今回は『不明熱』をテーマにお話してみようと思うのですが、これをテーマにすると全10回シリーズくらいで取り組まないととても話しきれる話題ではありません。本日は特に『感染性心内膜炎』に絞ってお話をしていこうと思います。



まず、不明熱の定義ですが、『38.3℃を越す体温が3週以上続き、1週間にわたる病院内での原因検索にもかかわらず熱の原因が不明なときに不明熱という』としています。


38.3℃を基準にしているのは近年の欧米のデータによるもので、口腔内体温の正常値が35.6℃~38.2℃までであったことに起因しています。

http://ameblo.jp/bfgkh628/entry-11138736696.html


3週間というのはウイルス感染を除外するためです。


単純に程度(38.3℃以上)と期間を取り上げているだけなので、そこに関わる医師や医療設備、また検索内容には言及していません。研修医と感染症内科の先生では検索にかかる期間も違って当然だと思います。


あまりこの定義に縛られる必要はありません。


ただ、大事な事はいわゆる『不明熱』といわれるようなグループをいち早く取り上げて(認知して)検索することで、より早期に治療することができるようになります


どの程度のワークアップを行った後にこの『不明熱』のカテゴリーに分類するかは、担当する医師によって異なってくると思います。


今から示す不明熱の鑑別診断の表は頻度別にまとめてあり、とても分かりやすい表になっています。この表は文献(Fever of unknown originclinical overview of classic and current concepts. Infect Dis Clin North Am. 214):867-9152007)にあるものを岡田正人先生が日本向けにまとめ直したものです。



高頻度

中頻度

低頻度

感染症

亜急性心内膜炎
腹腔内膿瘍
結核

EBウイルス
CM
(サイトメガロ)ウイルス

慢性副鼻腔炎
脊椎骨髄炎
乳頭洞炎
歯根膿瘍

腫瘍

悪性リンパ腫
腎臓癌

肝臓悪性腫瘍
白血病
大腸癌

脳腫瘍
心房粘液腫

膠原病

成人スティル病

高安病(若年)
側頭動脈炎(高齢)
リウマチ性多発筋痛症)

高齢発症関節リウマチ
SLE
顕微鏡的多発血管炎
結節性多発動脈炎(中高年)

Wegener肉芽腫症

その他

薬剤熱
アルコール性肝硬変

クローン病
甲状腺機能亢進症

肺塞栓
視床下部機能障害
自己炎症性症候群


膠原病といっても抗核抗体陽性の膠原病ではRASLEであり、他はFUOの原疾患としては稀です。


※自己炎症性症候群→ https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/97/2/97_438/_pdf

※家族性地中海熱(FMF)→ https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsci/34/5/34_5_355/_pdf


周期熱』がkey word。FMFの典型例は20歳未満の発症、半日~3日持続する発熱。発作時の漿膜炎(心膜炎、胸膜炎、腹膜炎)、関節炎(滑膜炎)を伴い、コルヒチンへの反応良好などが挙げられています。


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感染症であれば下記のように分類して考えます


膿瘍見えにくい:微小膿瘍、初期には検査でnegativeになることもあります。見えていない:肛門周囲膿瘍、歯根膿瘍、副鼻腔炎など。(CTで)見えない:骨髄炎)

血管内感染(心内膜炎、血栓性静脈炎、感染性動脈瘤)

細胞内寄生:HIV,結核、CMV、EBV、ウイルス


腫瘍は悪性リンパ腫白血病などの血液疾患と腎臓癌肝臓癌が多いです。


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勿論この限りではないと思います。きちんとhead to bottom アプローチをしていき明らかな熱源が示唆できない場合に限っての事です。褥創感染や肛門周囲膿瘍はきちんと診察すれば発見できますね。


感染症を専門にしない先生にとってはこれくらいを鑑別疾患として考慮できれば良いのではないかと個人的には考えています。


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さて、本題の『感染性心内膜炎』についてですが、不明熱の代表的疾患ですので、熟知しておく必要があります。


『感染性心内膜炎』ですから、弁を含む心内膜の感染症ですね。臨床像としては


①弁の破壊による心雑音、心機能低下

②心内膜の感染による発熱、菌血症、感染性動脈瘤、感染性梗塞(脳梗塞、心筋梗塞、各種膿瘍)

