があったことも事実である。一般裁判でも被害者側の処罰感情は大きな判断材料であり、今回の弾劾裁判所の判断でも重きを置かれた。

 

 当該裁判官は法律実務家としては評価が高く優秀であったことは法曹界の誰しもが認めることろではある。裁判官として職務をきちんと遂行してきたが、最後は退職金もなく法曹資格も失うという結果になったのは誠に残念ではある。法に基づいて判決から五年経過といった条件を満たせば、請求して法曹資格の回復を求めることは可能だが、これも認められるかどうかは裁判次第で分からない。弁護士登録をしなくても、大学や司法試験予備校の講師など仕事には困らないと思うが、法曹資格を喪失した衝撃は当該裁判官にとっては大きなものだろう。

 

 優秀な仕事人が必ずしも人格者ではないのは分かり切ったことなので、優秀な仕事をしていたからと言って当該行為に対する制度的制裁に手心を加える必然性はないものの、法曹としての仕事ができないのは勿体ないとは思う。が、これも自業自得な面もあるし、被害者側のことも考えると結論的には仕方がないのかとも思う次第。当該裁判官側は判決に納得することはないだろうが、結論が出たからには一ミリも事態が変わることはない。よって周囲の支援を得て前向きの今後の人生を歩んで欲しいと思う。愚僧の雑感ゆえ乱文は乞うご容赦。