本日は『心不全の診断に有用な所見』のお話です。

JAMAのrational clincal examinationから
http://www.mcgill.ca/files/emergency/CHF.pdf

心不全』の診断って意外と難しいことがあります。

肺うっ血があったら→うっ血がでないものもあります

心拡大があったら→心不全でなくとも大きい人がいます

下腿浮腫があるから→心不全でなくても浮腫はでます。

EFが低下していたら→拡張不全もあります。

心不全と診断するgold standardなる所見や検査値が現在までに存在していません

ですから他の説明しうる病態を除外して、総合的に『心臓が原因で臓器不全を起こしている』という判断が大事になります。


心不全に至る病態は次のとおりです。

①虚血などで心臓に異常が生じて
②ポンプ機構の代償機転が破綻し
③主要臓器の還流不全が起こり
④それに基づく症状や兆候が出現



単純に『心不全だ』と認識するのではなくて、左心不全なのか、右心不全なのか、両心不全にいたっているのかと細かく分けて考えて、後述するそれぞれの所見の意味を理解するようにしましょう。

原因として覚えておくとよいのは『FAILURE』です。

F:Foget Meds:薬の飲み忘れ
A:ArrhythmiaとAnemia:不整脈と貧血
I:IschemiaとInfection:虚血と感染症
L:Life style:ライフスタイル(塩分過剰摂取など)
U:Upregulators:甲状腺機能亢進症や妊娠
R:Rheumatic:リウマチ性を含めた弁膜疾患
E:Embolism:肺塞栓




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さてさて、これらを踏まえた上でどんな臨床症状/所見/検査値が心不全の診断に有用であるのかをみていきましょう。

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History』からは下記の項目が心不全のrule in/ rule outに有用です

心不全の既往(LR5.8,95%CI:4.1-8.0)
心筋梗塞の既往(LR3.1,95%CI:2.0-4.9)
冠動脈疾患の既往(LR1.8,95%CI:1.1-2.8)


心不全の既往なし(LR0.45,95%CI:0.38-0.53)
心筋梗塞の既往なし(LR0.69,95%CI:0.58-0.82)
冠動脈疾患の既往なし(LR0.68,95%CI:0.48-0.96)

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臨床症状』からは下記の項目が有用です。

発作性夜間呼吸困難(LR2.6,95%CI:1.5-4.5)
起坐呼吸(LR2.2,95%CI:1.2-3.9)
労作性呼吸困難(LR1.3,95%CI:1.2-1.4)

労作性呼吸困難なし(LR0.48,95%CI:0.35-0.67)
起坐呼吸なし(LR0.65,95%CI:0.45-0.92)
発作性夜間呼吸困難なし(LR0.70,95%CI:0.54-0.91)


『労作性呼吸困難なし』というのは心不全の否定に使用できますね。


※起坐呼吸

 呼吸困難が臥位で増強し起坐位または半坐位で軽減するという臨床的徴候を言います。
一般に左心不全の主要徴候として知られていますが、左心不全の状態で臥位をとると右心系への静脈還流の増加、これによる肺血流の増加から肺うっ血をきたします。この変化が起坐位では軽減するため患者は自ずから起坐位をとろうとします。ただし起坐呼吸は左心不全に特異的なものではなく気管支喘息(あれば中発作以上)や肺炎などでも見られ、これらの疾患では肺血流量の問題ではなく気道分泌物の喀出が臥位では困難となることが原因と考えられています。

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身体所見』はどうでしょうか?

Ⅲ音聴取(LR11,95%CI:4.9-25.0)
Jugular venous distension(LR5.1,95%CI:3.2-7.9)
下腿浮腫(LR2.3,95%CI:1.5-3.7)
ラ音聴取(LR2.8,95%CI:1.9-4.1)

Ⅲ音が聴取されればまず間違いないですね。

(Ⅲ音は拡張早期に心室壁に血液がぶつかり発生する音です。心室のコンプライアンスが低下や拡張期容量負荷によって生じますが、若者では生理的なⅢ音が聴取されることもあります)

Jugular venous distensionは頸静脈怒張と訳していいのでしょうか?

