不明熱のアプローチ②~推奨される検査~



不明熱の患者に対してやみくもに検査をするのではなく、できれば合理的に検査を進めていきたいものです。不明熱の原因は様々で、年齢、性別、症状、経過などから考えうる鑑別疾患によって特異的に進めていくことが望ましいですが、不明熱診療に関わることに慣れていない医師にとってはなかなか難しいかもしれません。『不明熱』にカテゴライズされた患者に対してどのような検査を進めていけばいいでしょうか?参考になるアプローチとして一つの文献【1】をご紹介します。



不明熱の原因

ご紹介するStudy【1】は1950年代のものから1990年代にかけての不明熱患者について調べた11のstudyをまとめたもので約40年にもわたるデータを蓄積したものです。そのFUO患者1000人を超えるメタアナリシスによると不明熱の原因は『診断がつかない』19%、『感染症』28%、『炎症性疾患/膠原病』21%、『悪性腫瘍』17%、『DVT』3%、『高齢者の側頭動脈炎』16-17%という結果で感染症は結核や腹腔内膿瘍、腫瘍はリンパ腫、高齢者では側頭動脈炎が多いとの報告でした。


時代背景や設備、国や地域、施設、診療科によって不明熱として紹介となる患者群は異なり、どのように診断をつけたのかも疑問もあるところですが、最初にお話したように『参考程度』に考えてもらえればと思います。こうしたFUO疾患割合に対して考案されたアプローチが下記のようなものです。


A. 最小限必要な検査

FUOの患者に対してまず最初にやるべき事として表1が推奨されています。その上で熱型もfollowし、真の不明熱であるならばBのアルゴリズムに進みます



救急医の挑戦 in 宮崎


(表1 FUOに対する最小限の検査 文献1より引用)



FUOを主訴に来院される患者への問診で最初に確認すべきことは『本当に不明熱なのか』ということです。客観的に評価する目的で毎日体温をチェックすることは大切です。熱型(※)については有用な情報は得られないと考えられています【2】。薬剤熱は不明熱の原因として頻度が高く可能であるならば中止を考慮します。半減期の長いもので1週間程度持続するものも知られていますが、多くは中止後72時間以内に解熱することで診断できます(→薬剤熱の項を参考)。



※熱型からの絞り込み

発熱パターンの日内変動から間欠熱、弛張熱、稽留熱という分類があります。


稽留熱(continuous fever)

一日の体温差が1℃以内で、38℃以上の高熱が持続するもの
弛張熱(remittent fever)

一日の体温差が1℃以上の変化をとるが、37℃以下にまでは下がらないもの
間欠熱(intermittent fever)

一日の体温差が1℃以上の変化をとり、37℃以下にまで下がるもの


上記の古典的な熱型分類の他にも下記のようなところを注目することが大切です。


①Morning temperature spike

普通の発熱患者は夕方にピークを迎えるが、朝にピークを迎える疾患として、チフス、結核、結節性多発動脈炎が知られています。


②Pulse-Temperature dissociation(→バイタルサインの項を参考)

39℃でHR100回/分以下、40℃で120回/分以下を比較的徐脈といいます。
薬剤熱、マラリア、チフス、リンパ腫、中枢神経疾患、レジオネラなど。比較的頻脈には敗血症以外に肺塞栓も考慮。


③二峰性熱
成人スティル病、粟粒結核、マラリア重感染


④周期性発熱

家族性地中海熱



こうした所見だけではなんともいえないかもしれませんが、他の所見と合わせて考えることで有用性(LR)が高くなると考えています。熱型をみる上で一番大事なことは熱型を含めた患者さんの全身状態が悪化してきているのか、変化ないのか、改善傾向にあるのかを判断することです。基本的に細菌感染症を放置していれば状態は悪化します。熱型にも現れてくることが多いですが、はっきりとでてこないこともありますので、型だけに頼らないで患者さんの状態に変化がないか確認することが何よりも大切です。



B. 不明熱のアルゴリズム


① 不必要な薬剤の中止→72時間以内に解熱すれば薬剤熱
② 腹部CT検査
③ 核医学検査
④ 感染性心内膜炎は疑われるか?
Yes→Duke基準にそって診断、除外を行う
No→⑤下肢超音波検査
⑥ 50歳以上
Yes→側頭動脈生検
No→⑦
⑦ 臨床状態は悪化しているか?
Yes→肝生検
No→経過観察
(FUOアルゴリズム 文献1を参考に作成)




それぞれ何故その検査が必要かについては下記でお話します。



腹部CT検査
不明熱の原因として多い腹腔内膿瘍、悪性リンパ腫の診断のために行うことが推奨されています。


核医学検査
99m-Tcスキャンは特異度は93-94%と高いですが、感度は40-75%と低いと報告されています。Ga67スキャンはまだあまり検討されていませんが、FUOの患者20例の報告では感染巣同定の感度67%、特異度78%という結果でした【3】。Inclusionクライテリアを厳格に設定する事によって感度はもう少し高くなると思われます。


Duke 基準
感染性心内膜炎は1-5%をしめる重要な原因のひとつです。FUO患者100例(最終的には感染性心内膜炎が否定された患者100例)におけるDuke 基準の特異度は99%と非常に高いと報告されていますが、そもそもDuke基準で確実例になるのは稀であり、研究のデザインとしては特異度が高くなる傾向にあります【4】。また、感染性心内膜炎の確定診断を外科手術や剖検、グラム染色や培養で弁の疣贅や末梢の塞栓から細菌学的に証明されたものをGold standardとした研究おいてDuke基準の感度は82%と報告されています【5】。一方で経胸心エコー単独の感度は44 %、経食道心エコーの感度は94%との報告もあります【6】。



