以前、ある先生が『外科医が一人前に育つのに10年かかるのに対して内科医は5-6年。』とおっしゃっていたのを時々思い出します。(その先生は外科医でした)
自分自身を振り返ってみて確かにある程度(恣意的な判断ですが)の事ができはじめたのは5-6年経過してからでしたが、現在、総合内科のフィールドにいて『総合内科って奥が深くて、頂上はどこまで続くんだろう』ってつくづく感じる毎日です。
やればやるほど、今まで気がつかなかった事に着目できるようになり、例えるならば今まで『ぼんやりと木が立っている』くらいしか認識できなかったのが、『太い枝から細い枝がいくつも分岐していて』というように、より細部の情報まで捉えられるようになってくる感じです。
今まで一人前になった気分で『できていた』と勝手に思いこんでいたことはとても薄っぺらい、危うい知識と経験だと、自分がさらに成長して初めて気がつくのです。
でもそんな事って成長した後だから気付くもので、最初からは分からないんです。(今現在の私が捉えられる範囲のものも10年後の自分に笑われることでしょう。10年後には葉の一つ一つの多様性にも気がつけるように、葉脈まで認識できるように、自然の奥深さや神秘さまで感じとれるようになれればと期待しています。)
こうした視点を持ちはじめると外来で遭遇する1症例1症例が実に多様性に富んだ興味深い症例の数々であることに気がつくようになります。
主訴とは全く違ったところで興味を引かれることもあり、論理的に説明つかない事象に関してはしつこくなる傾向があります
(総合内科あるあるかな?)
こんなところが個人的には『おもしろい』『やりがいのある』と感じる一つでもありますね。
他にもこんな面で総合内科は重要かなと感じることがあります。
いくつかの分野に散らばっていたバラバラだったパズルのピースの欠片が集って、より一つ一つのピースの意味がはっきりしてくることがあります。
『ステロイド』の使い方などはいい例でしょうか。
ある一つの分野を奥深く勉強していくと、そこで培った知識と考え方(特に考え方)は、それとは異なった分野やまったく経験したことない症例と出会った時でも応用できることがあります。
内科がmajorでその中にsubspecialityがいくつもあって、実はそれぞれの専門分野で別々の事を扱っているのではなくて、大きな考え方、内科学の考え方というのは共通しているのです。
ですから、実は専門医になっても内科ができる人というのはきちんと総合内科的な視点をもっています。
総合内科はこうした根本をささえる内科学の考え方を学ぶのにとても良い環境にあると思います。
こうした事ってとても大事なのですが、なかなかうまく伝えられません。教えてくれる人もあまりいないんです。できれば各専門に入る前、もしくは入った後でもこうした視点を意識して欲しいと思っています。
最終的なアウトカムに何を求めるのかは各個人によると思いますし、そんな世界(視点)を知らなくとも勿論ハッピーになれますが、もし将来は内科を目指したいという学生や研修医がいれば、こんな意見もあるんだと理解してもらえればと思います。
雑談が長くなりました。本題に入りましょう。
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『特発性縦隔気腫(Spontaneous pneumomediastinum:SPM)』について
知っているとなんてことないんですが、若年者の嚥下痛や頚部痛、嚥下障害などを主訴に来院されることもあります(先日のケースカンファではそうでした)。
忘れた頃にやってくるER疾患として覚えておくといいでしょう。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20405645
SPM41症例のretrospective study
http://ejcts.oxfordjournals.org/content/31/6/1110.full
比較的な稀な疾患であるためこれまで大規模臨床検討などはされていません。少数のcase seriesを散見するのみです。
明らかな誘因なく縦隔の間質に空気が貯留した状態を『特発性縦隔気腫』と定義します。
特発性でない場合というと例えば、医原性、術後、外傷による気管気管支の断裂や食道などの管腔臓器の破裂の他にもガス産生菌による感染などがあります。
特発性縦隔気腫の多くは肺胞が破裂すると考えられているのですが、肺胞が破裂すると末梢肺胞と縦隔の圧勾配に従って、空気は肺門部や縦隔に流れてきます。そのため縦隔気腫になるんですね。
1931年にLouis Hammanによって最初に提唱された疾患であるため、別名『Hamman's syndrome』としても知られています。
Hamman's sign→SPMで認められる特徴的な身体所見。心拍動に一致して聴取される低調な捻髪音。国試で覚えたけど実際に聴取されるのは稀(12.2%)です。
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『疫学』
若年(平均21歳)男性に多く、喫煙や喘息などが3割を超える患者で認めているため促進因子の一つとして考えられています。他の誘因因子として運動(12.2%)、嘔吐(9.8%)、咳(7.3%)、上気道感染(7.3%)、息こらえなどの胸腔内圧が上昇するような身体的動作もありますが、しかしながら約5割では明らかな誘因は認めていません。
胸痛(85.4%)が最も多い症状で、胸膜痛です。他には呼吸困難(48.8%)、頚部痛(43.9%)、が続きます。嚥下痛(36.6%)といった訴えもあります。身体所見では頸の皮下気腫(65.8%)、胸部の皮下気腫(29.2%) 、Hamman's sign(12%)
胸痛や呼吸困難があれば胸部レントゲンを撮ってみようという意識は例え疾患を想定できなくとも働きますね。
Pitfallは胸痛を訴えずに『咽頭痛』や『頚部痛』、『嚥下痛』や『嚥下障害』で来院することです。
→若年者の胸痛や呼吸困難、頚部痛、嚥下痛の鑑別疾患にSPMを考慮し、身体所見では皮下気腫を見逃さないことが大切。
『画像検査』
胸部2方向のレントゲンでほとんどの縦隔気腫は診断可能ですが、縦隔気腫が少量の場合にはCTでないと不明瞭なこともあります。
意識してみないと見逃してしまいますね。
『鑑別疾患』
最も鑑別すべき疾患の一つは特発性食道破裂である『Boerhaave's syndrome』です。
臨床像がSPMと似ていますが、いくつかの点で鑑別可能です。
発症年齢、嘔吐に伴って発症する事、全身状態不良やバイタル変動、発熱、胸水貯留、WBC上昇、凝固異常など特発性縦隔気腫に比較して重篤です。→胸部造影CTや食道造影
画像はこちら
http://www.qqct.jp/seminar_answer.php?id=882
『治療』
安静、疼痛コントロール
ほとんど数日で軽快しますが、経過観察目的で2-5日の入院を勧めることもあります。→小児では特に増悪例(緊張性縦隔気腫)に注意して経過観察必要。
※緊張性縦隔気腫 小児では重篤になりやすい
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jacsurg/23/7/23_7_918/_pdf
※人工呼吸器関連の緊張性縦隔気腫
http://www.jsomt.jp/journal/pdf/052020133.pdf
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