さて、本日も研修医の先生に向けて『頭痛のアプローチ』を簡単にお話してみようと思います。


頭痛』を主訴に来る患者さんは多いですよね。米国では毎年300万人の患者さんが『頭痛』でERを受診されます。さらに、他の疾患に付随して『頭痛』を訴える場合(発熱と頭痛など)もあり、最もcommonな症状のひとつになっています。


日本の頭痛人口は約3000万人ともいわれ、外来初診患者さんの約10%が頭痛とも言われています。


とてもcommonな頭痛なのですが、中にはとても怖い疾患が隠されています。ご存じ『クモ膜下出血』がとても良く知られていますね。救急初期診療での『クモ膜下出血の見逃し』での裁判も何件も起きています。




その辺りのお話は別の機会にするとして、本日は『頭痛』の簡単な初期診療についてです。


・・・

 

まずは『頭痛』をprimary(1次性)secondary(2次性に分けて考えましょう。


primary headacheには、


migraine(片頭痛)

cluster(群発頭痛)

tension-type headache(緊張型頭痛)


に大きく分けることができます。国際頭痛学会(IHS)の国際頭痛分類基準をみるとさらに細かいカテゴリー分類をされていますが、プライマリーケアレベルでは上記3疾患を区別できればよいとしています。


少し細かく見ていきましょう。『migraine


原因は未だによくわかっていない部分が多いです。昔から脳血管の収縮による症状(後述する前兆)と拡張による拍動性頭痛が原因と考えられていた。事実、セロトニン作動薬(トリプタン製剤)を使用することで、血管収縮することは片頭痛の治療として証明されています。


しかしながらこれだけでは説明つかない部分も多く、脳底部異常や三叉神経に関するものなどの関与も示されている。


臨床的には前兆(aura)のあるものとないものに分かれます。auraは頭痛に先行ないし、随伴ずる神経局在症状をいいます。通常5-20分にわたり徐々に進展し、かつ持続時間が60分未満可逆性神経局在症状のことを言います。典型的前兆には視覚(閃輝暗点)、感覚(チクチクした感じ)、言語症状(失語など)が含まれる。


『閃輝暗点』とは目の中でキラキラしたもの(閃輝)が出現し、もとのところが見えにくくなる(暗点)ことをいいます。


典型的な片頭痛の像は『痛みに耐えられず仕事を休み、音光過敏を恐れて、暗い静かな部屋の片隅で動かずにじっとしている。そして一晩ぐっすり寝ると治る』というものです。


動いたりすると増悪する点は緊張型頭痛と異なっています。


前兆のない片頭痛』の診断基準をみてみましょう。


A: B-Eを満たす頭痛発作が少なくとも5回以上ある

B: 頭痛の持続時間は4-72時間

C: 以下の特徴の少なくとも2項目を満たす

  1 片側性 

  2 拍動性

  3 中等度から重度の頭痛

  4 日常的な動作により頭痛が増悪


D: 頭痛発作中に少なくとも以下のどちらかを満たす

 1 悪心または嘔吐

 2 光過敏および音過敏


E: その他の疾患によらない。



このようになっています。覚えきれない場合は『POUNDingと記憶しておくのも良いでしょう。


P: Pulsating

O: hOur duration 4-72h

U: Unilateral

N: Nausea

D: Disabling








何を示したかったかというと、実は緊張型頭痛や群発頭痛もそうなのですが、その他の疾患でないことをしっかりrule outする必要があるのです


つまりprimary headacheはあくまで臨床診断であって、頭部CTや血液検査で決定できるものではないのです。しっかりとsecondary headacheの可能性がないか除外した上で診断できるのです。


では、secondary headacheにはどんなものが含まれるのでしょうか?これには頭頸部の疾患のみならず、薬物、内分泌、精神疾患も含まれます。


頭頸部では頭蓋内疾患、頭蓋外(頚部、眼、耳、副鼻腔、歯、口腔など)の疾患,すべてが対象となります。


そうして、secondary headacheを否定してはじめてprimary headacheの診断がつけられるのです


・・・・・


ここまで話が長くなってしまいました。本当はtension-type headacheやclusterについてもお話したいのですが、それは別の機会にします。



最後にsencondary headacheの中でも見逃せない疾患についてです。



V(Vascular):次のように整理しておきましょう。


頸の主幹血管の出血/梗塞:椎骨/内頚動脈解離→SAH、脳梗塞

頭の主幹動脈の出血:くも膜下出血(SAH)

頭の穿通枝からの出血:脳出血

静脈の梗塞:脳静脈洞血栓症

下垂体の梗塞/出血:下垂体卒中

脳浮腫:高血圧性脳症(PRES:可逆性白質脳症など)



I(Inflammatory):髄膜炎、脳膿瘍


N(Neoplasm):脳腫瘍


I(Idiopathic, Intoxication):緑内障、CO中毒


A(Autoimmune):側頭動脈炎


T(Trauma):硬膜外(下)血腫


Vascularの否定のためにはCTだけでは否定できません。MRIが重要になってきます。


脳静脈洞血栓症について→ http://www.treatneuro.com/archives/100

若~中年、数日~数週間で徐々に増悪、頭痛に加えて痙攣、意識変容、多発出血性梗塞などで疑います。


椎骨動脈解離の症例

http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/doctors/info/mag/nm/pitfall/201203/523996.html

NEJMのレビュー

http://odsarti05.webs.com/diseccion%20review.pdf


脳へは心臓から太い動脈が4本、首の前面を通る左右の内頚動脈、頚椎の椎間孔を通る左右の椎骨動脈が脳へ血液を運んでいます。これらは頭蓋骨を貫いた後、脳底部に到達し脳に到達した動脈は、脳底部でくも膜下腔の脳脊髄液の中を通り、脳の表面を囲みながら脳実質へと枝分かれして血流を供給しています。



救急医の挑戦 in 宮崎


下垂体卒中は『sudden onset』や『worst headache』というプレゼンテーションからSAHに間違われやすい疾患です。多くは腺腫に起こる卒中(出血や出血性梗塞)ですが、容積が急速に増大することによる視野欠損(視交叉圧迫)や複視、眼瞼下垂、瞳孔散大(海綿静脈洞内のⅢ、Ⅳ、Ⅵを圧迫)の症状が突然の頭痛や嘔気に加えて認めることが特徴です。時に大出血を起こしくも膜下腔に拡がることもあります。大抵はCTでは描出困難なことが多く、MRIが有用です。





救急医の挑戦 in 宮崎


高血圧性脳症』は急激または著しい血圧上昇により脳血流の自動調節能が破綻し、必要以上の血流量と圧のために脳浮腫を生じる状態です。長期の高血圧者では220/110mmHg以上、正常血圧者では160/100mmHg以上で発症しやすいと言われています。頭痛、悪心・嘔吐、意識障害、痙攣などを伴い、巣症状は稀であると言われています。


PRES:Posterior Reversible Encephalopathy Syndrome:可逆性白質脳症』ではMRIの典型的な所見として90-98%に後頭葉から頭頂葉にかけて高信号域(T2/Flair)が描出されます。そのため痙攣や視力障害、意識障害などを認めることもあります。


高血圧と頭痛を訴えて来院される患者さんは多いですね。頭痛以外に嘔気や他の神経障害がないかしっかりチェックすることが大切です。



本日は以上です。