本日は心停止時の『前胸部叩打』についてお話します。


最近の医療ドラマはまったく見ていないので分かりませんが、その昔『振り返れば奴がいる』という織田裕二主演の外科医を主役にしたドラマがありましたね。


織田扮する天才外科医の司馬先生が好敵手の石川先生(誰だっけな?)の胃癌(スキルス)の手術を執刀し、手術は無事成功。互いに敵意をもっていた二人がなんとなく互いを認め合うことができて感動的な瞬間がしばし流れる。


『肺塞栓でも起こさなければ大丈夫でしょう。』といって帰った矢先に、突然の前胸部痛から心停止で石川先生が倒れてしまう。


『戻ってこいー!石川ー!』と言って振りかざした拳で前胸部を叩いていた、あれが『前胸部叩打』です。


すごく前ふりが長くなってしまいました(笑)


あのドラマをみて医者になろうって思った人は多かったんじゃないかな。


ドラマの中では患者と医局で『麻雀』してたり、製薬会社との癒着の話があったり、時代を感じずにはいられませんね。


さて、『前胸部叩打』に関しては次のように『JRC蘇生ガイドライン2010』に記載してあります。


VFによる心停止に関する院外および院内の研究では、医療従事者が行った前胸部叩打によってROSC(自己心拍再開)を得る試みは不成功に終わっている


電気生理検査でのVTについての研究では、熟練した循環器科専門医による前胸部叩打によりROSCを得たのは1.3%に留っており、その有用性は限定されていた。


電気生理検査室以外の院内・院外の症例報告では前胸部叩打はVT患者の19%でROSCをもたらした。一方、前胸部叩打によるリズムの悪化は3%の患者にみられ、その大部分は遷延した虚血あるいはジキタリス中毒の患者であった。前胸部叩打による合併症おしては胸骨骨折なども散見される。


前胸部叩打はVFに対してそれほど効果は期待できないし、目撃のない院外心停止例に対して行うべきでない(class3)。


モニタリングされた患者の不安定なVTに対して、すぐに除細動器が使用できない場合には前胸部叩打を考慮してもよい(class2b).

 

かなり限定された状況になりますね。やったら『カッコいい』だろうけど、多分する機会はないですね。


以上です。