第2回九州総合内科セミナー』に参加してきました。医学生さんが主催されたイベントなのですが、参加費無料ということもあって九州各地から多くの参加者を募って大盛況でした。



救急医の挑戦 in 宮崎

救急医の挑戦 in 宮崎


個人的にも日本の総合診療や救急医療を代表する徳田先生、雨田先生、西垂水先生の貴重な講義(および講義の進め方)をお聞きすることができて多くの刺激を頂きました。


西垂水先生には出張コロッケ会を宮崎で是非やって頂くようにお願いしてきましたので、機会があれば宮崎救急プライマリケア研究会のイベントにご招待したいと思います。


コロッケ会』とは

http://imamura-bunin.com/croquette/Welcome.html


セミナーで勉強になったことを少しご紹介していこうと思います。


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本日は『辺縁系脳炎(limbic encephalitis)』についてのお話ですが、その前にいくつか基本的事項を押さえておきましょう。



辺縁系脳炎の症例

http://www.brighamandwomens.org/Research/depts/neurology/images/Daffner.NEJM.11.13.08.pdf


髄膜炎のカンファレンス症例の記事

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11287093243.html


細菌性髄膜炎の記事

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-10950887137.html




脳炎の原因

感染症(ウイルス、細菌、真菌、抗酸菌、寄生虫など)の他にもADEM(※)や自己免疫性、脳症も含めると鑑別は多岐にわたります。特殊な脳症にはインフルエンザ脳症、プリオン病、進行性多巣性白質脳症、RPLS、抗癌剤、橋本脳症によるものなどがあります。脳症と脳炎の鑑別は時に困難なことがあります。(下表を参照ください)


ADEM:ワクチン接種後やウイルス感染後に発症する自己免疫性の脱髄性脳炎ウイルス性脳炎との鑑別点は病歴ならびにADEMでは脳MRIで白質に多巣性の病変を認める(ウイルス性では灰白質が主に侵される)



脳症と脳炎の違い


救急医の挑戦 in 宮崎



脳炎/脳症の鑑別疾患』にはどのような病態が挙げられるでしょうか?

意識障害AIUEOTIPSの鑑別疾患を考えていけばよいですね。


救急医の挑戦 in 宮崎


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では、本題の辺縁系脳炎についてみていきましょう。


辺縁系→海馬、視床、視床下部、扁桃体、前帯状回など


救急医の挑戦 in 宮崎

大脳皮質にすっぽりと覆われているのが大脳辺縁系です。辺縁系は食欲や性欲などの基本的な生命維持に関わる本能的な欲求の他に記憶、学習、感情にも関わっています。そのため『辺縁系脳炎』の症状としては、(近時)記憶障害、痙攣、意識障害、食欲/性欲亢進、睡眠障害、人格や行動障害といった精神障害が出現してきます。


原因

原因は以下の2つに大別できるが、はっきりしないことも多いです(いわゆる非ヘルペス性辺縁系脳炎)。


①感染性脳炎(infectious encephalitis)

HSV、稀にHHV-6、VZV(後2者はcompromised hostに起こる脳炎)


ヘルペスウイルスには単純ヘルペスウイルス(HSV)の他にも、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス、EBウイルス、HHV-6.7.8がありますが、いずれも脳炎を発症します。


この内、最も発症頻度が高く未治療での死亡率が60~70%と高率で予後が悪いのがHSVです。(一方でヘルペス性髄膜炎は脳炎と異なり予後良好


エンテロウイルスやインフルエンザウイルスも脳炎を起こしますが、辺縁系脳炎患者において優位に分離されたとの報告はありません。


②自己免疫性脳炎(autoimmune encephalitis)


・傍腫瘍性辺縁系脳炎(paraneoplastic limbic encephalitis:PLE)

肺小細胞癌、胸腺腫瘍、乳癌、精巣癌が多い


血清中の腫瘍マーカーやPET、CTなどにより腫瘍が発見される3年前から症状を呈することがあります。PLEを疑った際には抗Hu抗体(肺小細胞癌)、抗VGKC抗体(胸腺腫)、抗Yo抗体、抗Ta/Ma抗体、抗ANNA-3抗体、抗CRMP5/CV抗体などの抗神経抗体を測定することにより、腫瘍の発見からはるか早期より診断に至ることもあります。


NMDAR抗体若年女性の卵巣奇形腫との関連あり

http://www.myschedule.jp/jsco2009/detail.php?kouen_id=230&sess_id=1301&strong=1


腫瘍に対する効果的な治療(原発巣の除去)をすることで改善することもありますが、不運なことに脳細胞を破壊してしまうため神経学的な症状の改善をみない症例も多くあります。



・自己免疫疾患性

Sjogren syndrome、SLE、Morvan syndrome

最近では橋本脳症と辺縁系脳炎/脳症との合併も報告されている


自己抗体介在性


辺縁系脳炎のうち、感染性(ヘルペス)、傍腫瘍性、自己免疫疾患性が否定されたものは原因不明もしくは自己抗体介在性と考える


ステロイドやグロブリンといった免疫を抑制する薬で多くの症例は改善する。


海馬などの辺縁系脳組織をターゲットにする特異的な抗体(抗グルタミン酸受容体抗体など)が知られています。



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(辺縁系脳炎の典型的な脳MRI)


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各自己免疫性脳炎の臨床症状の特徴と治療への反応性は以下のように言われています


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(自己免疫性脳炎と抗神経抗体)



実際的なアプローチとしては病歴や身体所見から脳炎/脳症を疑うことが第一歩です。


そしてhistory&physicalに加えて脳MRI、脳波、CSFで脳炎/脳症のmimicsを除外(AIUEOTIPSの鑑別)していきます。


脳炎/脳症の中では感染性(ウイルス、細菌、真菌、結核、寄生虫)を除外する。


感染性が否定的であるならば自己免疫性を考慮して、腫瘍スクリーニング各抗神経抗体を検査し治療に入っていきます。




救急医の挑戦 in 宮崎


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ヘルペス脳炎かな?』と思っても経過の悪い症例ではこうした自己免疫性脳炎が背景にあるかもしれません。若い女性の脳炎というのがポイントです。


ある先生は婦人科を廻った時にたまたま卵巣腫瘍による傍腫瘍性辺縁系脳炎をたて続けに3例経験したとお話されていました。


今までよく分からなかっただけで、意外と多いらしいです。


私自身は一度も経験はないですが、ケースカンファで『もしかするとこれかも。。。』という症例はいくつかあります。


ERで若い女性のヘルペス脳炎?と思ったら腹部エコーで卵巣腫瘍がないかを確認できるといいですね。(本症例はERでしっかりと疑っていました。すごい!)


ではでは。

 



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