ある有名先生は『頸静脈怒張』とは外頸静脈が拡張してべたっと頸に張り付いている緊急の状態でこの場合には次の3つを鑑別に挙げると教わったことがあります。

肺塞栓、心タンポナーデ、緊張性気胸

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(google画像より拾いものですが、まさにこんな感じです)


ですから、『jugular venous distension』とは『頸静脈圧の上昇』くらいに考えていいと思います(後述します)。


ラ音聴取なし(LR0.51,95%CI:0.37-0.70)
下腿浮腫なし(LR0.64,95%CI:0.47-0.87)
JVDなし(LR0.66,95%CI:0.57-0.77)



ちなみに『心臓喘息』はどうして起こるのでしょうか?
http://www.uspharmacist.com/content/d/health_systems/c/39079/

左心不全症状として見逃したくないですね。メカニズムとしては2つの仮説(末梢気道粘膜の浮腫 VS 気道過敏性亢進→気道収縮)があります。

レントゲンでも肺うっ血が目立たない程度の心臓喘息を経験したときは後者かな?と感じました。

なかなか奥が深いですね。。。。


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胸部レントゲン』や『心電図』の有用性はこちら
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肺うっ血あり(LR11.0,95%CI:5.8-22.0)
心拡大あり(LR7.1,95%CI,4.5-11.0)
胸水(LR4.6,95%CI:2.6-8.0)

胸部レントゲンで異常なし(LR0.11,95%CI:0.04-0.28)
心拡大なし(LR0.54,95%CI:0.44-0.67)


胸部レントゲン写真は身体所見と比べるとかなり有用なことがわかります。

ちなみに心拡大を示唆する身体所見として心尖拍動の偏位があります。胸骨の正中線より10cm以上離れている場合は心拡大があります。


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BNP』の感度、特異度はこちら
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BNPが100以下であれば心不全の可能性はかなり低いと考えられるとすると記憶しやすいですね(LR0.09,95%CI:0.04-0.19)



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このmeta-analysisに限らず他にいくつも心不全の診断に関するstudyがありますが、結局のところ、現在までに心不全の診断には『gold standard』がないので『これって本当に心不全としていいのか?』というのが含まれています。多くは循環器内科医による評価やエコーの所見を基準にしていますので、評価者の主観的な判断によるバイアスが生じてしまうのは否めません。

数値は参考値ぐらいに考えていいと思います。


最後にひとつ、『JVP測定の仕方』の動画を紹介します。

画像やエコーが全盛の時代にあってもこうした地味な?身体所見は非常に役にたつ時があります。

誰がみても明らかな心不全では有用性が少なくても、『これって心不全の浮腫?低栄養から?』なんて時にこうした所見を知っておくと役にたつかもしれません。

それから循環のボリュームを評価するにも役に立ちますね。

内頚静脈圧は右心房から内頚静脈の「拍動の頂点」までの垂直距離のことです。

JVPは45度の傾斜で座ってもらって、内頸動脈の拍動が観察できる1番上のところが、胸骨角から垂直方向に測定して何cmの高さにあるのかを見るものです。

右房から胸骨角までの距離は体位によって変動しないと理論上は考えられているため、実はベットは拍動が確認できれば何度でもいいという事になっています。

右心房から胸骨角までが5cmあるので、実測値+5cm=内頸静脈圧と判断できます

正常は6~8cmH2Oです(正常値は本により様々です)

私の場合は2横指が約3cmなので、これ以上であれば圧が高いと判断します。また、JVPの拍動が確認できなければ循環は虚脱していると考えることができます。

内頸静脈は外頸静脈と違って外表から観察できませんが、より右心房に近く右心房圧を反映します。外頸静脈で代用することも可能性ですが、外側に位置し径も細いので正確性は欠けてしまいます

このJVPはCVPと本質的には同じ圧であり、測定方法が異なるだけです。CVを挿入しなくてもVolumeの評価ができるという点もいいですね



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心不全治療のストラテジー』はこちら
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11466335679.html