救急医の挑戦 in 宮崎
(Dukeの基準)



(確実)

大項目2つ/ 大項目1つ+小項目3つ/ 小項目5つ
(可能性大)

大項目1つ+小項目3つ/ 小項目3つ
(否定)

それ以外の説明しうる診断の確立/ 感染症治療薬で4日以内に症状が軽快/ 感染症治療薬の使用があっても4日以内の症例で外科手術時、解剖時に心内膜炎の所見なし




心内膜炎を否定するためにはDuke基準だけでは不十分。経食道エコーを組み合わせること



肝生検
肝生検の合併症は0.06-0.32%、死亡につながるのは0.009-0.12%と低率であり、FUOの診断に有意義である可能性があります。AST、ALTなどの肝機能が正常でも肝生検を施行すると肉芽腫性病変を見つかることがあります。肉芽腫は非特異的な所見であり、その原因として感染症(結核、非定形抗酸菌、CMV、EBVなど)、非感染性炎症性疾患(サルコイドーシス、原発性胆汁性肝硬変)、悪性腫瘍(非ホジキンリンパ腫、ホジキン病)、薬剤性などがありますが、原因が特定できない場合もあります。いくかの検査によっても原因が明らかなでなく臨床症状が悪化傾向にあるならば考慮することが推奨されています。



側頭動脈生検

側頭動脈炎は高齢者の不明熱の16-17%を占めると報告されており、側頭動脈生検は合併症も少なく安全に施行できる外科処置です。カラードップラーエコーで側頭動脈の狭搾がないかどうかどうか確認することも特異度93%と報告されています【7】。



<側頭動脈炎/巨細胞動脈炎>

頻度の高いリウマチ性多発筋痛症(PMR)(→リウマチ性多発筋痛症)の15~30%に側頭動脈炎(TA)を合併し、側頭動脈炎の約50-90%でPMRがみられます。PMRとTAの原因はよく分かっていませんが、PMRだけだと思っても生検をしてみると10-15%の患者でTAを合併しています。オーバーラップするため同一疾患であるという見方もあります。

TAもPMRも50歳以上の患者に発症しますが、TAの初発症状として最も頻度の高いのは頭痛で診断時に約7割の患者で認めています。理学的には側頭動脈の肥厚、圧痛、結節状変化、拍動の減弱ないし消失が認められるとしていますが、約1/3の症例では側頭動脈に炎症性変化があっても触診上は正常です。咀嚼筋や側頭筋に血液を供給する血管の狭窄による虚血により、咀嚼したり長時間話たりしたときに疼痛をきたすことがあり『Jaw claudication』といいます。これはTAに比較的特徴的な所見です。また、内頚動脈の枝である眼動脈が冒されると虚血性視神経炎や網膜中心動脈閉塞症により視力障害や複視が生じ、進行すると失明の危険があります。血管炎が眼動脈に及ぶと眼底所見で視神経乳頭の虚血性変化などが観察されます。



中血管炎(PAN、川崎病)や大血管炎(側頭動脈炎、高安病)は発熱以外の症状がでないことも多い。



下肢超音波ドップラー検査
血栓性静脈炎が原因となることがあります(2-6%)。欧米に比較して日本の深部静脈血栓症のリスクは少ないですが、簡単に施行できる検査であるため不明熱の検査として推奨されています。



<推奨されない検査>

骨髄培養:感度が0-2%と低いためFUOの原因検査のためには推奨されていません。


<意義がまだ未確定の検査>

Empiric therapy
抗生剤、抗結核薬、ステロイドによるEmpiric therapyのFUOに対する効果は検討されていません。実際にはよく行われていることでありますが、基本的には診断を曖昧にさせるだけなのでエンピリックに投与することはありません。ただし『よくわからないから』という理由ではなく明確な意志をもって投与するのであればこの限りではないと考えています。成人スティル病の皮疹やPMRは低用量ステロイドに対して良好な反応を示します。




参考文献

1) Ophyr Mourad, et al: A Comprehensive Evidence-Based Approach to Fever of Unknown Origin, Arch Intern Med 163, 545-551, 2003

2) Musher DM, et al: Fever patterns. The lack of clinical significance, Arch Intern Med 139, 1225-1228, 1979

3) Meller JAltenvoerde, et al: Fever of unknown origin: prospective comparison of [18F]FDG imaging with a double-head coincidence camera and gallium-67 citrate SPET, Eur J Nucl Med 27,1617-1625, 2000

4) Hoen B, et al: The Duke criteria for diagnosing infective endocarditis are specific: analysis of 100 patients with acute fever or fever of unknown origin, Clin Infect Dis 23, 298-302, 1996

5) Hoen B, et al: Evaluation of the Duke criteria versus the Beth Israel criteria for the diagnosis of infective endocarditis, Clin Infect Dis 21, 905-909, 1995

6) Shively BK, et al: Diagnostic value of transesophageal compared with transthoracic echocardiography in infective endocarditis, J AM Coll Cardiol 18, 391-397, 1991

7) Schmidt WAKraft: Color duplex ultrasonography in the diagnosis of temporal arteritis, N Engl J Med, 337, 1336- 1342, 1997

8) TED D. EPPERLY COL, et al; Polymyalgia Rheumatica and Temporal Arteritis, Am Fam Physician 15, 789-796, 2000

PMRとTAについてのまとまったレビュー

9) Gary S. Firestein, et al: KELLEY’S Textbook of Rgeumatology Ninth Edition, ELSEVIER SAUNDERS, 2011