先日入院となった『気管支喘息 重積発作』の患者さんですが、いわゆる挿管の適応であったのですが、『NPPV』の装着で挿管回避し、軽快してきています。


COPDの急性増悪や心原性肺水腫などには『非常に強いエビデンス』があり、挿管回避や死亡率の低下、VAPの予防などの報告例が蓄積されてきています。


NPPVについて簡単におさらいしてみましょう。


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『NPPV』にはIPAPEPAPがあり、IPAPからEPAPを引いたものが人工呼吸器でいうPSにあたります。またEPAPがPEEPにあたります。


TVを6ml/kgになるようにIPAPを上げていきます。喘息では気道抵抗が増大して吸気、呼気ともに仕事量が増大していますが、特に呼気が通常の呼気時間では吐ききれず、肺胞内に留まり、呼気終末でも陽圧を示すになります。これを内因性PEEP(autoPEEP)といいます。


自発呼吸下の患者さんでは自分で呼気時間を延長して対処しますが、ちなみに機械的人工呼吸下では呼気時間の延長が不可能となります。


内因性PEEPの発生は大きな一回換気量、多い呼吸回数、大きなI/E比でみられるため、喘息の時の人工呼吸器の設定は①小さな換気量で②少ない呼吸回数、③I/E比を小さくすることとされ、PEEPは禁忌といわれています。


喘息でNPPVは『強いエビデンス』となっていますが、IPAPによる換気量の増加が寄与していると思われます。


実際この症例もNPPV開始数時間後には呼吸回数が減りPaO2はあまり変化していませんが、PaCO2が減少し本人も『楽になった』とお話されておりました。


喘息の患者さんが挿管になる場合はかなりの過換気に関わらず、PaCO2が高い。普通の人は過換気になるとPaCO2が下がる筈なのに正常もしくは上昇している場合は肺胞内の死腔が増えて有効な換気量が得られていないと考えられます


これをそのまま放っておくと、さらに死腔も増大し、呼吸数で代償できなくなればPaO2も下がり、『挿管しよう』となります。肺胞換気量は(1回換気量-死腔)×呼吸数です)


急性期からNIPPVを装着してIPAPによる有効な換気が得られればしばらくステロイドが効いてくるまでの時間かせぎをすることができます。


気管挿管しなくても良い場合があるということです。


NPPVのデメリットとして吸痰が困難であること、嘔吐や誤嚥に注意すること、常に気管挿管の準備が必要など、『気管挿管しないこと』が最大のメリットであり、『気管挿管で得られること』がデメリットと言えます。



・・・・NPPVの話題はこれくらいですが、次に喘息の治療薬である『アミノフィリン』についてです。


もうほとんどの施設で使用されなくなっていたと思っていました。


多くのstudyでβ2刺激薬吸入群とβ2刺激薬吸入+アミノフィリン点滴群で両者に違いはないばかりか、嘔吐や動悸、不整脈などの副作用が多かったとの結果がでています。

http://www2.cochrane.org/reviews/en/ab002742.html


もちろん使用してはいけない薬剤ではありません(ガイドラインにも記載がありますので)が、テオフィン内服患者とそうでない場合、内服患者でも最後の内服からの経過時間によって推奨される初期投与量が異なり、またマクロライドやニューキノロンなどの抗生剤はアミノフィリンの血中濃度を上げるので、アミノフィリンの投与量を減らす必要があり、少し煩雑なのです。


次に『抗コリン薬』についてです。コントロール群のβ2刺激薬のdoseが足りないのでは?という懸念もありますが、β2刺激薬に追加して使用することで入院率を低下させ、やPEF、FEV1を改善させることが示されています。(ただし、入院して全身性ステロイドを使用している群に追加して使用しても入院期間を短縮させるなどの効果は示されていません。入院期間の短縮をアウトカムした場合はやはり、気道の炎症を抑えるステロイドが重要なのです。)

http://thorax.bmj.com/content/60/9/740.full.pdf


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最後に『ステロイド』に関してです。


以前の気管支喘息についての記事です

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-10965529288.html


GINAのガイドラインにある通り、経口でも静注射でも効果は変わりないとの結論になっています。

http://www.ginasthma.org/guidelines-gina-report-global-strategy-for-asthma.html


投与量に関してはメチルプレドニゾロンを80mgから360㎎以上と増やしても効果は変わらなかったとしています。むしろ投与量が多くなればなるほど副作用も増加することに注意が必要です。


コハク酸ステロイド(ハイドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン)はアスピリン喘息の患者さんではアレルギーを誘発するので禁忌です。特にワンショットで呼吸停止の報告もありますので、注意してください。


アスピリン喘息がはっきりしていればリン酸エステルのステロイド(デカドロン、リンデロン)は安全に使用可能であるのでデカドロンを4-8㎎点滴します。


ちなみにアスピリン喘息は下図のようにアスピリンや他の酸性NSAIDsがアラキドン酸カスケードにおいてシクロオキシゲナーゼを阻害することでLT合成系に流れてしまうことで喘息が誘発されると考えられています。内服後通常は1時間以内に発症しますが、IgEが関与する1型アレルギー反応ではないのです。LTも様々な種類といろいろな作用がありますが、気管支収縮作用を有しています。そのため喘息の治療にLT拮抗薬を使用するのですね。


2番目の表のように特にCOX-1を阻害してしまう作用の強い酸性NSAIDsを避け、塩基性NSAIDsや選択的COX2阻害薬、アセトアミノフェンが比較的安全に使用できると考えられています。


救急医の挑戦 in 宮崎
救急医の挑戦 in 宮崎




アスピリン喘息について

http://medical.radionikkei.jp/premium/entry-170013.html  


ステロイドの早期効果としてβ2受容体のup-regulationによりβ2刺激薬の感受性を上げることができるというのも大事な作用です。この効果を期待するために点滴内に混注して使用するのではなく(混注は時間がかかりますよね)、溶媒に溶かして使用しますが、上記の理由でワンショットはしません。


投与期間は7-10日間ほどで落ち着くことがほとんどなので、漸減せずにそのまま止めても問題ないだろうと言われています。(いくつかのstudyで7-10日間使用した後に突然中止した群と漸減中止した群で肺機能や再発率に変化はないと報告されています)


ただし慢性的にステロイドを内服している場合や高容量のステロイドを吸入していて副腎機能不全が予想される場合は注意しなければいけません。


COPDとステロイドについてはこちらの記事へ
http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11369520272.html