カレーだ。
カレーが食べたい。
















朝8時半。
「まぁまぁ。おにゃかついたー。」
(まま、お腹空いた。)



我が家の3歳の天使。

朝から尊すぎる。





夏休み真っ只中、目覚ましも掛けずに
この時間まで寝てられるのは幸せだ。





「朝ごはんにしようね。」






私は一階へと向かう。






階段を降りると見えてくる
謎の生物の痕跡。








リビングのど真ん中に広げられたままの
セミダブルのマットレスとタオルケット。







放置された電子タバコと
携帯の充電器。
昨晩、脱いで丸めた靴下と洋服。







私の仕事は毎日これらを片付ける事から
始まるのである。







電子タバコの吸い殻が落ちていたら
謎の生物を即処分する所だが、
そこだけは片付けたようだ。







残念。









タオルケットをたたみ
マットレスを移動して
天使達が遊べる空間を作る。







眠そうな目を擦りながら
天使達が降りてくる。






「ママ、おはよう」






今日も我が家の可愛いが始まった。





我が家では、
謎の生物に朝関わることはない。






朝食を食べない生態だからだ。
あの生物は家を出る10分前に起床する。
とてつもなく余裕のない生き物なのだ。






飯の支度をする必要がないのであれば
私がヤツの為にわざわざ朝起きる必要も
あるはずがない。




私は少しでも天使達と
安らかな眠りについていたいのだ。








まぁそんなわけで
ヤツが仕事の朝は
もう何年も遭遇してない。








天使達と朝食を食べながら
珈琲を飲む。








朝から元気な天使達。







3歳の天使は口の周りが
ジャムで真っ赤になっている。







ちなみに3歳の天使は男の子。
7歳の天使は女の子だ。







私にとっては尊い天使だが
分かりやすくする為に






モモ様(7歳)
タロ様(3歳)
と呼ぶことにしよう。







モモ様は
手が汚れるのが大層お嫌いで
四等分にカットした食パンを
フォークで刺して食べている。笑







タロ様は
手も服も顔すらも
全てを苺ジャムで染めて
食事をとても楽しんでいらっしゃる。笑







うん。
今日も素敵な1日の始まりである。








私は2人を眺めて笑っていた。
その時だった。








カレーが...........食べたい.........







