前回『多形紅斑』のお話が少しでましたので、今回はそれについてのお話。

まずは写真を御覧ください



救急医の挑戦 in 宮崎


多形紅斑erythema multiforme(EM)』は多形滲出性紅斑(erythema exsudativem multiforme)ともいいます。やや隆起する10mm大程の特徴的な環状浮腫性紅斑が関節伸側部や手背などに左右対称性に多発します。


紅斑の中心は陥没して特的な標的状(target lesion)となります。感染症(ヘルペスやマイコプラズマ)や薬剤に対する免疫アレルギーが主な病因です


主に皮膚のみに病変が限局するものをEM Minorといい、全身症状が強く、粘膜病変を有するものをEM Majorという。EM MajorにはStevens-Johnson症候群も含まれます。両者は移行性があり、中間型も存在することから、同一の病態と考えられています。


最初は小さな発疹が段々中から外へと広がっていきます。(発疹の経過も大事です)


EM Minorであれば心配いりませんが、EM Majorは怖いStevens-Johnson症候群(SjS)への移行もありますので注意が必要です。


薬疹であるか否かは、これだけではなんとも言えませんが、薬疹の場合はかゆみを伴うことが多いようです。またウイルスの場合はかゆみを訴えられません。膚科医でない非専門医の先生にとってはSjSを含めた『重症薬疹』を理解しておく必要があります。


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薬疹の重症度は皮疹、粘膜疹の面積、特に水疱やびらんなどの表皮の壊死性病変範囲やその進行速度のほか、発熱や他臓器の程度によって判定され、紅皮症、SjS、中毒性表皮壊死症(TEN)、薬剤性過敏症症候群(DIHS:drug induced hypersensitivity syndrome)、急性汎発性発疹性膿胞症の臨床病型を呈することが多い。特にSjS,TEN,DIHSは命にかかわる重症薬疹であります。


【SjSの診断基準】
発熱を伴う口唇、眼粘膜、外陰部などの皮膚粘膜移行部における重症の粘膜疹、皮膚の紅斑でしばしば水疱、表皮剥離などの表皮壊死性障害を認める。原因の多くは薬剤である。

① 皮膚粘膜移行部の重篤な粘膜病変(出血性あるいは充血性)がみられること
② しばしば認められるびらんもしくは水疱は体表面積の10%未満
発熱
主要3項目すべてを満たす場合はSjSと診断する


【TENの診断基準】
広範囲な紅斑と全身の10%以上の水疱、表皮剥離、びらんなどの顕著な表皮の壊死性障害を認め、高熱と粘膜疹を伴う。原因の大部分は医薬品である。
① 体表面積の10%を超える水疱、表皮剥離、びらん
② SSSSを除外できる
 発熱
主要3項目すべてを満たす場合はTENと診断
治療等の修飾により体表面積の10%に達しなかったものを不完全型


【DIHSの診断基準】
高熱と臓器障害を伴う薬疹で、薬剤中止後も遷延化する。多くの場合発症2-3週間後にHHV-6の再活性化を生じる
① 限られた薬剤投与後2~6週に遅発性に生じ、急速拡大する紅斑。初期には紅斑丘疹、多形紅斑でしばしば紅皮症に移行
② 原因薬剤中止後も2週間以上遷延
38℃以上の発熱
肝機能障害
⑤ 血液学的異常:次のうち一つ以上 a.白血球増加(11000以上)、b.異型リンパ球の出現(5%以上)、c.好酸球増多(1500以上)
リンパ節腫脹
HHV-6再活性化
典型的DIHS:①-⑦のすべて  非典型的DIHS:①‐⑤のすべて、ただし④に関してはその他の重篤な臓器障害をもって代えることができる



救急医の挑戦 in 宮崎
(DIHSの画像)


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【診断過程】
① 薬疹は多様性に富み多彩である。しかし多くの薬疹は以下の特徴をもつ
皮疹の主な病型は多型紅斑、紅皮症、播種状紅斑丘疹、蕁麻疹型、固定薬疹で汎発性、左右対称性、突発性、急性の経過ただし限局性、左右非対称、慢性の経過であっても薬疹の可能性はある



救急医の挑戦 in 宮崎
(google画像より)


紅斑丘疹型は薬疹で最も多い型。播種状になると体幹を中心に左右対称性に掻痒を伴う紅斑や丘疹が多発する。


② 薬歴を正確にとることは重要である。最近始めた薬はないというだけでは薬疹を否定することにはならない。投薬開始から薬疹発症に様々なパターンがあることを認識しておく必要がある。
DIHS:2-6週間経過後が多い


