本日は『関節炎のアプローチ』についてです。
内科外来をしていると『関節痛』を主訴に来院される患者さんに出会います。
どのようにアプローチしていけばいいでしょうか?
① まずは関節内の問題(関節痛)なのか関節周囲の問題(腱断裂など含む)なのか判断することから始まります。
関節痛は他動的に動かしても関節痛が認められ、どの方向に動かしても痛みがあることが特徴です。ピンポイントで『ここが痛い』といった場合やある一定の方向で痛みが起きたり、他動的に動かして問題なければ関節痛でなく、関節周囲の問題と判断できます。
② 次に炎症性か非炎症性関節炎なのかの判断です。
発赤、腫脹、疼痛といった炎症所見は勿論ですが、夜間痛や腫脹、長時間の朝のこわばりなどは鑑別の上で有用な情報となります。
朝のこわばりは、非炎症性である変形性関節症では10分以内、炎症性でも全身性エリテマトーデス(SLE)などでは30分以内であるのに対し、関節リウマチでは1時間以上続きます。
30分以上であればRAの感度も高いです。
③ 最後に関節炎の分類ですが、これは急性か慢性か、単関節なのか多関節なのかによって大きく4つに分類して整理しておきます。
→鑑別疾患は大きく①感染性 ②結晶誘発性 ③膠原病/血管炎 ④血清反応陰性脊椎関節症を想起しておきます。
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【急性単関節炎】
①細菌性関節炎
非淋菌性は高齢者、免疫不全状態の患者(ブドウ球菌、溶連菌が多い)
多くは他部位からの細菌の血行性散布によるため、IEを含めて他の感染巣を探すことが大事です。滑膜組織は血流に富み、細菌が着床しやすいのです。
非淋菌性は高齢者、免疫不全状態の患者(ブドウ球菌、溶連菌が多い)
多くは他部位からの細菌の血行性散布によるため、IEを含めて他の感染巣を探すことが大事です。滑膜組織は血流に富み、細菌が着床しやすいのです。
淋菌性は若年者に多く、移動性、多関節炎を呈することもあります。
(移動性関節炎→淋菌性、ウイルス性、SLEなどなど。。)
『淋菌性関節炎』
淋菌性関節炎は、Sexually-activeな若年者の細菌性関節炎の原因として最も一般的であり、男性:女性比は約1:3。病像には2タイプあり移動性多発関節炎・皮膚病変・腱鞘炎(tenosynovitis)という典型的な「三徴」を来すものと、非対称性単関節炎・多関節炎で発症するものがあります。
腱鞘炎は手首の屈筋腱やアキレス腱に多いと言われています。
関節炎は滑膜炎を起こすためですが、典型的には単関節炎というよりも手首や膝や足首といった2.3の関節を侵します。
ちなみに滑膜(synovium)は厚さ1ミリにもみたない薄い膜で、関節の内側をおおっています。滑膜からは関節液が分泌されていて、軟骨がこすれ合うときの潤滑油になったり、軟骨へ栄養を補給したりしています。
滑膜は、関節液がもれないように閉じられたビニール袋のような組織で、骨と骨の間につくられた[みずまくら]ともいえるクッションです。関節を動かすとき、骨どうしがぶつかって傷ついたり、痛みが出ないようにしているのが、軟骨と滑膜なのです。(上図を参照してください)
診断を行うためには関節液のグラム染色と培養を行いますが、感度が低く50%以下とされています。グラム染色だけに頼らず、患者から性交渉歴を詳しく聞き取ると共に、咽頭・子宮頸部・尿道・直腸からも淋菌培養検体を採取することが診断確定において重要です。またPCRの有用性も報告されています。
関節液培養陽性率 25%
尿道培養 25%
培養陽性率が低いため、診断的治療(セフトリアキソン)すると速やかに抗生剤に反応するのが特徴
②結晶誘発性関節炎
通常痛風は閉経前の女性にはほとんど見られない
偽痛風は高齢者で膝、手首、肩などの大きな関節に多い
通常痛風は閉経前の女性にはほとんど見られない
偽痛風は高齢者で膝、手首、肩などの大きな関節に多い
急性~慢性に多関節を侵すこともあります
③外傷性
④急性多関節炎の初期
【急性多関節炎】
①ウイルス性:parvovirusB19、HBV、HCV、風疹、HIVなど
②細菌性関節炎
③慢性多関節炎の早期(RA,SLE,血管炎,脊椎炎、PMR、成人スティルなど)
①ウイルス性:parvovirusB19、HBV、HCV、風疹、HIVなど
②細菌性関節炎
③慢性多関節炎の早期(RA,SLE,血管炎,脊椎炎、PMR、成人スティルなど)
Parvo virusは子供が感染するとりんご病で頬が赤くなるが、大人は関節炎が主体です。診断はparvovirusB19 IgM抗体陽性で判断します
家族にリンゴ病の患者がいたかどうか、網状疹、触知可能紫斑などは重要な所見となります。通常2週間で軽快するが、慢性化することもあるためfollowすることが大事。数週間で治癒します。特徴的な臨床症状とされる平手打ち様頬部紅斑は成人ではまれで、血球減少や自己抗体がみられることもあります
【慢性単関節炎】
非炎症性
①変形性関節症
②無菌性骨壊死:大腿骨頭壊死など。アルコール、ステロイド剤の摂取歴
③神経原性関節症:DMなど、痛みが軽いため骨破壊が著しい
④外傷性
非炎症性
①変形性関節症
②無菌性骨壊死:大腿骨頭壊死など。アルコール、ステロイド剤の摂取歴
③神経原性関節症:DMなど、痛みが軽いため骨破壊が著しい
④外傷性
炎症性
①慢性多関節炎の早期
②結核性関節炎(特に股関節)
③傍腫瘍症候群
④慢性多関節炎の初期
①慢性多関節炎の早期
②結核性関節炎(特に股関節)
③傍腫瘍症候群
④慢性多関節炎の初期
高齢者で他で説明がつかない関節炎は傍腫瘍症候群を考慮する
若年者ではlymphomaを鑑別にあげる
【慢性多関節炎】
①関節リウマチ
②リウマチ性多発筋痛症
③結晶誘発性関節炎(特に偽痛風)
④SLEなどの膠原病
⑤反応性、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎などの血清反応陰性脊椎関節症
①関節リウマチ
②リウマチ性多発筋痛症
③結晶誘発性関節炎(特に偽痛風)
④SLEなどの膠原病
⑤反応性、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎などの血清反応陰性脊椎関節症
膠原病の中でも多関節炎型が主体となるのは関節リウマチ、強皮症、混合性結合組織病、再発性多発軟骨炎などに限られます。SLE、シェーグレン症候群、成人スティル病、血管炎、血清反応陰性脊椎関節症などは単関節もしくは2-4つの少数関節炎型で間欠性、遊走性であることが多いと言われています。
2010年ACR/EULAR関節リウマチ分類基準はこちら。
他の疾患では説明できない関節腫脹が少なくとも一つ以上もつ患者が対象になっています。このような患者に対してX線で骨びらんが指摘できればRAの診断が成り立ちますが、びらんを認めない場合には上表のような分類基準に照らして6点以上で早期RAと診断します。
早期診断基準の主目的は骨びらんがない状態で治療を開始することですから、診断精度に関してはある程度信頼できますが、擬陽性がでる可能性も指摘されています。
擬陽性とはどんなものでしょうか?
