本日は『胸水貯留の診断アプローチ』についてです
中でも比較的コモンでありながら診断に難渋する『悪性腫瘍随伴性胸水』や『結核性胸水』についてお話していきます
http://www.aacn.org/wd/cetests/media/a112002.pdf
http://www.aafp.org/afp/2006/0401/p1211.html
以前にお話した『膿胸とドレナージ』の記事はこちら
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11260799711.html
胸水の成因はいろいろな分け方があると思いますが大きく次のように分類できます
①静水圧の上昇
②血管透過性亢進
③血漿膠質浸透圧の低下(低アルブミン血症)
下腿浮腫のアプローチと考え方は概ね一緒です。
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-10963687754.html
最初のステップは『片側or両側性』、『急性or慢性』、『滲出性or漏出性』(明らかな漏出性を示唆するような基礎疾患がないか)というように大まかに分類することです。
片側性胸水の鑑別疾患はこちら
滲出性胸水では想起しやすいinfectionやneoplasm以外にも肺塞栓(滲出性、漏出性ともあり)(=Vascular)、RA、SLE(=Autoimmune)、膵炎、心筋梗塞後(=ニnflammatory)、薬剤(=Intoxication)なども鑑別に挙がります。
先日、高齢者で胸痛を訴えずに『倦怠感』を主訴に来院し、偶然CTで指摘できたStanfordB型大動脈解離も経験しました。
レントゲンでは縦隔も拡大せず、非典型的なプレゼンテーションでしたがretrospectiveにみると左の胸水は目立っていました。
大動脈解離では炎症が波及して胸膜の血管透過性が亢進し滲出性の胸水が貯留すると言われています。
熱もでてCRPも上昇します。
救急の先生は急性の片側性胸水(左>右)の除外すべき疾患として肺塞栓とともに大動脈解離を頭の隅に置いておくといいかもしれません。
熱もでて炎症反応も高いと『胸膜炎』と早期に診断閉鎖してしまうかもしれませんね。
さて、次に病歴や臨床症状、身体所見から鑑別疾患を絞っていきます。
Table1参照 http://www.aafp.org/afp/2006/0401/p1211.html
喀血を伴っていれば悪性腫瘍や結核、肺塞栓などを、腹水があれば肝硬変や卵巣癌、Meig syndromeなどをという感じにですね。
『診断のアルゴリズム』はこちら
『Light's criteria』は有名ですね
滲出性胸水に対する診断特性としては感度はほぼ100%と除外に有用ですが、特異度は80%程度と言われています。
心不全で利尿薬を使用していると誤って滲出性と解釈されてしまうことなどが挙げられています。
Lightの基準は確かに特異度はそれほど高くないですが、蛋白一つとってみると、血液中に対する胸水中の蛋白の割合が0.5でカットオフポイントを設けていますが、この数値が上昇すればするほど、滲出性胸水の特異度は上昇します。
Table3参照 http://www.aafp.org/afp/2006/0401/p1211.html#afp20060401p1211-t3
LDHも同様です。Lightの基準だけ確認するのでなく、こうした中身をみていくことも大切です。
さて、ここから本題に入ります。
報告によると『悪性腫瘍随伴性胸水』の原発巣は肺癌>乳癌>リンパ腫>卵巣癌>胃癌と言われています。
基本はリンパ球優位になりますが、他にもTb、サルコイドーシス、SLE、RA、乳び胸などでも優位になります。
細胞診の感度は約60%程度ですが、偽陰性を考慮して2回目をすることは10-15%程割合を上昇させます。ただし3回目はほとんど有益でないと言われています。
腫瘍マーカーは各疾患に合わせた診断特性をもちますが、感度は低く、否定の材料には使用できません。
単独のマーカーだけでなく、腺癌や扁平上皮癌、悪性中皮腫などを考慮してCEA、CA15-3、CYFRAなど組合わせて検査することが勧められていますが、前述したdiagnostic approachからは外れています。疑いを強くした時に測定するものでしょう。
『悪性中皮腫』について
アスベストが原因のほとんどと考えられていますが、暴露歴不明なことも多いと言われています。
中皮腫の胸水マーカーとしてヒアルロン酸(100μg/mlまたは100,000ng/ml以上)は有名ですが、感度はそれほど高くありません(cut-off値 (sensitivity 62%, specificity 98%))
診断には胸腔鏡下生検し特殊染色を併用するのが原則。
診断がついた患者は労災や救済法のシステムの適応となります。
本題に戻ります。CTはどうでしょうか?
胸水の中に隠れた腫瘍や結節、肺炎などの評価のために造影CTが推奨されています。
blind biopsyはTb(特にリンパ球優位)に対しては有益である可能性もあると言われていますが、細胞診陰性である場合に悪性腫瘍探しの有益性は乏しいと考えられています。
胸腔鏡という選択肢はどうでしょうか? CTで結節や腫瘍等が明らかでなくとも、覗いてみて明らかな組織の異常があればそこをbiopsyできますね。
気管支鏡はどうでしょうか? 喀血や肺浸潤影(閉塞性肺炎)、無気肺などの所見がある場合に考慮します。
検査にはこうしたそれなりの根拠があります。
最後に『結核性胸膜炎』についてです。
http://pneumonologia.gr/articlefiles/pleural%20TBC%202010.%20pdf.pdf
結核性胸膜炎は比較的コモンな疾患で、肺外結核の約20%を占めると言われています。
閉鎖腔で周囲への感染の心配がなくとも、放置しておくと5年間で約65%の患者で肺外または肺内の結核を発症します。
放置しておいても自然に消退したり、キノロン系に反応してしまうので注意が必要です。
胸水中の細胞は通常はリンパ球優位になりますが、急性の場合は好中球優位になることも知られています。
ADAの上昇は結核性のみならず、癌や膿胸、RAなどでも上昇します。
培養の感度は40%以下で塗抹はほとんど陰性であり、PCRは特異度は90%と高いのですが、感度は40-60%程度です。
胸水中のADA:40U/Lをカットオフポイントとすると感度90%、特異度85%でリンパ球優位の場合には特異度は95%まで上昇すると言われてますので、診断にはここが重要になります。
胸水中のIFN-γの上昇は感度も特異度も高いと報告されていますが、本邦ではまだ一般的でありません。
結核性胸膜炎の症例です
http://www.kekkaku.gr.jp/ga/Vol.86(2011)/Vol86_No7/Vol86No7P723-727.pdf
いろいろ頑張って精査してみても10-15%の胸水貯留は原因不明とも言われています(どこまで精査したのか不明ですが)。
こうした場合は経過観察をすることになりますが、症状が自然と軽快していけばいわゆる『良性』の胸水貯留であったと判断され、実はこうしたものが多いと言われています。
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