本当にふと。





突然に。







身体がカレーを求め出したのだ。



やばい
やばい
やばい



私の脳は
もうカレーの事しか考えられなくなった。









「ママ、今日はカレーが食べたいんだけど
どうかな?」







天使様達に聞いてみる。








正反対の食べた方をしている2人が
目をパチクリさせながら言う







モモ「いいよー!」
タロ「いいよー!」








完璧だ。












16時30分。






近所のイオンから帰った私は
キッチンに立っていた。





実は我が家は
というか私は






カレーを作る事を
極力避けていたのである。





なぜなら、私と謎の生物は
かなりの辛党なのだ。
唯一の共通点と言ってもいいだろう。








カレーを食べるのであれば
辛いカレー以外は有り得ない。







だが、尊い天使達に
そんな激物を食べさせるわけにはいかない。





よって、カレーの日は
2種類のカレーを作ることになるのだ。






そう、避けていた理由。



2種類作るのが面倒だから。








しかし、今日ばかりは仕方がない。
猛烈にカレーが食べたいのだから。







私はそこから2時間をかけて
2つの鍋に色も匂いも全く別のカレーと
その他の食事を作り上げた。







18時30分。
食卓にそれぞれのカレーを出し
天使達と手を合わせ







「いただきまーす」







汗をかきながら
食べるカレーは最高だ。







甘口のバーモントカレーも
天使達は喜んでくれた。







キッチンの洗い物は凄いことになっているが
まあ良しとしよう。



口の周りを黄色く染めて
嬉しそうに頬張る天使が2人。




切って煮てルーを入れただけのカレーを
なにかプレゼントでも貰ったかのように
喜んで食べてくれる。





なんて愛おしい存在だろう。







21時。
天使達は眠りについた。




私はいつものように
そこから家の片付けを始める。





キッチン


ダイニング


リビング





23時すぎ、



カチャッ



という音ともに
今日も汗だくの生物が帰ってきた。



「カレー?」







私はカレーじゃねぇよ。




とは言わない。






「そうだよ」





ただいまも言わないこの生物は
まず匂いに反応したらしい。







私はIHのスイッチを押して
真っ赤なカレーを温めた。





今日の献立は
カレー
ポテトサラダ
グリーンサラダ
ゴボウの漬物
エビマヨ
ワカメと卵のスープ








私は食事の組み合わせが
昔から下手だ。






何と何が合うか
よく分からない。







合わないと言われても
それぞれは美味しい。
そう感じるから。






一人暮らしの時は慣れない料理をして
カレーの日のおかずに刺身を出して
彼氏だった謎の生物に驚かれた事もある。







だから品数で勝負する道を選んだ笑








「福神漬け、、ないの?」










あーーーーーーーーーーーーくそ。








「ない」



「そっか」






謎の生物は福神漬けが欲しかったらしい。







不満そうに携帯を取り出し
YouTubeを見始めた。










そんな姿を見て
私は少し。ほんの少し。



悲しかった。









カレーと福神漬け








確かに
お好み焼きにソース
卵かけご飯には醤油








それくらい当たり前の物。








気が付かなかった私のミスかもしれない。




だけどさ、、、、、







品数見てよ。







おかずが無くても食べられるカレーなのに
何品おかずがあるのか。








汁物もあるんだよ?







カレーって汁じゃないの?
別で汁物っているの?








小さな子供を2人見ながら
2時間キッチンに立って
2種類のカレーをダッシュで作ったんだよ。









怒り、そしてほんの少しの悲しさが
溢れそうになる。








私は洗い物をする手を止めないまま
下を向き続けた。








謎の生物はこちらを見る事も
話す事もなく
ちゃっかり全てを完食。







本当に良く食べる生物だ。







今年で34になった生物。








身長も高くがっしりとした身体。
長い手足。







そして何より







整った顔。









そう、謎の生物はかなりのイケメンなのだ。









そこに私の好みや感情は一切ない。
世の中的に見ても
かなり整った顔をしている生物だ。








キリッと整った眉
スッと通った鼻筋
二重の大きな目
長すぎるまつ毛
体格の割に小さな顔
完璧すぎるEラインの横顔
日本人離れした濃い顔をしてる。








例えて言うなら
色黒な真剣佑さん。かな。








そして
天使達もその遺伝子をしっかり受け継いでいる。








一方の私は.......




いや、やめよう笑





外見も中身も一般すぎる30代。








今日も濃すぎる真剣佑、






じゃなかった謎生物。
食器をそのままにリビングにマットレスを
敷き始めた。




巣を作っているようだ。








2度目の食器洗いをする前に
私は玄関へと向かい外に出る。









家の前の階段に座り







タバコに火をつけた。








もくもくと
煙を吐きながら色んな事を考える。








この令和の時代に。
一時的にだが専業主婦で。
イケメンの旦那がいて。
子供が2人いて。
明日の飯の心配なく慎ましく暮らせている。







きっと幸せな事なんだろう。








結婚して8年。




どこからこんな風になったのか。




このままでいいのだろうか。




このままで大丈夫なのだろうか。




子供達は何を感じるだろうか。




「美味しかったのかな、、、、」







私の中に残った疑問。
それを煙と一緒に吐き出した。







腹が立つし、顔を見る事もなくなった、
話す事も特にないけど
家族に美味しいと思ってほしくて
毎日キッチンに立っている。







感謝しろ、なんて思わない。









ただ、美味しかったか。
それは聞きたかったな。










私にとって誰かに喜んでもらえないなら
料理に作る意味なんてない。








料理なんて好きではない。
やればやるだけ洗い物が出る。








手はカサカサになり
生ゴミも出る。








自分の為だけなら
カップ麺しか作らない女だ。









独身時代、一人暮らしの時も、
自分の為に食事なんて作った事はない。









朝からパンとか焼ける
お母さんに、奥さんに、なりたかった。








だけど私には向いてないらしい。
料理も裁縫もママ友付き合いも
苦手なことが多すぎる。









元々は働くことが大好きだった。
キラキラした職場にいたから
自分もキラキラしている気がしてた。
妊娠を機に仕事を辞め、
隙間を見つけてはパートをする。








キラキラしなくなった毎日だけど
そんな事はどうでも良くなった。
天使達が可愛いから。








天使達、と呼んでるのは
ここだけの呼び方ではない。







本当に日常でも心の中で
子供達をそう呼んでる笑








正社員を辞めた劣等感
キラキラしなくなった劣等感
社会と隔離されたような孤独感
日々、歳をとっていく自分
愛されなくなった自分









色んな感情を私の天使達は
吹き飛ばしてくれるのだ。







「ご馳走様ーーー!」
「ご馳走様ーーー!」






笑顔全開でカレーを口にいっぱい付けた
天使の笑顔が見られただけで
今日はカレーを作った甲斐があった。








、、、、、次は福神漬け、買っておこう








タバコの火を消し
洗い物、第二ラウンドへ私は向かうのだった。