確定診断のつかない未分化関節炎の経過をみていくと、①RA ②その他の疾患 ➂未分化関節炎のまま ➃自然寛解 の4通りになることが分かっています。
自然寛解するものにはpseudo-RAとして知られる偽痛風も含まれているでしょう。
表にもあったRA診断基準の一項目であるRFについてです。
RFは自己IgGのFc部分に対する自己抗体のことです。RAの患者の80%に検出され、当初は主としてRAに認められる因子としてリウマトイド因子と命名されましたが、その後の研究でRF は必ずしもRA に特異的なものではなくRA 以外の疾患にも存在することが明らかになりました。
RAでも常にRFが検出されない『seronegative RA』も存在します。また健常人でも陽性反応することがあります。 全人口の約3%に検出され、加齢とともに陽性率は増加し、75歳以上では約25%が陽性になると言われています。
健常者の内でRFが高力価陽性である者は、将来RAを発症する確率が高いと言われています。RA 以外の膠原病でもRF は検出されますが、なかでもシェーグレン症候群や強皮症では頻度が高い。その他、悪性腫瘍、感染症、肝疾患などの疾患でもRF が認められます
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繰り返しになりますが、RAは骨びらんがない状態で治療を開始し寛解維持していくことが理想です。そうした早期関節リウマチを見逃さないために上記のような分類基準が提唱されています
PIPやMCP、手首の関節腫脹(パン生地のような硬さ)と圧痛を見逃さないようにしましょう。
OAではMCP関節の腫脹や圧痛は認めません(DIP>PIP)。触診では硬くごつごつした感じになります。
抗CCP抗体はRAの発症前から陽性になることが知られています(特異度は95%)。
次に血清反応陰性脊椎関節症についてです。
血清反応陰性脊椎関節症はリウマチ因子陰性で背椎、仙腸関節、末梢関節、腱や靭帯の骨への付着部の炎症を主徴とし、しばしば眼、皮膚、消化器、泌尿、生殖器、心などの関節外症状を伴う疾患。家族内集積がありHLA-B27遺伝子との関連性が高いです。
このような症状を表す疾患として、強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、反応性関節炎、炎症性腸疾患に伴う関節炎がある。またHLA-B27との関連のないものもあり、代表的疾患として掌蹠膿疱症性関節炎などがある。
特に『反応性関節炎』は消化管(エルシニア、サルモネラ、カンピロバクターなど)または尿生殖器感染症(クラミジア感染)に続いて(4週以内)発症する疼痛を特徴とした若年男性に多い関節炎です。
下肢関節が罹患しやすい急性非対称性関節炎(滑膜炎)ですが時に慢性化し、アキレス腱や足底筋膜の腱付着部炎が特徴の一つでもあります。
→ソーセージ指も同様の所見と考えることもできます(強皮症やMCTDも)。
(非化膿性)関節炎、(非淋菌性)尿道炎、結膜炎の3徴を伴ったもの(Reiter症候群)は一病像にすぎません。
感染症に対して適切な抗菌薬を使用することは症状を若干改善する可能性はあるものの、関節炎を発症した後に抗菌薬を使用しても有用性は得られないとする複数の報告があります。
NSAIDsは症状をある程度緩和しますが、十分な効果は得られません。慢性化した例などにメトトレキサートおよびサラゾスルファピリジンが有効な事があると言われています。
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これまで見てきたように関節炎は4つに分類しるのが基本であすが、実際には下図の通りにかなりoverlapすることも知られています。
(週刊医学会新聞:もう膠原病は怖くないhttp://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02932_11 )
他にも『再発性』関節炎や『移動性』関節炎などのkey wordを使用して鑑別を絞る手がかりになります。
再発性→結晶誘発性、回帰性リウマチ、反応性関節炎、サルコイドーシスなど。
回帰性リウマチ:24-72時間程度の発作性の単/少数関節炎(通常は単関節炎で小関節に多い)
最後に関節炎のアプローチ症例編です。
http://www.igaku-shoin.co.jp/misc/medicina/seiroka4411/index.html
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/doctors/info/mag/nm/pitfall/201005/515117.html
本日は以上です。お役に立てれば幸甚です。
ドクターP
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