第2章 おわり
目覚まし時計の音でネコシッコは目を覚ました。
いや正確にはキーボードを手で押さえたらしく、Windowsのサウンドが鳴り響いていた。
「んんーーー」
ディスプレイを見ると、TeamSpeak3のチャットウィンドウへ、ジダーさんのメッセージが残っていた。
最初は返事のない彼女を心配した呼びかけだったが、寝落ちした事に気づいたらしく、風邪をひかないようにというメッセージを最後にログアウトしていた。
ジダーは心の優しいできる男である。
知り合って間もない頃、Techoooが「俺たちは気のいい変態集団だよ」って言った途端、ドン引きしてしまい、
「オバアサン、ニ、ヘンタイ、ヨクナイ、コトト、オシエテ、モライマシタ」
「ヘンタイ、ハ、ハンザイ、デス」
「Techoooサン、ダメ、ダメ」
と言い出してしまい、誤解を解くのに1時間以上かかったのはいい思い出だ。
そんなジダーさんは、ネコシッコのいびきがうるさかった事を指摘するような、空気の読めない男ではない、音声はきっちり録音してあったが。できる男である。
ただ普段のネコシッコは、そんなにいびきをかかない事だけはフォローしておこう。なにせ方鼻に柿ピーが詰まっていたのだ・・・いや詰める方がどうかという事も・・・。
幸い旦那は、忘年会で昨夜は帰ってきていない。スピード離婚の危機は回避されたのだ。
昨夜の出来事を思い出し、ネコシッコはスマホを手に持ったが、その手は止まっていた。
「警察に連絡するのはまだよ」
少し鼻声になった彼女は、もう一度事件を整理してみる。
被害者は40代前半の男性、熊本在住。
容疑者はSteamのチャット内容と連絡した相手を考えると、アメリカ人の可能性が高い。
そして容疑者のSteamアカウントを確認してみると、すでにドリチンはフレンド削除していた。
できるニューヨーカーだと思っていたが、彼は真相に気づいていないのかもしれない。
Steamアカウントの画像もTechoooのものと同じ・・・ん?
ネコシッコは気づいた、Steamアカウントの画像がTechoooのものと微妙に違うことに。
慌てて別ウインドウでブラウザを開き確認してみる。
TechoooのTwitchアカウントの画像と一致した。
容疑者はTwitch配信のリスナーだわ!
ネコシッコは確信し、700人以上のTwitchフォロワーをすべてチェックしたが、結局何もわからなかった。
真犯人をもう少しのところまで追いつめているのに、あと一歩及ばない。
ネコシッコはもどかしさを紛らわすように、柿ピーの袋に手を伸ばす。
とりあえず連絡の取れる人へ聞いてみる事にしよう。
Steam、Twitch、Twitter、Planetside2のゲーム内とTechoooに恨みを持つ外国人の手がかりを聞いてみる。
いっぱいいた・・・ちょっと特定できるレベルじゃない。
ドリチンは「多分Techoooを嫌いな中国人のイタズラだね」と言っていたが、これは事件なのだ!
一人の人間が殺されたのだ!
そして真相に一番近いところに私がいる。
Techoooの無念を晴らす事ができるのは私だけなのだ!
警察に連絡する前に、Any3とジダーさんにもう一度相談してみよう。
TeamSpeak3を起動する。
ジダーさんはいなかったが、Any3はいた。
きっとAny3も真相に気づいて捜査しているんだ!
「Any3どんな感じ?」
『こんばんは、んー新武器はもう使わない、毎回Techoooに騙されてる気がするし』
Any3は、この前実装されたLMG【Naginata】をTechoooに「これサイコーだわ♪買ったほうがいい」と教えられて買ったことを根に持っていたらしい。
「いや、新武器じゃなくてTechoooの事件のこと・・・」
『事件?なんかあったの?気になるならTwitterでメッセージでも送れば?』
『それに風邪ひいた?なんか鼻声だけど・・・』
ネコシッコは・・・忘れていた。Techoooに連絡を取ってみるという事を。
いや正確には忘れていたわけではない、捜査初期段階で連絡しようとしたのだが、容疑者にこちらの意図がバレてしまうのを恐れて連絡していなかったのだ。
「うん。連絡してみる」
恐る恐るTwitterアカウントへメッセージを送る彼女の手は震えていた。
慌てていたせいで、スマホの予測入力をそのまま送信してしまったのだが・・。
【今日は何時ごろになりそう?お風呂入ってキレイにしてから待ってるわ♪】
すぐにメッセージは返ってきた。
【あとでTS3に来る】
これは犯人だ!
ネコシッコは確信していた。いつもなら【キモイ】【くそビッチが】などという返事しか寄こさないTechoooが簡潔なメッセージを送ってきている。
ネコシッコの鼓動は高鳴っていた。貧乳が鼓動で波打つのではないかと下を見てみたが、そこには静かな平原が広がっていたのだが。
犯人とTS3で直接話すことになる。何から切り出すべきか?そもそも日本語が通じる相手なのだろうか?
緊張のあまりゲーム内では、ナイフを振り回しながら敵リスポンルームへ猛ダッシュしては、何度も死んでいる。
チャットウインドウには「あのナイフ野郎はなんなんだ!」というメッセージが流れているが、そんなことも気付かない。
その瞬間は突然訪れた。
「いやーゴメンゴメン久しぶりー、焼酎呑んでコタツ入ると気持ちよくて、すぐ寝ちゃうんだわー。そういや新武器出たんでしょ?Anyちゃん一緒に買おうぜー♪」
『いやです』
ネコシッコの左鼻から、スポッ!というかすかな音とともに湿った柿ピーが勢いよく飛び出して、泡盛シークヮーサーゴーヤ割りのグラスへと飛び込んだ。
グラスの氷がカランッと心地よい音を立てた。
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この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません