本日は『成人Still病(adult onset still's disease:AOSD)』についてです。
不明熱の鑑別できちんと考慮しなければなりませんが稀な疾患という事もあり、膠原病を専門としない先生にとっては難しい疾患の一つではないでしょうか。以前に血清フェリチンとの関係をブログ内でもお話させて頂きましたね。
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-10981620275.html
成人Still病は稀な全身性の炎症性疾患(systemic inflammatory disorder)で、spike feverや一過性のサーモンピンク疹、関節痛、咽頭痛、筋肉痛を伴いリンパ節腫大や脾腫などを認めます。
病因は不明ですが、遺伝的に素因のある患者さんが何らかの感染をきかけに発症するのではないかというのが有力な説のようです。
T細胞の活性化や高サイトカイン血症も関与しており、こうした病態は他には敗血症、HPSが有名ですね。
T細胞の活性化→リンパ節腫脹、(肝)脾腫
高サイトカイン血症→紅斑、spike fever
こんな風に整理して覚えています。
診断は臨床的にされますが、感染症や悪性腫瘍、他の膠原病などを除外しなければならないのでとても時間がかかることが多いです。特異的な検査データはないのですが、炎症を反映してESRやフェリチンが上昇することや、RF陰性、抗核抗体陰性が知られています。
どんな時に疑えばいいでしょうか?
『関節痛』でも特に『多関節炎と高熱』であったり『発熱後の関節炎の発症』や『再発性関節炎』を見た場合は積極的に疑うことが大事です。
他にも『リンパ節腫脹』や『肝脾腫』でも鑑別に挙げたいですね。
『心囊液の貯留』や『胸水貯留』もあります
『びまん性紅斑』でも鑑別疾患にしっかりと挙げておきたいです。
VINDICATEアプローチのA(自己免疫疾患)でこの成人スティル病を忘れないでください。
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さて、成人Still病の疫学ですが、発症は20-40代の比較的若年成人に多く、わが国では1:2-3でやや女性に多いです。
最も多い症状は高熱、関節症状と皮疹の3つでこれをAOSDの3主徴といいます。
先に分類基準をみてしまいましょう
【成人Still病分類基準】
大項目 1)発熱(≧39℃、1週間以上持続)
2)関節痛(2週間以上持続)
3)定型的皮疹
4)80%以上の好中球増加を含む白血球増加(≧10000/mmの3乗)
小項目 1)咽頭痛
2)リンパ節腫脹あるいは脾腫
3)肝機能異常
4)リウマトイド因子陰性および抗核抗体陰性
大項目2項目以上を含み、合計5項目以上で成人Still病と分類する。
ただし、除外項目は覗く。
参考項目: 血清フェリチン著増(正常上限の5倍以上)
除外項目: 1)感染症 2)悪性腫瘍 3)膠原病
他にもいくつかの診断基準(分類基準)が提唱されているが、上記山口らのAOSDの分類基準が感度特異度ともに優れていると言われており内外で最も広く利用されています。
感染症や悪性腫瘍、他の膠原病を除外し臨床的に診断する必要があります。
次に成人Still病における臨床所見および検査所見ですが、
【成人Still病の臨床像と検査所見】
頻度(%)
発熱(≧38℃) 100
関節症状 100
関節炎 72
定型的皮疹 87
咽頭痛 70
リンパ節腫脹 69
脾腫 65
体重減少 56
筋肉痛 56
薬剤アレルギー 54
赤沈亢進(≧40mm/時) 96
リウマトイド因子陰性 94
抗核抗体陰性 93
白血球増加(≧10000/mmの3乗) 89
好中球増加(≧80%) 83
肝機能異常 85
血清フェリチン増加 82
フェリチン著増(正常上限の5倍以上) 69
発熱、関節痛、皮疹の3主徴が大切であり、頻度も高いです。次に各症状についてですが、
『全身症状』
典型的には咽頭痛とともに急激に熱発することが多いです。夕方から夜間に39℃以上に上昇し朝には平熱近くまで解熱するspiking feverの熱型をとります。発熱が2-3週間続いても感染症などと異なり、消耗感が少なく、解熱時には比較的元気で食欲もある。治療が遅れたり、重症化すると発熱は1日に2回のピークを示したりすることもある。
『関節症状』
関節症状は、膝、手、足、肘、肩などの比較的大きな関節炎としてみられることが多く、初期には関節X線上異常を認めませんが、長期観察例では手関節や股関節に強直性変化がみられやすくなります。
RAと異なり、MP関節やPIP関節が侵されることは少ないです。関節炎の程度は体温と並行することが多く、高熱時には疼痛や熱感が著名となるが、解熱時には症状はかなりの程度軽快する。
『皮膚症状』
皮疹はリウマトイド疹とも呼ばれ、本疾患の診断上大切な所見です。(下図上が発熱時のもの、下が消退したものです)
サーモンピンクとも表現される丘疹状紅斑で大きさは径数mmであるが、散在性にあるいは集族、融合してみられる。頚部から上胸部、および四肢に出現することが多い。
特に初期には熱発時のみに出現しやすく、解熱時には消退するのは特徴である。掻痒感が少ないので患者自身も気がつかないこともある。疾患が長期化すると湿疹は黒味を帯びて消退しにくくなる。
検査所見としては、白血球(特に好中球)増多(10000/ul以上)、高度の炎症所見、肝機能障害(約80%の症例で見られ、AST、ALTが100~300IU/l程度まで上昇する)、高フェリチン血症が重要であり、また自己抗体は一般に陰性です。
厚生省研究班のAOSD137例の調査によると、血清フェリチンの高値は92%に認められ、しかも正常上限の5倍以上が75%、10倍以上という高値でさえ60%に達したとしている。
画像所見では特異的な所見はないが、ガリウムシンチで約半数の例で骨髄に集積増加が認められます。
活動性が高い症例では、汎血球減少、DIC、フェリチンの著明な高値、著明な肝障害、骨髄での血球貧食像などを特徴とするマクロファージ活性化症候群を呈することがあり、この場合、難治性で予後不良になりやすいです。
成人Still病を発症した方のブログhttp://bird.way-nifty.com/diary/2004/10/post_8.html も参考になればと思います。
本日は以上です。