③免疫反応による脾腫、免疫複合体による腎炎皮疹


ですから、診断するには


①心内膜障害の証拠(vegetationの証明)⇒心エコー

②菌血症の証明 ⇒血液培養 

③間接所見としての血管病変(動脈塞栓、感染性肺梗塞、Janeway lesion、眼底のRoth斑)や免疫異常(Osler結節、糸球体腎炎、脾腫)を証明する⇒身体所見


となります。ここでDuke心内膜炎基準をみると理解できますね。これを覚えるのは難しいですが、このように理解しておくと良いでしょう。



しかしながら簡単には『感染性心内膜炎』と診断できない事も多いです。亡くなった後に解剖して心内膜の炎症を証明できれば『感染性心内膜炎』と言えるのですが、生きているときにこれを証明していく作業が必要になります。


つまり、『心エコー陰性』や『血液培養陰性』、『心雑音聴取しない』といった非典型例でも疑いを持ち続け、経過をみながら判断していくことが大事になります。


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『心エコー』に関しては経食道エコーは感度が良好ですが、心エコーでvegetationが見えることに依存しすぎない事が大事です。


ある報告では『確実に心内膜炎』と診断された症例の67%にしかvegetationを認めていないとしています。ただしいろいろな報告もあり、感度特異度ともに90%前後とするものもあります。(感度は経胸壁で60~80%、経食道で90%程度


『血液培養』は診断には不可欠であるので、疑った場合はしつこく採取し続けることが大事です。グラム陽性球菌が血液培養から検出されたら必ず本症を疑ってください。しかしながら血液培養陰性でも心エコー陽性で間接所見もあれば診断できます。


血液培養が陰性となる要因は抗菌薬の投与が最も最多です。


抗菌薬が長期間投与された場合は血液培養1-2週間陰性になる可能性があります。→繰り返し採取することが大切。


他には培養が難しい微生物としてHACEKといわれる口腔内・上咽頭のグラム陰性桿菌のグループ(HはHaemophilusです。)が2%程度の頻度です。検査室に最低3週間は続行するように依頼することが大切です。


起炎菌は黄色ブドウ球菌(32%)、緑色連鎖球菌(18%)、腸球菌(11%)、CNS(11%)、Streptococcus bovis(7%)、他の連鎖球菌(5%)、HACEK(2%)、非HACEKのグラム陰性桿菌(2%)です。


→グラム陽性球菌は弁膜に付着する能力が強いなどの特性によるもの。陰性桿菌は全体の4%程度。


他にも真菌やウイルス、リケッチアによる心内膜炎も知られており、感染性心内膜炎と総称している所以でもあります。


streptoccous bovis

腸管内常在菌。有名なのは本菌の菌血症と大腸癌の併発です。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsa/71/3/71_3_777/_pdf


大腸癌のある症例では本菌が結腸で増殖し、保菌状態となる。菌血症から心内膜炎の菌としても有名。ちなみに緑色連鎖球菌(streptococcous viridans)で口腔内常在菌。抜歯などに関連して心内膜炎を起こします。


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『心雑音』は逆流性のものが大事ですが、右心系の感染、心臓壁の感染、高齢者ではでないこともあります。また弁破壊の少ない心内膜炎の初期も雑音は当然少なくなります


心雑音の徴取しないI.Eは15%あると報告されています。


なかなか難しいですね。それが『感染性心内膜炎』です。


病歴で疑うことも大事です。大事な病歴は歯科処置(抜歯)、血管カテーテル検査、手術など菌血症状態になる処置の有無やもともとの弁疾患、人工弁置換後なども大事な要素になります。


ANCA陽性や糸球体腎炎でANCA関連腎炎様のプレゼンテーションで来院することもあります。


関節痛や筋肉痛、腰痛でPMR様のプレゼンテーションもあります。


http://romatizma.dergisi.org/text.php3?id=406


http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1001514/


RFが陽性になったり補体が低下したりします。


こうした腎炎やANCA、RF、皮疹、脾腫などは免疫反応の結果として起こります。


ちなみにOsler結節は指腹や母指球などにみられ圧痛を伴います。これは免疫複合体によるもので、塞栓症とは異なっています


一方で、Janeway lesionは手掌や足底にみられる塞栓ですが、これは圧痛がありません。



救急医の挑戦 in 宮崎


救急医の挑戦 in 宮崎

(splinter hemorrhage:爪下の線状出血)


眼球結膜の点状出血(conjunctival petechiae)や、眼底(Roth斑)、頬粘膜、口蓋などにも点状出血が認められます。