薬剤を中止すれば発疹は速やかに消退することが多い。しかし症状が遷延、悪化してもすぐに薬疹を否定しない。


③ 重症薬疹の可能性があるか考慮する
初診時に軽症にみえても重症薬疹に進展する
可能性を念頭において診察する。SjS,TEN,DIHSは急速に進行し薬剤を中止しても悪化することが多く、発症初期を見逃さないことが非常に重要。皮疹が軽微でも重症薬疹を疑う兆候として、発熱は重要。初発症状のこともあり、
多くの場合は38度を超えている。


DIHSは原因薬剤が抗痙攣薬、ジアフェニルスルホン、サラゾスルファピリジン、アロプリノール、ミノサイクリン、メキシレチンにほぼ限定されるため、内服薬が明らかになれば疑いやすい。なかでも原因薬剤が抗痙攣薬の症例が多い。抗痙攣薬を内服していて発疹が出てきたら内服開始が数年前であってもDIHSの可能性を考える。顔面の発赤、腫脹が高頻度で粘膜疹は少ない。


【鑑別疾患】
薬疹とウイルス性発疹症(麻疹、風疹、EB、パルボB19ウイルスなど)の鑑別は常に問題になるが臨床症状から鑑別することは難しい。通常、薬歴で疑わしい薬剤があれば薬疹として対処しつつ、ウイルスの検索も行う。ウイルス以外に溶連菌感染、リケッチア(ツツガムシ病、日本紅斑熱)との鑑別は重要である。特にリケッチア症は稀な疾患であるが治療の遅れは致命的。


SjSは薬剤性の他に単純疱疹やマイコプラズマ感染、膠原病でも発症するが、これらは薬剤性のものよりも軽微でEM majorの病型をとることが多い。TENではSSSSを除外する必要がある。


SjS,TENでは水痘、自己免疫性水疱症、GVHDなどが鑑別となる。


DIHSは病態にHHV-6、サイトメガロウイルス、HHV-7、EBウイルスなどの再活性化が関与しておりウイルス感染との鑑別は難しい。特にサラゾピリンによるDIHSでは異型リンパ球出現、単核球症、リンパ節腫脹など伝染性単核球症に酷似した症状を呈することがある。また悪性リンパ腫との鑑別を要することもある。


【検査】
他臓器障害、末梢血液像、炎症所見などを一般検査で確認する他、症状に合わせて前述した感染症の鑑別の検査を行う。DIHSを疑った場合はHHV-6、サイトメガロウイルスの抗体価を測定する
薬疹の診断、原因薬を簡単に確定できる検査はない。薬剤リンパ球刺激試験(DLST)は簡便だが、陽性率は40%程度で感度は高くない。疑陽性もありNSAIDs、造影剤、漢方薬、バンコマイシン、クロレラでは注意が必要。検査時期によっても結果は異なり、SjS,TENでは早期の方が陽性に出やすく、DIHSでは早期には陰性で一か月以降に再検すると陽性になっていることが多い。DLSTの結果を鵜呑みにしてはならない。


【初期対応】
① 被疑薬の中止、経過観察
重症薬疹の可能性が低ければ被疑薬を中止して改善するか外来で確認する。皮疹に対してはステロイド外用剤を用いる。Very strong-strongestのものをしっかり外用する。それで改善しなければ、他の原因を考える必要もある。


重症薬疹の可能性があれば投与薬剤をすべて中止し、入院して経過観察すべきである。抗痙攣薬は中止しずらい薬剤であるが、カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタールは重症薬疹を発症しやすく、さらにこの3剤は構造が類似し交叉反応を起こす。安易に抗痙攣薬を変更するよりは中止して経過をみることを勧める。


② 全身状態の管理、輸液
広範囲の皮膚炎では明らかなびらん、水疱を形成していなくとも水分、タンパク質の漏出は予想外に多い


③ 重症薬疹の治療
早期ステロイド大量投与はコンセンサスを得られつつある。しかし広範囲のびらん、水疱を伴うSjS,TEN、ウイルス感染に加え細菌感染が関与するDIHSではステロイド大量与は慎むべきである。

④ 皮膚科専門医にコンサルト


⑤ 眼科専門医にコンサルト
SjS、TENでは粘膜障害による失明、視力障害が問題になるので早急に眼科を受診する


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